9日、第86回日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)2日目が福井運動公園陸上競技場で行われた。男子100m決勝は桐生祥秀(東洋大)が9秒98の日本新記録で優勝した。桐生は日本人初の9秒台(公認記録=追い風2m以下)をマーク。伊東浩司が樹立した日本記録を19年ぶりに塗り替えた。

 

 歴史の扉は開いた。9月9日、奇しくも9が並ぶ日に日本人初の100m9秒台は生まれた。数多の日本人スプリンターが跳ね返されてきた“10秒の壁”を突き破った。日本陸上界の歴史を変えたのは桐生だ。

 

 1998年に伊東がタイ・バンコクで当時の日本記録10秒00を叩き出したとき、日本人の9秒台はすぐそこだと思われていた。しかし、伊東を含め日本人スプリンターたちは10秒0台はマークするものの、20年近く日本記録は止まったままだった。

 

 近年は9秒台への期待が高まり、いつ出るか時間の問題だと言われていた。特に2015年の桐生、今年のケンブリッジ飛鳥(NIKE)と多田修平(関西学院大)が参考記録(追い風2.1m以上)ながらレースで9秒台は経験しており、あとは公認記録での到達を待つばかりだった。

 

 桐生は前日の予選、準決勝を順当にクリアした桐生。今年の世界選手権で桐生と共に400mリレーの銅メダルに貢献した多田と決勝へと進んだ。抜群のスタートダッシュを武器に今シーズン大ブレイクした多田には日本選手権で先着を許している。桐生は中盤からの加速で逆転を狙うのが勝ちパターンだ。

 

 迎えた決勝は予想通りの展開となった。スタートは多田が先行。桐生は追いかける。中盤からぐんぐん伸びて、多田を抜き去った。追い風は1.8m。快走する桐生の背中を押した。最後までフォームが大きく崩れることはなく、先頭でフィニッシュラインを通過した。

 

 速報タイムは9秒99ーー。19年前は正式タイムで0秒01加算され10秒00となった日本記録。会場内すべての視線が注がれる中、表示された記録は9秒98だった。桐生はそれを確認すると飛び上がって喜びの感情を爆発させた。

 

 13年4月、丸刈りの高校3年生が叩き出した日本歴代2位の10秒01は日本中を驚かせた。日本人初の9秒台を期待されたが、ケガにも悩まされた。翌年の日本選手権を制したが、15年は欠場。以降優勝から遠ざかり、今年の世界選手権は個人種目での代表入りを逃した。

 

 昨年のリオデジャネイロ五輪、今年の世界選手権では400mリレーでメダル獲得に貢献したものの、内心は忸怩たる思いがあったのだろう。「4年間くすぶっていた自己ベストを更新することができた」。9秒98が表示された時のリアクションは“どうだ見たか!”とアピールしているようにも映った。

 

「やっと世界のスタートラインに立てた」

 本人が口にするように9秒台到達が終着駅ではない。目標である世界大会のファイナリストになるためにはコンスタントに9秒台を出せる走力、その負荷に耐えられる身体づくりが必要となってくる。

 

(文/杉浦泰介)