7日、本拠地での阪神戦で先発したクリス・ジョンソンが味方の拙守にがっかりしたのか、マウンド上で頭を抱え込むシーンがあった。ピリッとしない自分自身への苛立ちもあったのだろう。

 

 昔の名投手は自分に対しても厳しかったが、野手に対しても厳しかった。たとえば江夏豊。2死からフライが上がると、野手がキャッチするのを確認する前にマウンドをスタスタと降りていた。特に広島に移籍してから、その傾向は強くなった。

 

 もちろん後ろなんて振り向かない。「もし、落球したら、どうするんですか?」と聞いたら「そんなヤツはプロにはおらんよ」と江夏は平然と答えた。

 

 当時、カープのショートを守っていた髙橋慶彦はファインプレーもすればエラーもした。「江夏さんが投げている時は緊張したのでは?」と問うと「落とすと殺されるよ」と笑い、こう続けた。「でも本当はやさしい人だけどね」

 

 中日の星野仙一は味方のエラーにグラブを叩きつけて悔しがったことがある。1981年8月の“ヘディング事件”だ。ショートの宇野勝がフライを頭に当て、打球はレフト方向へ。この珍プレーにより、完封の可能性が消えた。巨人の連続試合得点記録ストップに燃えていた星野が怒るのも無理からぬ話である。

 

 ジョンソンもしゃがみ込むくらいなら、星野のようにグラブを叩きつけた方がよかったのではないか。逆にその方が「このヤロー!」と野手も発奮するはずだ。いずれにしてもアマチュアじゃないのだから「ドンマイ! ドンマイ」と傷を舐め合うよりは、投手と野手の間に多少の緊張感はあった方がいい。

 

 それにしても カープの選手たちはたくましい。6対4と逆転勝ち。今季37度目の逆転勝ちである。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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