2014年春、河本結は茨城県に寮のある通信制のウェルネス高校へ進学した。基礎をつくったゴルフスタジオ・アンフィーを、そして生まれ育った愛媛県を離れた。しかし、茨城での生活は長くは続かなかった――。

 

 同級生からの刺激

 

 通信制で学校に通わなくていいため、自らでコントロールできる時間はたくさんあった。だが持て余す時間の方が多く、どこか物足りなさを感じたのは事実だった。「メリハリがなかったんです」。それがゴルフのための選択だったとはいえ、自らの視野が狭くならないかとの不安もあったのだろう。河本は「今よりゴルフの時間を削ることになるかもしれないけど全日制の方がいい」と、1年も経たぬうちに地元へ戻ることを決意した。

 

 当時、転入先の愛媛県松山市にある松山聖陵高はゴルフ部を新設する予定だった。翌年には弟・力も進学を考えていた高校である。河本自身、新たなスタートを切るという意味でも理想的な環境とも言えた。「そこが分岐点でした。しっかり決断して戻って来て良かったなと。あのままだったら、どうなっていたのかなと思いますね」と振り返る。

 

 12年よりスポーツコースを開設し、スポーツに力を入れ始めていた松山聖陵。河本はスポーツクラスで唯一の女子だった。同級生には全国大会、プロを目指す者がゴロゴロいる。河本の高校3年時、野球部は全国高等学校野球選手権大会、ラグビー部は全国高校ラグビーフットボール大会の出場を果たした。同級生は甲子園と花園の大舞台を経験。「“絶対負けてられないな”と思います」。負けず嫌いの彼女にしてみれば刺激以外の何物でもない。

 

 野球部のアドゥワ誠は16年秋のドラフト会議で広島カープに5位指名を受けた。同校初のプロ野球選手だ。河本は冬場の練習を野球部と共にし、身体づくりに励んだ。アドゥワとは仲の良い友人の1人だが、プロを目指す河本にとってはライバルでもある。「誠とは“どっちが稼ぐか勝負な”と言っているので、まずは早くプロになって追いつかないといけませんね」。ゴルフも野球もプロのトップ選手となれば、年間億単位の報酬を得られる国内で数少ないスポーツだ。河本は切磋琢磨で更なる高みを目指す。

 

 河本の高校時代の主な戦績は四国女子アマチュア選手権で3年連続2位。2年時から出場したIMG世界ジュニア選手権では3位と7位タイに入った。日本女子プロゴルフ協会(LPGA)のツアーにも出場し、14年秋の伊藤園レディスでは35位タイでベストアマに輝いた。その後もベストアマに何度も選ばれ、ステップアップツアーでは1ケタ順位にも2度入った。“プロのツアーは楽しい”との想いは膨らんでいっていた。

 

 日体大での成長

 

 それでも高校卒業後の夏にプロテスト受験という最短距離のルートは狙わなかった。大学進学という選択は高校を編入したこととも無関係ではないのだと思う。「ゴルフだけが人生ではない。その後の人生の方が長い」。もちろん、そう思うようになったのは、いろいろ人との出会いで感化された部分もある。だが、ここまで歩んできた道のりが、その後の選択に影響を与えていることは間違いない。

 

「入って後悔をしたことはないです。すごく大変ですが、充実しています。違う部活で頑張っている子がいたら刺激にもなりますね」。今年4月より河本が進学した日本体育大学にはプロ、オリンピック・パラリンピックを目指すような数多のトップアスリートが集まってくる。柔道の古賀稔彦、競泳の北島康介、体操の内村航平など卒業生にはオリンピック・パラリンピックや世界選手権で金メダルを獲得するなど大舞台で大きく羽ばたいた先輩たちがいる。同じように高い志を持った在校生にも刺激を受けながら日々を過ごしている。

 

 日体大ゴルフ部の練習は基本平日の毎朝と月水の夕方である。河本はそれ以外の授業を除く空いた時間を使ってジムに通ったり、自主トレーニングで鍛えている。試合のない週末はゴルフ場へ行き、ラウンド練習などのコース練習をする。木原祐二監督からもアドバイスを受けるが、自らで練習を組み立てている。現在も松山聖稜に通う弟・力からはスイングをチェックしてもらって意見を聞いている。大学の試合に出場しつつ、LPGAツアー、ステップアップツアーにも参戦。ハードなスケジューリングをこなす。

 

 生まれ育った愛媛を飛び出したのは2度目。再び新しい環境ですぐに馴染めたのか。ここでも彼女の負けん気が原動力となっている。

「周りの先輩方や先生から“忙しいし、部活にも慣れない。絶対1年目は成績が落ちる”と言われました。逆にそれが発奮材料になっています」

 ゴルフと学業の両立は決して楽ではないが、時間を無駄なく有効に使えるようになった。大学に入って自らの成長も実感できているという。

 

 最近は試合に臨む気持ちも変わってきた。これまでは“勝ちたい”という想いばかりが先行していた。

「試合にきてどうこうできるわけではない。最近は楽しむことを心掛けていて、自分でしっかりマネジメントして負けてしまったら今の実力。それを受け止めて、ゴルフを、試合を楽しむことを考えています」

 ゴルフとはセルフマネジメントが重要なスポーツである。時には“コントロールできないものはできない”と割り切りることも大事なのだ。

 

 河本はプロゴルファーになることが最大の目標ではない。その先に“プロで稼ぐ”という想いがある。彼女がプロで稼ぎたい理由とは何か――。

 

(最終回につづく)

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河本結(かわもと・ゆい)プロフィール>

1998年8月29日、愛媛県松山市生まれ。両親の影響で5歳の時にゴルフを始める。小学生時はゴルフスクールに通いながら、サッカー、バレーボール、空手などを習った。2010年に全日本小学生ゴルフで2位に入る。ジュニア時代から将来を嘱望され、14年にはナショナルチーム候補選手に選ばれる。四国女子アマチュアゴルフ選手権は2度(13、17年)の優勝。LPGAツアーでもベストアマに幾度も輝く。今年4月より日本体育大学に進学した。身長163cm。得意なクラブはパター。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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