(写真:一昨年のカッキーエイドではリングで好ファイトを見せた)

「うわ~、何これ懐かしい!」

 マック鈴木さん(元プロ野球選手)から送られてきたその動画は、練習生の頃の高山善廣選手であった。どこかの番組が当時の高山選手を密着していたものと思われるが、UWF道場でちゃんこ鍋を作っているシーンが映し出されていた。

 

 瞬く間に人参や白菜などの野菜を切っていく場面は圧巻で、その卓越した包丁さばきに目を奪われた。「こんなに器用だったのかぁ」。合宿所生活も一緒だったが、あそこまで料理ができるなんて知らなかった。レスラーの卵というより、料理人の見習いに思えるほどだ。

 

「これもマジ凄い。綺麗な団子を作るなぁ~」

 僕はその映像を見ながら、思わず大きな声をあげた。

 

 2つのスプーンを使って鶏の団子を手際よく作っていたのだが、これまた驚くほど器用なのだ。195センチの大きな身体に似合わず、テキパキとスピーディーにちゃんこ鍋を完成させていた姿に感心した。当時は、自分の練習にばかり意識がいっていたので、ちゃんこ番の様子までは目を向けていなかったのだろう。今更ながら彼の頑張りに敬意を評したい。

 

 彼とは道場での練習で一緒に汗を流すことが多かったのだが、大きな身体のわりにスタミナが凄かったことが強く印象に残っている。

 

 一番印象に残っているのは、一緒にやったヒンズースクワットだ。

 なんと1000回もの回数をこなしてもケロッとしているのである。僕なんかと比べ、足の長い彼は、それだけでハンディがある。それに加え僕はハーフスクワットに近いスタイルでやっていたので、同じペースでこなしていくのは容易ではなかったはずだ。

 

 おまけに回数を告げずにやるので、ペース配分もできないので精神的にもキツイのである。

 登山で頂上だと思って辿り着いた場所が、そうでなかった時のあの虚脱感は誰もが経験したことがあるはずだ。スクワットは登山と違い、景色も変わらないだけに更につらい。

 

 500回で終わりだと思っていたところに「501回」の声を聞いた時のあの絶望感はハンパではないのだ。

 彼もきっと心の中では、「うそだろ、1000回?」と思いながらスクワットをこなしていたに違いない。

 

 当然ながらスクワットで練習は終わりではない。足が張っている状態から、道場のすぐそばにある急坂をダッシュすることもあれば、グラウンドや打撃のスパーリングを延々と繰返すこともある。もう足腰の状態は、生まれたての小鹿のようにフラフラになるのだ。

 

 このように理不尽で根性論がメインなのがプロレスの道場練習なのである。

 その洗礼を高山選手もしっかりと真っ向から受けて育ったことになる。

 

 現在の総合格闘技のジムで、こんな非効率な練習をやっている場所など皆無だろう。もっと効率よく強くなれるマニュアルが確立されているし、何より今どきこんな根性論は若者たちに支持されない。

 

 スキル面で言えば、今の格闘技界は、僕たちが練習していた頃と比較にならないぐらいレベルが上がっている。だが、高山選手や桜庭和志選手のような人々の記憶に残る試合を生み出せる選手は少なくなったように感じる。これはあくまで僕の主観ではあるが……。

 

 もしかしたら理不尽で無駄だと思っていたような道場練習や環境にこそ、その秘密があるのかもしれない。

 ちゃんこ番などは、強さにまったく必要のない要素だが、これも大きな意味がある気がしてならない。

 

 料理は時間との闘いでもある。段取りよく頭を使ってやらないと、せっかくの良い食材も殺してしまう。道場では、日によって先輩の練習を終える時間が違うのも計算に入れる必要がある。常にベストの状態で提供できるよう逆算して準備しておかなくてはならないのだ。

 

 ちゃんこ番で一番大切になってくるのが、先輩方に美味しいと喜んでもらう気持ちである。

 この喜ばせようとの考え方がプロとして、もっとも大切な要素だと思う。相手を倒せばそれで良いという気持ちでリングに上がるのと、お客様に喜んでいただきたいと思うのとでは大きな差が生まれるはずだ。

 

 もちろん、これがすべてリングに反映されるわけではないが、練習以外のプラスアルファがプロの選手には必要な気がしてならない。

 

 その点では、マット界の頂点にまで登りつめた「帝王」高山選手は、無駄なくすべてを活かしきった素晴らしい選手だと思う。

 

 そんな高山選手が今、苦境に立たされている。

 報道などでご存知の方も多いと思うが、リング上で負傷した彼は首から下が動かせない状態となっているのだ。

 

(写真:自身の復帰戦の挨拶場で高山にエールを送った筆者)

 普通の人間なら絶望に陥るところだが、彼の目は死んでいなかった。

 これまで脳梗塞など数々の病気や怪我を克服してきた鉄人だけに精神レベルは桁違いなのである。多くのファンの皆様や関係者の応援を力に必ずやここから立ち上がるだろう。

 

 僕も同じ釜の飯を食った仲間のひとりとして、帝王の復活劇を誰よりも信じている。

 

 負けるな、帝王!


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