29日にJ1の第31節が各地で行われ、優勝争いは鹿島アントラーズと川崎フロンターレの2チームに絞られました。降格争いも数チームに絞られてきましたね。優勝争い、降格争いの真っ只中にいるクラブのサポーターにとって、手に汗握る時期となりました。

 

 まずは、優勝争いから見てみましょう。30節終了時点で首位鹿島の勝ち点は64。2位川崎Fの勝ち点は62。両者の差はわずかに2でしたが、31節に鹿島は札幌相手に2対1と勝利を収めました。川崎Fは柏レイソルと2対2の引き分け。残り3節で勝ち点差は4に開きました。これは大きいですね。

 

 鹿島は後半2分にMF三竿健斗のプロ初ゴールで先制しますが、15分にMF兵藤慎剛のミドルシュートで同点に追いつかれました。引き分けもよぎりましたが、10分後にエースのFW金崎夢生がきっちりと決めて見事勝ち越し。金崎がうまく左サイドに流れながらDFラインの裏に走り込んで決めました。金崎は前半から何度もDFラインの裏に走り込んでいました。オフサイドにかかる回数も多かったものの、しつこく同じ動きを繰り返したことが結果につながりました。彼の持ち味が存分に出た素晴らしいゴールでした。このかたちをやり続けたことで、札幌DF陣の一瞬の隙を突きましたね。同じ動きを愚直に繰り返し、DFラインに穴を開けた金崎は素晴らしい。ここ一番での粘り強さが出ました。

 

 一方、川崎Fにとっては柏を相手に手痛いドロー。10月25日に行われた天皇杯でも柏に敗れています。ここでしっかりと立て直して勝ち切る力が欲しかった。優勝を経験しているチームとしていないチームの勝負所の差が出てしまったなぁ、という印象です。選手全体の意識、集中力の差が結果に表れてしまった。川崎Fは1つタイトルを獲るだけでも随分変わると思います。ルヴァンカップでは決勝に駒を進めています。ここでまずは1つ、タイトル奪取といきたいですね。

 

 次節は日本代表の欧州遠征と鹿島の対戦相手である浦和レッズがアジアチャンピオンズリーズで決勝に駒を進めた関係もあり、日程が変則的です。鹿島対浦和は11月5日にカシマスタジアムで行われ、川崎Fは18日にガンバ大阪と等々力陸上競技場で試合をします。鹿島が勝ち、なおかつ18日に川崎Fが負けると鹿島の優勝が確定。いずれにしても鹿島は目の前の戦いに集中して臨むべきですね。

 

 残留争いはどうでしょう。前節では最下位のアルビレックス新潟がホームでサガン鳥栖から勝利をもぎ取り、降格を回避しました。ホームでの勝利は5月20日の札幌戦以来、実に5カ月ぶり。15位ヴァンフォーレ甲府、16位サンフレッチェ広島、17位大宮アルディージャがいずれも敗れたため首の皮一枚つながりましたが、いずれにしても新潟は厳しいでしょう。能力の高いMF山崎亮平やFW田中達也ら経験がある選手がいるがゆえに、リーグ序盤、監督のゲームプランと選手たちが噛み合わなかったのが悔やまれますね。

 

 ルヴァンカップ決勝はフレッシュな顔合わせ

 

 11月4日にはルヴァンカップの決勝が埼玉スタジアムで行われます。決勝カードはセレッソ大阪対川崎Fです。C大阪は初のファイナル進出。川崎Fは8年ぶりのファイナル進出となりました。どちらが勝っても初の主要タイトル獲得となります。僕は川崎Fが勝利すると予想します。

 

 展開としては序盤にC大阪が仕掛けつつも、川崎Fがうまくバランスを保って対応するのかなと思います。それにもともと川崎Fは激しいプレスを掛けられてもうまくいなせるチームです。リーグで柏に引き分けたとはいえ、調子が悪いわけではない。自信を持って戦ってほしいですね。問題は、ここ一番、勝負所でのミスからの勿体ない失点でしょう。ミスからカウンターを受けてバタつかなければ川崎F優位は堅いのではないかなと思います。

 

 川崎Fは鹿島時代の後輩の鬼木徹が今季から指揮を執っています。就任1年目でタイトル獲得となれば自信がつくでしょう。鬼木は素晴らしい采配を振るっているので僕もとても楽しみです。

 

 また、今季から決勝を除き、必ず21歳以下の若手をスタメン起用しなければいけないルールが設けられました。Jクラブに所属する東京五輪世代の選手たちも大いに刺激を受けたのではないでしょうか。今季のニューヒーロー賞に輝いた21歳のベガルタ仙台・FW西村拓真はこのルールがきっかけとなりルヴァンカップでチャンスを掴み、リーグ戦でもコンスタントに出場するようになりました。

 

 若手の発奮材料に一役買った、新レギュレーション。リーグ戦とは違う変化が起こり、素晴らしい取り組みだったと僕は思います。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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