今回のピカイチ球論、まずは高校野球の話から始めましょう。大会新記録の68本のホームランが飛び出した今夏は"打高投低"と言われました。どのチームのバッターもバットをきちんと振れているな、という印象でしたね。しかもフォロースルーが大きく、高校生のフィジカルの進化を感じました。

 

 投手のレベルアップも感じた夏

 昔の高校球児と比べて今の高校生は体つきからして違います。私立の強豪校が増えて、トレーニング専門のコーチを雇うなど体力強化に力を入れた結果でしょう。こうなると公立高校との格差が広がっていくことが考えられます。今夏も公立高校でベスト8に残ったのは香川の三本松だけでした。

 

 さて打高投低、私高公低と言われた今大会ですが、私は守備に対する意識が薄くなっているなという印象を受けました。

 

 決勝戦、広陵(広島)と花咲徳栄(埼玉)の対戦でした。優勝した花咲徳栄と敗れた広陵の差は守備にあったと思います。花咲徳栄は好投手を2枚揃えて、それを中心とした守備力の高いチームでした。対する広陵は中村奨成選手のホームラン記録が話題になったように打力で勝ち上がってきた。決勝で広陵は中継プレーにミスが出たり、そうした部分が勝敗に表れたと思います。

 

 広陵に限らず1回戦から試合を見ていると、少し雑な守備が目に付きましたね。内野手はシングルハンドキャッチが多いのはいいんですが、その処理する位置が体の横なんです。何でもかんでも「正面に入れ!」とは言いませんが、イージーなゴロでも体の横でさばいていては、上のレベルで野球をするときに苦労すると思います。プロ野球でも守備の基本は地道な基礎練習の繰り返しと積み重ねです。近年の高校野球は「打って勝つ」をモットーにしたチームが目立ちますが、それでも基本は守備にあると思います。甲子園、高校野球が変わってきたな、という印象を受けましたが、今一度、基本にたち帰る必要があるのかもしれません。

 

 投低と言われましたが、投手のレベルアップは随所に感じられました。カーブ、スライダー、フォークと変化球もバラエティに富んでいました。特にチェンジアップを多投するピッチャーが増えましたね。チェンジアップは他の変化球に比べれば肩やヒジへの負担が格段に少なく、投手の将来を考えれば非常に有効な球種です。また多くのチームが投手の球数を意識して、負担を軽減しようとしているのも感じました。

 

 甲子園ベンチ枠拡大を

 そういう意味でも高校野球が変わってきたと思いますが、願わくばそれをもっと発展させるためにベンチ入り枠の拡大を検討してほしいですね。甲子園では先発完投が魅力ですが、終盤に失点が多いのは何よりも疲労が原因です。ベンチ枠を拡大して複数のピッチャーを揃えられれば、投手の負担も減るでしょう。またベンチ枠が増えれば、それだけ夢の舞台を体験できる選手が増えます。高校野球は部活動ですから、そろそろ一考する時期にきていると思います。

 

 いろいろと述べてきましたが、今年もふた桁背番号の選手の活躍があったり、いい大会でした。やっぱり高校野球はいいものだな、と再認識しました。

 

 最後にプロ野球に触れておきましょう。セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)争いに注目が集まっています。4位の巨人を含めて阪神、横浜DeNAの争いですが、巨人は勝率5割近くまで巻き返しましたが、ここから先が正念場です。勢いでいえばDeNAが上でしょう。首位・広島を3試合連続でうっちゃった辺り、実にDeNAらしい展開だなと思いました。この勢いが続くようなら、2位に浮上し、地元でCSファーストステージ開催も夢ではないでしょう。

 

 2位・阪神は首位も射程内ですが、それが吉と出るか凶と出るか。ローテーションを対広島を中心に組むのか、それとも3位以下を確実に叩くように組むのか。ランディ・メッセンジャーが骨折し、計算できる投手が秋山拓巳だけですから難しい選択ですね。いずれにしても25日からの阪神と巨人の3連戦はCS進出争いの大きな山場になります。

 

 広島は鈴木誠也が骨折リタイアしましたが、気になるのはリリーバーです。今村猛、中崎翔太、中田廉とゲーム終盤を任される3投手、いずれもカウントを取るボールと勝負球が同じ球種なんですよ。それでいて3人とも傾向として「真っ向勝負」を挑むタイプ。結果、投球パターンが単調になって打たれる、という場面がよく見られます。これから残り約30試合はゲーム終盤、リリーバーの勝負になります。もう一度、丁寧に低めを突く、打者のタイミングや打ち気を外すなど基本を思い出すことが大切ですね。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、エルマイラ・パイオニアーズ、オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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