二宮清純: フランスワールドカップで活躍された中西永輔さんとの対話は、そば焼酎『雲海』の「そばソーダ」を飲みながらまだまだ続きます。

中西永輔: お酒が美味しいと会話も弾みますね。

 

 

二宮: 正直、ソーダ割りの感想はいかがですか?

中西: いや、想像していた以上にすっきり感がありますね。少々、濃いめにつくっても酔っ払わないような気がします。

 

 分析通りのスカウティング

 

二宮: フランスW杯アジア最終予選、日本はイラン代表とのプレーオフを制して初めてW杯の切符を掴みました。いわゆる“ジョホールバルの歓喜”です。

中西: 当時、僕はジョホールバルに帯同はしていましたが、肩の故障でメンバー外でした。ベンチの後ろで「どうにか勝ってくれへんかなぁ」と応援していました。延長後半に岡野雅行さんがゴールを決め、試合終了の笛が鳴った瞬間は夢のようでしたね。

 

二宮: 予選は途中出場が多かった中西さんですが、W杯本大会ではスタメンの座を確保しました。本大会で日本はアルゼンチン、クロアチア、ジャマイカと同組。中西さんはアルゼンチン、クロアチアとの2試合にセンターバックとして出場しましたが、その時の思い出は?

中西: 初出場のW杯で決勝トーナメントに進出できれば最高だったんですけどね。ただ世界レベルの選手と本気で戦う機会がなかったので、アルゼンチンとクロアチアと戦えたことは素直に嬉しかったです。

 

二宮: まずは初戦のアルゼンチン戦を振り返ってみましょう。当時のアルゼンチンのメンバーは豪華でした。ストライカーのガブリエル・バティストゥータ、俊足FWのクラウディオ・ロペス、司令塔のファン・セバスチャン・ベロン、天才ドリブラーのアリエル・オルテガ……。ワールドクラスのスター選手が揃っていました。

中西: フィジカルコンタクトが強いバティストゥータを秋田豊さんがマークして、足の速いクラウディオ・ロペスには僕がマークにつく決まりがありました。

 

二宮: レフティーで切れ味鋭いドリブルが武器のクラウディオ・ロペスを止めるのは大変だったでしょう。

中西: そうですね。でも、日本代表のスカウティングチームが対戦国の選手のVTRを集めてくれていたんです。その映像でアルゼンチンの選手のクセは大体、把握していました。

 

二宮: 分析はどの程度、正確でしたか?

中西: 例えば「オルテガがボールを持ったときは何割の確率でどの選手にパスを出すから気を付けろ」と細かく分析してくれていた。世界からも「日本のスカウティングチームは優秀だ」と評判でした。

 

二宮: 0対1で敗れたもののアルゼンチン戦は手に汗握りました。

中西: アルゼンチンの選手は最初、手を抜いていたのに時間が経つにつれて焦りが見えてきました。途中から本気になったことを対戦していて感じましたね。

 

 クロアチアには勝てていた!

 

二宮: 2戦目のクロアチア戦も0-1と惜敗しました。私も現地で取材をしていましたが、あの日のナントは本当に暑かった。

中西: ずっと芝生に足を着けていると、足の裏が途轍もなく暑くなるんです。まるで、熱した鉄板の上に乗っているような感覚でした。こんなことはサッカーをやっていて初めての経験でした。

 

二宮: 気温は34度。ピッチ内は40度以上だったと言われています。酷暑の中、日本は34分、右サイドから中田英寿のアーリークロスを中山雅史が右ももでトラップ。右足でシュートを放ちましたが、惜しくも相手GKに左手一本でセーブされてしまった。

中西: ゴンさんのトラップは完璧でした……。しかし、ゴンさんは泥臭いかたちの方が点は取れますからね(笑)。

 

二宮: 後半33分、アサノビッチに右サイドからクロスを入れられ、ファーサイドからダヴォール・シューケルに左足でゴールを決められてしまった。

中西: 終始、クロアチアの選手はバテて動けていなかった。戦っている最中は負ける気がしなかったのですが、あの一発でやられてしまいました。

 

二宮: 日本はジャマイカ戦を残してグループリーグ敗退が決定してしまいました。

中西: クロアチアには勝てるチャンスもあったのでショックでした。「せっかく世界のひのき舞台に立てたのに、ここで終わってしまうのか……。もう少し戦いたかった」と試合が終わった瞬間に思いました。

 

二宮: 現役時代、「このお酒は美味しかった」というエピソードはありますか?

