(写真:参戦6シーズン目にして世界王者の称号を手にした室屋)

 19日、レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2017で年間総合優勝を果たした室屋義秀がRed Bull Studios Tokyo Hallでシーズンレビューを行った。アジア人初の総合優勝を成し遂げた室屋は「操縦技術で世界一になりたい」と意気込み、来季のV2へ向けて目標を語った。

 

 現地時間15日、アメリカ・インディアポリスから日本モータースポーツ界に朗報が届いた。エアレース・ワールドチャンピオンシップ2017シーズンの最終戦となる大会で室屋が優勝。4ポイント差で2位につけていた総合ランキングもトップに立ったのだ。大逆転で掴んだ世界王者。アジア人初の快挙だった。

 

 03年からスタートしたレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ。14名のパイロットが年間8戦での総合ランキングを競う国際航空連盟(FAI)公認の国際レースシリーズだ。最高時速370km、最大重力加速10G。10Gは同じモータースポーツであるF1の4Gをはるかに上回るもの。それが“世界最速のモータースポーツ”と呼ばれる所以だ。

 

 室屋は同シリーズに09年から参戦し、今季で6シーズン目(11年~13年の3年間は休止)を迎えた。年間ランキングの最高成績は6位。昨年の幕張(日本)大会でシリーズ初優勝を果たし、今季は目標を年間総合王者に定めていた。しかし、シーズンの開幕戦となったアブダビ(UAE)大会決勝でまさかのオーバーGによる失格。14人中13位という出遅れとなった。それでも第2戦、3戦と連勝し、総合ランキングトップに躍り出た。

 

 一時はランキング4位まで下がった。トップのマルティン・ソンカ(チェコ)とのポイント差は10。エアレース・ワールドチャンピオンシップは各ステージの獲得ポイントは1位15点、2位12点、3位9点、4位7点、5位6点、6位5点と続き、11位以下はポイントが付かない。総合優勝のためにはライバルたちにポイントを稼がせないことがキーになってくる。

 

 迎えた第7戦のラウジッツ(ドイツ)大会で室屋は逆転の総合優勝へ向けて、賭けに出た。「チャンスがきたら勝負に出よう」。予選3位の室屋は同12位の選手とラウンド14で対戦。先に飛行を終えた相手のタイムは52秒640。室屋は自らの実力を持ってすれば、2秒差で勝てると踏んだ。だが、あえて僅差の勝利を目指した。

 

(写真:航空業界の産業づくり、就業先を広げることも「大きな目標」に掲げる)

 タイムを落とし過ぎれば、敗退のリスクもあった。これには理由がある。室屋と総合ランキングトップを争う上位3名と直接対決を望んだからだ。ラウンド8の組み合わせは、ラウンド14のタイムで振り分けられる。果たして室屋の狙い通り、総合ランキング3位のカービー・チャンブリス(アメリカ)とのぶつかった。更にはソンカとマクロード(カナダ)の潰し合いとなった。ファイナル4へ進んだのは室屋とソンカだった。

 

 ファイナル4を制した室屋は見事に優勝し、今季3勝目を挙げた。ライバルのソンカは3位。ポイント差を6点詰めることに成功した。賭けに勝った室屋は最終戦も制し、ソンカは4位。「全力で飛んだ結果」は1分3秒026のコースレコードである。“モータースポーツの聖地”と言われるインディアナポリスでのシーズンラストフライトは最高のかたちで締めくくった。

 

 来季の目標は当然、2連覇だろう。これまで連覇は15年シーズン限りで引退したポール・ボノム(イギリス)しかいない。10シーズンで通算19勝、表彰台に上がったのは45回以上。3度のワールドチャンピオンに輝いたトップパイロットだ。「操縦技術で世界一になりたい。ボノムにはまだ追いついていない。技術を追い続けていきたい」。今季は8戦中4勝するなど“世界最強”の称号を手に入れた34歳。室屋が次に目指すのは“世界最巧”のパイロットだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)