「もちろん目指すところはプロです。ただ今年はケガなどで苦しんだ時期もあったので、この成績で行けるとも思っていません。まずはしっかり結果を残し、いずれはプロに行きたい」

 社会人4年目の板東湧梧。その落ち着いた語り口は、マウンドでの振る舞いに通ずるものがある。彼は社会人野球の名門・JR東日本で次期エースとして期待されている。

 

 10月26日、プロ野球ドラフト会議では育成を含む114名がNPB球団から指名を受けた。プロ野球選手になる権利を掴んだ者たちの中に板東の名はなかった。彼の所属するJR東日本は全国屈指の強豪だ。都市対抗野球大会は20回、社会人野球日本選手権は9回出場。2011年には都市対抗で優勝している。同年から6年連続で所属した選手をNPBへ輩出。今年も田嶋大樹が2球団からドラフト1位指名を受け、抽選の結果、オリックスバファローズに交渉権が渡った。

 

 板東自身、プロへの憧れはあったものの、高校3年時にプロ志望届は提出していない。その意識が芽生え始めたのも、JR東日本という強豪にいたからだという。

「このチームにいると、毎年プロに行く選手が出てくるんです。自分と親しくしていた人や近くで接していた人がプロに行くということを初めて経験しました。またそれがすごくたくさんあるので、その度に刺激を受けています。同期で千葉ロッテマリーンズに入った関谷(亮太)さんや東条(大樹)さんには良くしてもらっていたのですが、そういう選手たちがプロに行くのを見て、“自分もあの場所で投げたい”という気持ちが出てきました。去年は同い年の山岡(泰輔)がオリックスのドラフト1位。彼とはご飯に行ったりした仲なので、活躍している姿を見ると、やはり刺激になります」

 

 4学年上の関谷と東條は同期入社である。2人は既にプロのマウンドを経験。関谷はルーキーイヤーに5勝を挙げている。同学年の山岡は新人ながら先発ローテーション入りを果たし、8勝を挙げた。社会人No.1投手の呼び声高い田嶋に至っては、入社時から一緒にやって来た1学年下の後輩だ。注目を浴びた中での1位指名は、板東も大きな刺激を受けた。

 

 カーブとストレートの緩急はトップクラス

 

 社会人野球の名門で研鑽を積む板東は、淀みない投球フォームからMAX145kmのストレート、カットボール、スライダー、カーブ、シュートを操り、バッターを打ち取るタイプのピッチャーだ。

 

 数多のプロ入り選手を育ててきたJR東日本の堀井哲也監督は板東の持ち味に「総合力」を挙げ、こう評価する。

「フォームに欠点がない。ボールのキレ、コントロール、精度は社会人では上位です。ピッチャーとしてのメンタリティーも良い。強気でバッターに向かっていけますし、調子が悪い時でもなんとかできる術を持っています」

 

 総合力の高さは板東も自負するところだ。「自分は物凄い球がないので、いろいろな球を使って総合力で勝負するタイプ」。田嶋のように150kmを超える剛速球を投げられるわけではない。“魔球”を操り、打者を手玉に取るわけでもない。制球に磨きをかけ、緩急や内外の出し入れで打ち取る。それが“持たざる者”の生きる道である。

 

 彼自身は飛び抜けた武器がないと言うが、ブレーキの効いたカーブはバッターにとって厄介な球種だ。ストレートの組合せで打者を翻弄できる。堀井監督も「ストライクを取れるし、ボール球で振らせることもできる。真っ直ぐとの緩急は社会人でもトップクラス。バッターが1回、前に出てしまうようなブレーキがありますね」と称える。

 

 板東が「個人的に好きな球種」というカーブは、彼の調子を測るバロメーターにもなる。「軸というわけではないのですが、カーブが決まっている時は良いイメージがあります」。タイプとしては東北楽天ゴールデンイーグルスの岸孝之のような抜く球だ。

 

 バッターを仕留める時の理想像に、板東は相手のタイミングを崩した時を挙げる。

「カーブで打ち取った時が、一番気持ちが良いです。2ストライクに追い込んで、バッターが予想していなかった反応を見せて見逃し三振を奪うのが一番」

 

 そんな秀でた投球術を持ち、JR東日本でも次期エースとして期待される板東。小学2年から野球一筋で歩んできたが、彼は常にチームのエースだったわけではなかった。

 

(第2回につづく)

 

板東湧梧(ばんどう・ゆうご)プロフィール>

1995年12月27日、徳島県鳴門市生まれ。小学2年で野球を始める。板東小、大麻中を経て鳴門高校に進学。2年時のセンバツに野手としてベンチ入り、甲子園の土を踏んだ。2年秋からエースとなり、3年時には春夏の甲子園出場。夏の甲子園では63年ぶりのベスト8進出に貢献した。高校卒業後は社会人野球のJR東日本に入社。MAX145kmのストレート、ブレーキの利いたカーブを武器に打者を打ち取る。身長180cm、体重70kg。背番号13。

 

(文・インタビュー写真/杉浦泰介、取材/交告承已)

 


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