14日からプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)が始まる。CSファーストステージの対戦カードは、セ・リーグが阪神-横浜DeNA(甲子園)、パ・リーグが埼玉西武-東北楽天(メットライフドーム)。セ、パともに3戦で2勝したチーム(勝ち星タイの場合はリーグ2位チーム)がファイナルステージへ進出する。ファイナルステージは18日から、リーグ優勝を果たした広島、福岡ソフトバンクの本拠地が舞台となる。ファイナルステージは優勝チームのアドバンテージ(1勝)を含め、6試合で4勝したチーム(勝ち星タイの場合は優勝チーム)が日本シリーズへ進出する。

 

 セ/ブルペン大国・阪神、左腕王国・DeNA、下克上へ秘策あり


 9月18日、広島が2年連続、通算8度目の優勝を決めた。広島のリーグ連覇は1980年以来、37年ぶりのことだ。80年代、広島は3度のリーグ優勝と2度の日本一を果たし「黄金期」と呼ばれた。今の広島は「黄金期と同等かそれ以上のチーム力」と言われている。


 15勝(3敗)をあげてチーム勝ち頭になった薮田和樹、12勝(5敗)の岡田明丈、10勝(2敗)の大瀬良大地、9勝(5敗)の野村祐輔と九里亜蓮ら、若い投手陣を援護したのがリーグ最高の2割7分3厘をマークした強力打線だ。152本塁打、736得点(ともにリーグ1位)と圧倒的な破壊力を持ち、さらに盗塁王に輝いた田中広輔(35盗塁)が1番を打つなど機動力も有する。


 攻撃の軸になるのは3番の丸佳浩だ。今季はリーグ最多の171安打を放ち、92打点(リーグ3位)を記録した。チャンスメイクはもちろん、ポイントゲッターもこなせるのが強みだ。また27本塁打のブラッド・エルドレッド、鈴木誠也の離脱後に4番の穴を埋めた松山竜平(14本塁打)、サビエル・バティスタ(11本塁打)など長距離砲をズラリと揃える。シーズン終了後、扁桃腺を腫らして調整が遅れたベテラン新井貴浩もファイナルステージには間に合う見通しだ。攻守ともに隙のないリーグ覇者の広島にほぼ死角はない。


 広島への挑戦権をかけてファーストステージで戦うのがリーグ2位の阪神と3位のDeNAだ。チーム打率、打点ともにほぼ遜色ないが、攻撃力ではDeNAが一歩リードする。105打点を叩き出して打点王に輝いたホセ・ロペスはホームランも30本放ち、4番の筒香嘉智(28本塁打、94打点)、首位打者の宮﨑敏郎(3割2分3厘、15本塁打、62打点)と連なるクリーンアップは相手にとって脅威だ。


 対する阪神は外国人野手のエリック・キャンベル、ジェイソン・ロジャースが期待外れに終わり、CSもシーズン終盤同様に国産攻撃陣で戦うことになる。福留孝介、糸井嘉男らのベテラン組を軸に、中谷将大、大山悠輔らの生え抜き若手の活躍がポイントだ。ディフェンス面では足首負傷の大和、首の寝違えで調整の遅れる上本博紀が不安材料か。


 投手陣では阪神の誇る中継ぎ・救援陣の働きがCSの行方を左右する。今季、桑原謙太朗(67試合、39ホールド)、岩崎優(66試合、15ホールド)、マルコス・マテオ(63試合、36ホールド)、ラファエル・ドリス(63試合、37セーブ)、高橋聡文(61試合、20ホールド)の5投手が60試合以上に登板し、フル回転。ゲーム中盤から終盤を支えた。


 先発は右足腓骨骨折から脅威の回復を見せたランディ・メッセンジャーを筆頭に、能見篤史、秋山拓己、岩貞祐太の4本。加えてルーキーながらローテーションの一角を担った小野泰己を第2先発として待機させる策も考えられる。先発からリリーフまでバトンをどうつなぐか。ベンチの腕の見せ所である。


 一方のDeNAは今永昇太(11勝7敗)、濱口遥大(10勝6敗)、石田健大(6勝6敗)と強力なサウスポーを擁する左腕王国だ。丸、松山と左のスラッガーが揃う広島相手にセ・リーグで唯一勝ち越したのも、彼らの存在があってこそだ。右投げのジョー・ウィーランド、井納翔一を含めて先発陣の駒は豊富だが、アレックス・ラミレス監督はCSの投手起用に関してこう語った。「相性やデータを重視したシーズン中と同様になるとは限らない」。予告先発のないセ・リーグのCS、思い切った"奇策"も予想される。

 

