「今、日本には、どのくらいの数のプロレス団体があるのだろうか?」

 個人でプロモートしているのを含めれば、それこそ星の数ほどあるのかもしれない。

 

 そんな中、昨年10月に『森のプロレス』を立ち上げた僕は悩んでいた。

「今の時代、プロレスに求めるものは何だろう?」

 マット史を紐解くことで、そのヒントが見つけられるかもしれない。

 

 戦後のプロレスブームを作った力道山は、プロデュース能力やビジネスマンとしての才能に溢れていたと聞く。当時まだ普及していなかったテレビをいち早く取り込み、敗戦後で落ち込んでいる国民に向けて、米国レスラーをバッタバッタとなぎ倒す試合を見せた。民衆の溜飲を下げたのは言うまでもない。

 

 80年代にプロレス中継がゴールデンタイムに放送され、大ブームを巻き起こした立役者の1人は、劇画から飛び出したタイガーマスクだ。四次元殺法と呼ばれた数々のウルトラCのスゴ技は、少年たちの心を掴んで放さなかった。

 

 90年代に入るとシンプルに強さだけを求める格闘技色の強いUWFやその対極を行く、土派手なリング演出を取り入れた電流爆破のFMWが一世風靡した。それぞれの時代で求められるスタイルは違うものの、いつの時代もプロレスを必要としているのがわかる。

 

 さて、スマホを持ち歩き、多種多様な情報を瞬時に手に入れられる現代であっても、プロレスにしかできない役割がきっとあるだろう。

 

 その答えを求め、日々考え続けていた僕が出した結論は、昨年の旗揚げ戦で感触を得た『リング体験』ができるプロレスだ。器であるリングを体感することで、より試合をリアルなものとして捉えることができるのではないだろうか? 野球やサッカーのように気軽に体験できないのがプロレスの弱点である。今こそ選ばれし者しか上がれなかった神聖なるリングを開放し、身近なものにしていくという発想なのである。

 

 リングに立つだけでパワーがみなぎるあの感覚を一度味わってもらいたい。360度から人に見られる舞台などそうあるものではないので、きっと病みつきになるだろう。

 

 これからのプロレスは見るだけではなく、体験する時代かもしれない。もちろん、素人がリングでプロレスごっこをするという意味ではない。

 

 試合は、鍛え抜かれたプロの選手がやるのだが、試合の前後にリング体験コーナーとして、リングに上がり、ロープに走ってみたり、コーナーに登るという『体験』を希望者にやってもらうのである。もちろん安全面を一番に考慮し、プロ選手の管理の元行なう。もし、人前でやるのが恥ずかしいなら、試合後にリングに上がって記念撮影するだけでも良いと思う。リング上の景色はきっとインスタ映えするに違いない。

 

 リングに足を一歩踏み入れた者は、きっとプロレスに親しみを覚えるだろう。

 この企画を今年3月に新宿中央公園で行なう予定だった『森のプロレス』で実験してみようと思っていたが、残念ながら雨で中止となった。

 

 再びチャンスが訪れたのは、今月14日からの2日間だ。

 なんと富士スピードウェイにて、『森のプロレス』を開催することが決まったのである。

 

 いよいよ、この体験型プロレスを試せる時が来たのだ。

「楽しみでもあり、正直不安も大きい」

 出場する選手やマッチメークを考えるのは得意なほうだが、今回はかなり悩みに悩んだ。

 

 世界大会であるWEC6時間耐久レースとのコラボだけに下手なプロレスは見せられないからだ。

 観客の大半は、おそらくプロレスを見たことのない人たちと予想されるだけに人選が肝となる。一番は分かりやすいプロレスでないとダメだろう。

 

 その意味では、ヒールの存在が絶大だと思い、アジャ・コング選手の顔が浮かんだ。

 場外乱闘や凶器攻撃などがある競技はプロレスだけだ。盛り上がること間違いなしだ!

 

 闘いの中に「笑い」が大きなスパイスになるので、そこにも力を入れたい。

 その意味では、がばいじいちゃん選手(九州プロレス所属)が適任だと思った。お年寄りキャラがリングで闘うというだけで面白い。

 

 トーク力で笑わせてくれる部分では西口プロレスの選手も良いかもしれない。

 僕はすぐさまアントニオ小猪木さんに声を掛けてみた。実際に本人と話をしてみるとプロレスに対する真摯な姿勢がうかがえた。「実は、藤原さんの関節技教室にも通っています」

 この言葉を聞いて、小猪木さんと藤原組長(藤原喜明)とのシングルマッチが決定した。

 

 この試合をオープニングマッチにし、間髪入れずにアジャ・コング選手の女子プロレスの試合。続いて、がばいじいちゃんの試合で少し和んでもらい、メインの試合は、昆虫のマスクを被った選手6人で争われる『昆虫大決戦』だ。

 

 スズメバチやゴキブリなど人間に嫌われている昆虫ヒール軍とクワガタやカブトムシなどの昆虫正義軍との6人タッグマッチを組んだ。『森のプロレス』だけに子どもたちも喜ぶ昆虫の世界観を演出してみたのである。

 

 2日目は、あの越中詩郎選手をお呼びして10人時間差のバトルロイヤルを計画した。

 

 さて、準備万端で当日を迎えたのだが、またしても雨。

 強行突破で試合は何とか行なったものの、『リング体験』企画は残念ながら、またもや持ち越しとなってしまった。僕は雨男なのだろうか……。

 

 この目玉企画が今の時代に受け入れられるのか、次回以降の課題にしたい。


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