(写真:「選手にはこのスパイクで力を最大限に発揮して欲しい」と語るシューズ開発に携わる山口氏<左>)

 adidasは今秋、サッカーシューズのNEMEZIZ(ネメシス)、X(エックス)、ACE(エース)、COPA(コパ)の4タイプを「PYRO STORM PACK(パイロストームパック)」と名付け、世界中で10月5日(木)に発売した。新カラーは鮮やかなオレンジ。“爆発”や“火花”をイメージしているという。新デザインによるシューズは欧州クラブ王者を決めるUEFAチャンピオンズリーグ2017-18でも使用される予定で、注目が集まっている。

 

 

 アジリティを最大限に引き出す“バンデージ構造”

 

 まずは「PYRO STORM PACK」の4タイプの中から一番新しいモデルのNEMEZIZを紹介しよう。明るいオレンジをベースにadidasのスリーストライプスが入っている色は強さを表現するブラック。数多くのブラックのストライプが全体を覆うデザインだ。NEMEZIZはアジリティ(俊敏性)を武器とするプレーヤー向けにつくられた。

 

 選手のアジリティを最大限に引き出すためのカギとなるのが、足首付近からシューズ全体に巻き付くバンデージ構造だ。バンデージとは、通常はアスリートが足首や手首を固定するために巻き付ける布を意味する。これをシューズに応用ができれば足とシューズのブレは減少し、選手のアジリティは最大限に発揮される、と開発チームは考えた。NEMEZIZはこのようなコンセプトで誕生したサッカーシューズなのだ。

 

 

(写真提供:adidas)

 シューズ開発に携わるadidasマーケティング事業本部Footballビジネスユニットマーチャンダイジングシニアマネージャーの山口智久氏に聞いた。

「NEMEZIZに求めたものは足とシューズの一体感以上の固定感です。足首周りをしっかりとロックすることであらゆる俊敏な動きが可能になります。驚異的な俊敏性を発揮することで相手は誰も追いつけない。俊敏な動きで相手に脅威を与える。そんなシューズがNEMEZIZです」

 

“フィット感”や“一体感”以上にアジリティの動きに必要なものを考えたとき、足首にシューズを固定させるという答えに至ったというのだ。そのためにバンデージをシューズに搭載させた。どこからヒントを得て、こんな斬新な構造になったのか。再び山口氏。

 

「フットボール以外でもボクサー、ダンサー、忍者など俊敏な動きを求められる人たちはどういうことをしているんだろう、と。ここからヒントを得たんです。彼らは手首や足首などにバンデージを巻いて固定しているんです。手首や足首がグラつくことで無意識のうちにかかえてしまうケガへの不安などを、しっかり固定することで払拭する。そうすることで俊敏な動きが可能になる。数年前からは想像もできないスパイクです。バンデージを取り付けるなんて誰も考えていなかった」

 

 相反する軽量性と安定性の共存

 

(写真:PYRO STORM PACKの各シューズの特徴を聞く二宮<右>)

 NEMEZIZはアジリティに特化しているため、攻撃的プレーヤーが使用するケースが多い。代表的な使用選手はアルゼンチン代表でスペインのビッグクラブに所属するFWリオネル・メッシだ。この世界最高のプレーヤーは細かなステップを駆使し、キレのあるドリブルで相手を置き去りにする。そして次の瞬間、正確無比なシュートを突き刺す。相手がドリブルを警戒していると、遊び心溢れるスルーパスを魔法のように通してしまう。サッカーを観る者に喜びを、対戦相手には脅威を与える天才的なプレーヤーだ。

 

 日本人使用選手は“ハマのメッシ”と称される横浜F・マリノスのMF齋藤学や、2016年の注目とされた大会でサッカーU23日本代表の10番を背負ったポルトガル2部・ポルティモネンセでプレーするMF中島翔哉。そして10月6日、10日に行われるキリンチャレンジカップ2017に選出されたドイツ1部・マインツ05でプレーするFW武藤嘉紀らがNEMEZIZを履いている。言うまでもなく3人ともアジリティを活かしたキレ味鋭い動きで勝負するプレーヤーだ。細かいステップ、巧みなフェイントや素早いターンが相手に脅威を与える。

 