 パ/獅子OB対決か、猛牛・梨田が割り込むか


 シーズン2位の西武と3位の楽天の今季の直接対決は西武の16勝8敗1分だ。ホーム開催という地の利もあり、ファーストステージは西武有利と見られているが、果たして……。今季のデータをあたってみよう。


 まずは投手陣。はじめに両チームのエースの対戦成績だ。初戦の先発は菊池雄星(西武)と則本昂大(楽天)と予想される。菊池は今季16勝6敗で最多勝に輝き、そのうちの8勝を楽天からあげている。内容も3完投、2完封、防御率0.82と申し分ない。対する則本は西武相手に1勝2敗、防御率5.76と分が悪い。


 エースに続く先発投手陣の顔ぶれは以下の通りだ。楽天は今季FAで西武から加入した岸孝之(8勝10敗)に加え、11勝(8敗)の美馬学と先発陣に駒が揃っている。特に岸にとって西武は古巣であり、メットライフドームのマウンドは慣れ親しんだ場所。今季西武相手に2勝1敗、防御率2.45と結果も残している。


 西武には11勝(10敗)の野上亮磨や9勝(4敗)のブライアン・ウルフがいるが、共に防御率は3点台後半。2人とも今季楽天から1勝もあげておらず、不安要素が強い。仮に菊池で初戦を取っても2戦目以降の先発を誰に託すかが非常に重要となってくる。逆に言えば菊池で落とすと、一転窮地に立たされる可能性もある。


 救援陣は両チームとも盤石だ。クローザーには28セーブの増田達至(西武)、33セーブの松井裕樹(楽天)がいる。中継ぎも西武は牧田和久、武隈祥太、大石達也、ブライアン・シュリッターが中心となり、楽天は福山博之、フランク・ハーマン、高梨雄平らが控える。両チームとも先発陣がいかに試合を作っていくかが鍵となる。


 次に打線を見ていこう。西武はリーグ2位の153本塁打の破壊力に加え、リーグトップの129盗塁の機動力を併せ持つ。主砲・中村剛也の27本塁打を筆頭に、首位打者を獲得した秋山翔吾が25本、今季ブレイクした山川穂高が23本。ここに37盗塁を記録したルーキーの源田壮亮や、昨季の盗塁王で今季も25盗塁の金子侑司らの足が絡む。堅守巧打の内野手として西武黄金時代を支えた辻発彦新監督のもと、大技・小技を絡めた多彩な攻撃パターンを確立している。


 一方、楽天の売りは圧倒的な破壊力を持つ打線だ。ゼラス・ウィーラー、ジャフェット・アマダー、カルロス・ペゲーロの外国人トリオは計80本の本塁打を放った。初戦から打棒爆発となれば、開幕ダッシュでシーズン序盤をリードしたように楽天の下克上もあり得るだろう。


 ファイナルステージで待ち受ける王者・ソフトバンクは投打ともに万全の戦力を有する。先発投手は菊池と並ぶ16勝(5敗)で最多勝に輝いた東浜巨、13勝(4敗)の千賀滉大、同じく13勝(7敗)のリック・バンデンハークとふた桁勝利投手が並ぶ。リリーフ陣は岩嵜翔、嘉弥真新也、五十嵐亮太、森唯斗、リバン・モイネロと多士済々の顔ぶれ。最後はプロ野球新記録の54セーブをあげたデニス・サファテが締める。


 打線は35本塁打、103打点で二冠王のアルフレド・デスパイネ、31本塁打の柳田悠岐を中心にリーグ最多の164本塁打を記録した。同時に、犠打もリーグ最多となる156犠打をマーク。盗塁数こそ73個とリーグ4位だが、どのような試合展開になっても対応できるチームだ。しかしここに来て攻撃の軸となる柳田が脇腹を痛め、CSへの出場が絶望視されている。厚い選手層を誇るとはいえ代わりのいない主軸だけに、王者の思わぬ死角となる可能性もある。


 ソフトバンクは今季西武には16勝9敗、楽天には13勝12敗とともに勝ち越している。相性を見れば、エースの菊池に対して4戦4勝と圧倒しているだけに西武の方が与し易いか。しかし、今シーズンの西武は辻監督のもと、隙のないチームに仕上がっている。ソフトバンクの工藤公康監督は現役時代、辻監督とチームメイトだった。相手の手の内を知り尽くしているだけに、お互いに対策には抜かりがないだろう。獅子OBの対決に待ったをかけたい梨田昌孝監督は、選手時代も監督としても一歩届かなかった日本一のために負けられない戦いが始まる。


 球界の定説だが、ひとつのプレーで潮目が変わる短期決戦は、机上の理論だけでは予想できない。ソフトバンクも過去プレーオフで苦い経験をしたこともある。両リーグとも優勝チームがレギュラーシーズン同様に地力の違いをみせつけるのか、それとも下克上が起きるのか。熱い戦いから目が離せない。