東京ドームの天井高は、もっとも高いところで56メートルほどあるのだという。それでもごく稀には天井に当たる打球があるのだから、つくづく、野球というのは立体感のあるスポーツだと思う。

 

 そもそも、米国で生まれたドームで球場全体を覆うスタイルのスタジアムは、いまや、米国においてはどんどんと少数派になりつつある。わたし自身、ドームで見るよりも屋外で見る野球の方に断然魅力を感じてしまうのは、観戦中、空を見上げる機会が非常に多いスポーツだからではないか、と思うようになった。

 

 ドーム球場では、それまで目に入っていたもの、つまり空が見えなくなってしまうから。

 

 翻って、サッカーはいたって平面的なスポーツである。高々と舞い上がったボールが、最後はほぼ垂直に近い形で落ちてくる、なんてシーンはほとんどない。サッカーにおける空は、野球ほどには重要な存在ではない、とは言えないか。

 

 つまり、よりドーム球場に適したスポーツとは言えないか。

 

 初めて東京ドームに天然芝が運び込まれ、サッカーの試合が行われた際は、あまりの悪臭に閉口させられた記憶がある。日光のあたらないドーム内に設置された芝が、腐ってしまったのが原因だった。94年のW杯米国大会でも、天然芝のシートを敷いて行われたポンティアック・シルバードームでは、かなりの異臭があった。

 

 そのせいで、わたし自身サッカーにドームは向かないといつのまにか思い込んでしまっていた。だが、ポンティアック・シルバードームは、米国で初めて、南部以外でスーパーボウルが行われた会場でもあった。真夏のサッカーには最悪だったが、真冬のフットボールには最適なスタジアムだったのである。

 

 Jリーグの開催時期をいつにすべきかについては、長く論争が続いてきた。わたしは、サッカーのような競技にとって、暑さと湿度はレベルを低下させる大きな要因だと思っている。ゆえに秋冬制への移行を支持してきたのだが、寒冷地のチームやファンが反対する気持ちもわかる。よほどのマニアでない限り、冷たい雨や雪の降る中、ずぶ濡れになってでも観戦しようとは思わないだろうから。

 

 だが、ドーム球場であれば話は変わってくる。

 

 幸か不幸か、いまのところ日本にはサッカー、もしくはフットボール専用のドーム球場はない。わたしの知る限り、欧州にも南米にも存在しない。ならば、日本の建築界の叡智を集め、世界最高のドーム・スタジアムを造ることはできないか。

 

 もちろん、これは1チームでできることではない。新しい資金の流れをつくるため、Jリーグの理念、規約にまでメスを入れる必要が出てくるかもしれない。それでも、観客ファースト、選手ファーストの視点に立つならば、一考する価値はあると思うのだが。

 

<この原稿は17年9月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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