傷ましい、の一言だ。5月のDDT豊中大会で頸椎損傷の重傷を負った高山善廣の術後の状況が極めて深刻であることが、石原真マネジャーの報告によって明らかになった。手術直後は「意識はあるが首から下の感覚がなく、人工呼吸器をつけて呼吸をする状態」。現在は呼吸器もはずれ、自分で呼吸できる状態にまで回復したが、「首から下の感覚は戻っていない」。衝撃だったのは次の説明だ。「お医者様からは頸椎完全損傷、回復の見込みは現状ないと言われている」


 プロレスラーのリング禍は深刻だ。2001年10月、FMWのエース・ハヤブサ(故人)は後楽園ホールでの試合中にロープから足を滑らせ、後ろ向きに首からキャンバスに突っ込んだ。頸椎を損傷したハヤブサは仰向けになったままピクリとも動かなかった。担架に乗せられ、救急車で病院に直行。闘病日数は525日に及んだ。その後、プロレス関連のイベントに顔を見せたりしていたが、16年3月、くも膜下出血のため他界した。


 ハヤブサの事故から約8年後、NOAHの社長兼花形レスラー三沢光晴が、試合中にくらったバックドロップが原因で心肺停止状態に陥り、そのまま帰らぬ人となった。死因は「頸髄離断」だった。


 この死因に疑問を呈したのが新日本プロレスの元リングドクター富家孝だった。「頚髄は神経回路で心臓は循環器系ですから、普通、神経が離断してもすぐに心臓が止まることはない。僕は循環器系に重大な疾患、たとえば不整脈のようなものがあって、それが頭部を強打した衝撃で心不全を起こしたのではないかと見ている」。体は疲弊し切っていたのだ。


「バックドロップをくらう前に三沢さんの意識がとんでいたんじゃないか」。そう語ったのはプロレスラーの蝶野正洋だ。「プロレスラーって、意識がもうろうとしていても本能的に戦っちゃう生き物ですから」。その蝶野は自らの出演番組で高山の事故について触れ、「使う側が見極めて、規制を作らないと止めようがない」と語っていた。


 プロレスにはリングドクター不在の試合もある。民間の興行団体にどこまで権限が及ぶかどうかわからないが、これだけリング禍が相次いでいる以上、スポーツ庁は適切な行政指導を行うべきだろう。団体も実効性のある再発防止策を早急に提示して欲しい。リング禍を最少限にとどめるためにも。

 

<この原稿は2017年9月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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