 NEMEZIZは片足230グラム(27センチ)と軽量だ。本来、シューズづくりにおいて、軽量性と安定性は相反する。シューズに軽さを求めると安定性を損なうリスクを伴う。だが、NEMEZIZに限ってはそうではない。バンデージ構造をより強くすることで、プレーヤーの足元に安定をもたらせた。

 

「細かい動きを繰り返す選手たちにニーズをヒヤリングし、試作品を作ってはまたヒヤリング。これの繰り返しでした」。アイディアが斬新なだけに、開発には苦労した。「シューズづくりはアイディアを出し合い、かたちになるまで約2年半要した」と山口氏。

 

(写真提供:adidas)

 続いて紹介するシューズはXだ。ブラックがベースカラーだが側面にオレンジでadidasのロゴが大きく入っている。このシューズのコンセプトは<異次元のスピードで縦に斬りこむ>――。スピードスター向けのシューズだ。縫い目がなく表皮が1枚の人工皮革でつくられているのが特徴。シンプルな設計で、まるで陸上のランニングシューズのようだ。「余計な機能は一切つけず、シンプルでボールタッチの際にもしっかりグリップがきくようにした」と山口氏は説明する。

 

 使用している選手としてはメッシと同じクラブチームのFWのルイス・スアレスが代表格。柔も剛も兼ね備え、かつ野性的なストライカーだ。また銀河系軍団と呼ばれるレアル・マドリード所属のFWガレス・ベイルも使用している。ベイルは爆発的なスピードを武器に相手守備網を強引に突破する。世界的なストライカーである彼らの足元をadidasは支えている。またサッカー日本代表の10番、MF香川真司もXを愛用している。優れた伸縮性を備え、足全体を包み込む構造でプレーヤーのトップスピードを引き出し続ける。

 

 ボールコントロールに特化したACEとCOPA

 

(写真提供:adidas)

 3つ目はACE。デザインはオレンジをベースに側面にブラックでスリーストライプスが入っている。ACEは素足に近い感覚のシューズ。パーフェクトなボールコントロールをテーマに掲げている。

 

 ACEはアッパー部分にニット素材を採用。このニットは全て1本の糸から編み上げられている。ニットの特性である柔らかさを活かし足へのフィット感を高めた。さらにニットの上から樹脂素材のフィルムをコーティングすることで耐久性や形状維持性を向上させた。

 

 くるぶし部分にはコンプレッションフィットアンクルというソックス調のパーツを搭載。これによりシューズとくるぶし付近の隙間がなくなり、足との一体感が高まるという。またACEには靴ひもがない。アッパー部分の凝縮させたニットが伸縮することで足の甲にぴったりとフィットする。これにより“素足感”が高まり、精密なボールコントロールを可能にしている。

 

(写真提供:adidas)

 最後に紹介するのはCOPAだ。ブラックをベースにし、側面のビビットなオレンジとレッドのスリーストライプス。山口氏も「これぞadidasというオーセンティックなデザイン」と胸を張る。近年は人工皮革のシューズが多い中、COPAはアッパー部分にプレミアムカンガルーレザーを使用。人工皮革とは異なる革特有のフィット感で足を優しく包み込む。デザインともどもオールドファンにはたまらない。

 

 カンガルーレザーを使用したクラシックなつくりのCOPA。クラシックな中に近代性も。シュータンに秘密は隠されている。シュータンが足の甲から土踏まずの部分をしっかりとホールディングしてくれるのだ。山口氏はシュータンについて、こう説明する。

「COPAのシュータンはしっかりと足を覆ってくれる。ひと昔前のシューズはプレー中にシュータンが左右にズレてしまっていた。ですが、COPAはシューズの中でシュータンをしっかり固定しているので左右にズレることがないため、余計なストレスを感じずにスムーズにプレーしやすいんです」

 

 特性の異なる4タイプのシューズをリニューアルするadidas。山口氏は担当者としてこう述べた。

「プロに限らず現代サッカーは求められる要素が多い。その為、adidasはプレーの特徴を引き出すシューズがプレータイプ別にある。“走力に特化したシューズを選ぼう”“プレースキッカーに選ばれたからボールコントロールに長けたシューズにしよう”など購入される方々が判断しやすくなってくれれば嬉しいです」

 

 ピッチという名の戦場を勝ちぬく斬新でイノベーティブな商品群。adidasの進化に終わりはない。


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