連覇を達成したカープ。緒方孝市監督の胴上げの場面には8月23日の横浜DeNA戦で右足首を負傷し、全治3カ月と診断された鈴木誠也の姿があった。右ヒザから下はギプスで固定され、その上にはサポーターが巻かれてあった。

 

 その誠也をヨッコラショと背負っていたのがブラッド・エルドレッドである。身長196センチ、体重122キロ。巨漢のエルドレッドがおんぶすると誠也は小さく見えた。

 

 このシーンを目の当たりにして、2人の“絆”の深さを知った。いや、誠也以外の選手でも、エルドレッドは自らの背中を貸していただろう。来日して6年目のエルドレッド。選手たちとの関係は兄弟のようなものなのだろう。信頼関係がなければ、なかなかこうはいかない。

 

 不意に思い出したのが11年前のあるシーンだ。北海道日本ハム対福岡ソフトバンクのプレーオフ第2ステージ2戦。もう後がないソフトバンクは中4日でエース斉藤和巳をマウンドに送った。

 

 0対0で迎えた9回2死一、二塁。センター前に抜けそうな当たりをキャッチし、封殺を狙った二塁手からのトスが乱れる間に二塁ランナー森本稀哲は猛スピードで本塁を駆け抜けた。

 

 ショックのあまり立ち上がれない斉藤を抱きかかえ、ベンチへ連れ帰ったのがフリオ・ズレータとホルベルト・カブレラの両外国人だった。

 

 選手会長の斉藤は、しばしば外国人の相談に乗るなどして、信頼を得ていた。その2人に抱きかかえられた斉藤は、「自分のやってきたことは間違っていなかった」と実感したという。

 

 ペナントレース後半、ベンチを温めることの多かったエルドレッドだが、116試合で27本のホームランを記録するなどパワーは健在である。それ以上に人柄がいいのが魅力だ。誠也のおんぶに、それがはっきりと表れていた。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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