中西: ジェフで98年のシーズンから3年間、J1残留争いを経験しました。残留が決まって飲んだお酒は美味しかったですね。残留争いをしていると本当に気が滅入ってしまうんです。生きた心地がまったくしないし、サッカーも楽しくない。

 

二宮: J1とJ2とでは天国と地獄です。

中西:「来年、またJ1でサッカーができる!」と安心しますよ。本当は優勝して飲むお酒が美味しいのでしょうが、残留を決めて飲んだお酒の味も忘れられない。

 

二宮: 特に2000年、2001年のシーズンはインパクトが強い。不調だったジェフは2000年の8月にスロベニア人のズデンコ・ベルデニックを監督に招き、残留ぎりぎりの14位でシーズンをフィニッシュ。翌年はベルデニックのサッカーが浸透し、年間3位まで順位を上げました。

中西: ズデンコのスタイルには当初、戸惑いました。独自のサッカー哲学を持っている監督は初めてだったので。

 

 オシムの扉

 

二宮: ボスニア・ヘルツェゴビナ人のイビチャ・オシムさん(元日本代表監督)然り、東欧の監督は哲学的な人が多いイメージがあります。

中西: 僕はオシムさんが日本に来日した2003年の1シーズンだけ一緒だったのですが、慣れるまでは大変でした。

 

二宮: 具体的にどんなことを言われたのですが?

中西: とにかく「走れ」と。最初はそればかりでした。

 

二宮: オシムのサッカーは人もボールも動く。選手に求められる運動量も相当でしょう。

中西: 2003年のシーズンインした時にジェフは監督がまだ決まっていなかった。韓国で合宿を行っていたのですが、きついフィジカルトレーニングをこなした後に地元クラブと練習試合で負けたところにちょうどオシムさん初めてが合流したんです。挨拶もしていないのにいきなり「負けたからグラウンドを走れ」と。

 

二宮: 一昔前の高校サッカーのようですね。

中西: 本当にそんな感じでした。オフがまったくもらえなかったのもきつかったです。

 

二宮: オシム語録の1つに「休みから学ぶものはない」というものもありました。

中西: 2カ月は休みがなかった。肉体的な疲労は体のケアや睡眠をしっかりとれば軽減されます。ところが、精神的な疲労は1日オフをもらってリフレッシュしないとなかなか取れないんです。

 

二宮: 気分転換は大事ですよね。

中西: オシムさんは「扉はいつでも開けておくから、何かあったら言いに来て構わないよ」と言っていた。だから、当時21歳ながらキャプテンを務めていた阿部勇樹(現浦和レッズ)に「みんな精神的にも疲れているから、1日オフをください、と掛け合ってきてくれ」と監督室に行かせたんです。

 

二宮: 結果は?

中西: 阿部がすぐ帰ってきて「永輔さん、“シッシッ”とおいやられました」と。「扉、開いてへんやないかいっ!」とツッコミたくなりましたよ(笑)。でも、今振り返るといい思い出です。ジェフを改革してくれた監督ですからね。

 

 プロを目指すきっかけとなったスペインW杯

 

二宮: 中西さんと言えば、ゴール後のパフォーマンスのバク宙が有名でした。身体能力が高い証拠ですが、昔から運動神経は良かった?

中西: 自分で言うのもなんですが、そうですね(笑)。ある程度のことはできました。

 

二宮: 学生時代も体育は5ですか?

中西: 体育は、と言いますか体育“だけ”5でした。

 

二宮: これだけ身体能力が高ければどんなスポーツもできたでしょう。それでも子供の頃からサッカー選手になりたかった?

中西: えぇ。小学1年生でサッカーを始めて、3年生の時にプロサッカー選手になりたいと思いました。

 

二宮: きっかけは?

中西: 僕が3年生の時にスペインW杯が開催されていたんです。夜中にテレビでW杯を見て「うわぁ、オレもあの舞台に立ちたい」と思ったんです。でも当時はまだJリーグもなく、「プロになるためには海外に行くしかないのかな?」と漠然と思っていました。

 

二宮: スペイン大会は82年でしたからね。Jリーグの開幕はそこから10年以上も待たなければならなかった。

中西: W杯出場はかなり大きな夢でしたけど、それから頑張ってたくさん練習するようになりました。

 

二宮: 四日市中央工業高校では小倉隆史さん(名古屋グランパス元監督)らと全国高校サッカー選手権大会で優勝しました。小倉さんとは子供の頃から面識はあったのですか?

中西: はい。小倉とは小学校、中学校が隣の学校だったんです。お互いの実家も自転車で10分くらい距離でした。僕は2年生の時から6年生の試合に出場し、小倉は3年生の時から6年生の試合に飛び級で出るようになった。お互い意識し合っていました。

 

二宮: 小学校時代のポジションは?

中西: どちらもFWです。僕は体が小さかったのですが、足の速さと身体能力を生かして点を取りまくっていました。小倉は背が大きくてテクニックのあるFWでしたね。

 

二宮: 二人が2トップを組んでいたら面白かったでしょうね。

中西: 小倉と飲むと、よく昔話をします。彼曰く「オマエと同じ中学でサッカーをやっていたら、オレは中盤に下がっていたかも」と。小倉の方がテクニックはあったし、僕の方が当時は点取り屋でしたから。

 

 不敵に笑ったラモン・ディアス

 

二宮: 高校卒業後はジェフに入団。1年目からDFとしてレギュラーを掴みました。Jリーグ初期の頃には大物外国人選手がたくさんいましたね。対戦して、苦労されたでしょう?

