(写真:強靭な足腰から放たれるシュート力も武器の大矢)

  第72回国民体育大会「愛顔(えがお)つなぐえひめ国体」(9月30日開幕)で地元愛媛県代表は女子サッカー連覇が懸かっている。メンバー構成はなでしこリーグ2部の愛媛FCレディースの単独チーム。愛媛の中心選手としてV2の期待を背負うのがFW大矢歩である。大矢は伊予銀行の関連会社である伊予トータルサービス株式会社で働きながら、愛媛FCレディースでプレーする。なでしこジャパン(女子サッカー日本代表の愛称)にも選ばれる22歳のホープに迫る――。

 

 

「女子にはなかなかいないタイプ。身体も強く、外国人選手に当たり負けすることなく個で突破できる珍しい存在です」

 なでしこジャパンの高倉麻子監督をして、こう言わしめる大矢の武器は縦への強さである。力強いドリブルとパワフルなシュートが彼女の魅力だ。

 

 力強さの源は、大矢がここまで積んできた鍛錬の結晶でもあるが、それだけではない。群馬県出身の彼女は小学3年でスピードスケート、4年でサッカーを始めた。“二足のわらじ”は高校2年時まで続いた。スケートの種目は500mと1000m。強靭な足腰の原点はここにもある。

 

 大矢は今年で4度目の国体出場になる。2014年の「長崎がんばらんば国体」は準優勝。翌年の「紀の国わかやま国体」は準々決勝で敗退した。昨年の「希望の郷いわて国体」では決勝戦引き分けによる新潟県代表との同チーム優勝。愛媛県初の女子サッカー国体制覇を成し遂げた。全4試合に出場した大矢は1得点。「あまりチームに貢献できなかった。決勝でも守りを固められてうまく攻撃できませんでした」と悔しさを滲ませる。

 

(写真:チームのために身体を張ることを厭わない)

「私が決めなくても、味方が入れてくれればいい」と口にするように大矢はストライカータイプというよりはサイドアタッカーである。愛媛ではセカンドトップやサイドハーフで起用され、なでしこジャパンでは主力のケガにより、右サイドバックにコンバートされるなど活躍の場は多岐にわたっている。大矢自身、ポジションに対するこだわりは強くない。「チームにどれだけ貢献できるか。必要とされる選手になりたいので、どこのポジションでも試合に出たい気持ちは強いです」。何よりも優先するのはチームの勝利。フォア・ザ・チームの精神が彼女の根底にある。

 

 これまではアンダーカテゴリーの招集もあったが、今年3月になでしこジャパンのフル代表に選出された。「自覚も芽生えました。海外の選手とプレーできる機会もなかなかありません。普段とは違う経験ができるので、自分の足りない部分も分かってすごくいい経験させてもらっています」。得られるのは対戦相手からだけではない。大矢自身もドイツでのプレー経験はあるが、なでしこジャパンの海外組からも学ぶことも多い。「いろいろな話をさせてもらって、自分も吸収できるようにしたい」と意欲的だ。

 

 そもそもサイドバックは未経験。なでしこジャパンの6月のヨーロッパ遠征での大抜擢だった。「少し不安もありましたが、どこのポジションでも責任を持って務めないといけません。その中でも自分の良さを出していければと思っていました」。スタメン出場を果たしたオランダ戦では、攻撃的なサイドバックとして何度か持ち味をアピールした。慣れない守備でも労を惜しまず、終了間際にあわや失点という場面で身を挺してピンチを防いだ。

 

 なでしこジャパンでのサイドバックへのコンバートは「難しい部分の方が多い」と苦労も少なくない。それでも、ひた向きな姿勢で臨んでいる。「いろいろクリアして代表に残っていかないといけないと思っているので、負けずに食らいついていきたいです」。コンバートには副次効果もある。「DF側が嫌な動きを知ることができました」と、本来とは違う視点からピッチを眺めることによって、自らの視野が広がったことを実感している。

 

(写真:昨年の初優勝に続く連覇を目指す愛媛県代表)

 大矢は昨年4月から損害保険・生命保険・不動産業務のトータルコンサルタント会社の伊予トータルサービスに就職した。学生時代とは生活環境もガラッと変わり、フルタイムで働きながら、日々トレーニングを積む。

「入ったばかりの頃は仕事とサッカーの両立は大変でした。今はだんだんこなせるようになってきて、まだできることは少ないですが余裕もできてきました。応援してくれる人がいるから頑張れますし、周り人への感謝をより感じられるようになりました」

 

 感謝を伝える場として、なでしこリーグの活躍はもちろん、地元での国体は格好の舞台だ。10月2日、愛媛は宮城県代表との初戦を宇和島で迎える。大矢は「たくさんの方が観に来てくれると思いますし、全力でやりたいと思っています」と意気込む。昨年のいわて国体で愛媛県は目標を決勝進出に置いていた。それを上回る結果だっただけに、周囲の反響も大きかったという。「愛媛に女子サッカーを知ってもらえる機会になったかなと思います」。それだけに次は連覇と単独優勝への想いは強い。

 

「誰かのためにという想いで強くなれる」。それが愛媛県代表、愛媛FCレディースの武器だという。「応援してくれる人たちへ感謝の気持ちを持って、自分たちのためじゃなく愛媛のために絶対勝つ」。 大矢自身も勝利というゴールを求め、貪欲にピッチを駆け回る。フォア・ザ・エヒメの精神で――。

 

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