中西: ジーコ(元鹿島アントラーズ)、ストイコビッチ(元名古屋グランパス)、ラモン・ディアス(元横浜マリノス)……。ビッグスターがたくさんいました。

 

二宮: ラモン・ディアスの左足のシュートは柔らかく正確でした。かつてジェフに在籍していたGKの加藤好男さんからラモン・ディアスに関する話を伺いました。加藤さんはラモン・ディアスの左足をかなり警戒していた。

中西: 守る側からすると、彼の左足は脅威ですからね。

 

二宮: するとラモン・ディアスがニコッと笑った。加藤さんは「なんで笑ったんだ?」と思ったら、右足でシュートを打たれてゴールを決められてしまったんだと(笑)。

中西: それは面白い(笑)。加藤さんはラモン・ディアスの左足のシュートのタイミングに合わせていたんでしょうね。

 

二宮:「右足の振り幅が狭く、コンパクトだったのでタイミングが読めなかった」とおっしゃっていました。

中西: 左利きは左足にこだわる選手が多いですよね。左足だけしか使わないなら止めるのは簡単なんです。でも、ラモン・ディアスや中村俊輔らは時々、右足を使ってくる。あの右足が守る側からすると、とても厄介なんですよ。

 

二宮: しかも、時々使う右足もかなり精度が高い。

中西: そうなんです。「右足で蹴る」と予測し、ポジションを取り直したら取り直したで今度はキックフェイントで左足の方に切り換えられてしまうこともある。「左利きやったら、左足だけ使ってくれよ」と思いますよ。

 

 ユーティリティープレーヤーとは?

 

二宮: ところで、中西さんはGK以外全てのポジションを経験しましたよね?

中西: DFも、ボランチもトップ下もFWも全部こなしました。

 

二宮: 中西さんにとって、ユーティリティーとは?

中西: 適性はあるにせよ、選手はやろうと思えばどのポジションでもこなせるものなんです。引退後、岡田武史さんとユーティリティープレーヤーについて話す機会があった。その時、岡田さんは「その選手をどこで使っても“この試合、勝てる”と確信できる選手がユーティリティープレーヤーなんだ」とおっしゃっていました。それを聞いて僕も納得しましたね。

 

二宮: 監督からしたら、ユーティリティープレーヤーが1人いるだけで、チームはつくりやすくなるでしょう。

中西: そう思います。僕も相手の左サイドに足の速い選手がいたら「右サイドに入って、アイツを止めてくれ」と頼まれ、逆サイドに警戒すべき選手がいたら、逆サイドにポジションを移していました。

 

二宮: 中西さん1人いれば、交代枠を使うことなくポジション変更、フォーメーション変更が可能になっていましたからね。そば焼酎『雲海』の「そばソーダ」を飲みながらのサッカー談義はついつい時間を忘れてしまいます。

中西: 「そばソーダ」の美味しさにつられて、話も盛り上がりましたね。

 

二宮: では最後に。「そばソーダ」をサッカー選手に例えると?

中西: 和食やイタリアンなどいろいろな料理に合うユーティリティープレーヤーですね!

 

二宮: うまい!

中西: ありがとうございます! 残りのボトル、持って帰っていいですか!?

 

(おわり)

 

中西永輔(なかにし・えいすけ)プロフィール>

1973年6月23日、三重県鈴鹿市出身。鈴鹿市立白子中からサッカーの名門・四日市中央工業高へ進学。高校時代は小倉隆史、中田一三とともに「四中工三羽烏」と呼ばれ、1992年の高校サッカー選手権を制する。同年4月にジェフユナイテッド市原(当時)に入団した。身体能力の高さとGK以外はこなせるユーティリティープレーヤーとして活躍。バク宙を披露するゴールパフォーマンスで人気を博した。04年に横浜F・マリノスへ移籍し、06年に現役引退。A代表デビューは97年。98年フランスW杯にはアルゼンチン戦、クロアチア戦に出場。Jリーグ通算309試合、34得点。国際Aマッチ出場14試合。身長174センチ、体重73キロ。

 

 

今回、中西さんと楽しんだお酒は本格そば焼酎「雲海」。厳選されたそばと、宮崎最北・五ヶ瀬の豊かな自然が育んだ清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎です。ソーダで割ることで華やかな甘い香りが際立ちます。

 

提供/雲海酒造株式会社

 

<対談協力>

イタリアンバー ボッチャーノ ビア&ワイン 恵比寿ガーデンプレイス店

東京都渋谷区恵比寿4丁目20-3 恵比寿ガーデンプレイス タワー棟39階

TEL:03-6447-7885

営業時間:月~金 (ランチタイム)11:00~16:00 (ディナー)17:00~23:00 

     土・日・祝日 11:00~23:00

     (定休日は施設の休業日に準ずる)

 

☆プレゼント☆

 中西さんの直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらのメールフォームより、本文の最初に「中西永輔さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、郵便番号、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)を明記し、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は10月26日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。

 

◎クイズ◎

今回、中西永輔さんと楽しんだお酒の名前は?

 

お酒は20歳になってから。

お酒は楽しく適量を。

飲酒運転は絶対にやめましょう。

妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

 

(写真・構成/大木雄貴)


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