メンバーから外されて愉快な気持ちでいられる選手などいない。今回の欧州遠征のメンバーから外された香川の怒りは、至極当然である。イングランドの岡崎も、メキシコの本田も、おそらくは同じ気持ちなのだろう。

 

 もし、外したのがアギーレ、あるいはザッケローニなのであれば、わたしは大いに反発していたことだろう。彼らのチームは成熟を必要とするスタイルだった。ころころと主軸を動かしていては、完成度など高まるはずもないからだ。

 

 だが、ハリルホジッチ監督のやり方は違う。自分たちのスタイルを突き詰めているのではなく、相手に合わせてカメレオンのようにやり方を変えるのが、3年前に彼が率いていたアルジェリアだった。

 

 さらに言うなら、W杯ブラジル大会に臨んだアルジェリアは、参加国中最も評価の低いチームのひとつでもあった。すべての相手は勝ち点3の獲得を目標にアルジェリアとの戦いに臨み、寝首をかかれた。もし大会前のテストマッチでアルジェリアが高い評価を得ていたとしたら、対戦相手のやり方はまた違ったものになっていただろう。

 

 思えば、ベスト16に進出した南アフリカでの日本も、前評判は最悪だった。いや、評判だけでなく、実際の戦いぶりもわたしはほとんど評価していないが、しかし、ひとまずの結果を残すことには成功した。ブラジルにおけるアルジェリア同様、すべてのチームが日本を「勝たなければならない相手」と見なしてくれたことが大きかった。

 

 ハリルホジッチ監督のスタイルを評価する人たちからは「格上の相手がほとんどとなるW杯でこそ、彼のやり方が力を発揮する」という声が聞こえてくる。これはわたしもまったくもって同感である。特に、相手どうこうではなく、自分たちのサッカーを貫いてくる相手とやるときは面白い。

 

 ブラジルでのアルジェリアは、1次リーグでは相手GKの信じがたいミスなどにも助けられた感もあったが、決勝トーナメント1回戦での戦いぶりは見事だった。そして、その時の相手が優勝しドイツだった。

 

 82年のW杯で苦杯を喫しているとはいえ、ブラジルでのドイツにアルジェリアに対する過度の警戒があったとは思いにくい。というより、ドイツほどの相手に警戒されてしまっては、アルジェリアにできることはほとんどなかったかもしれない。

 

 対戦相手の警戒心は、カメレオン型のチームにとって最大の敵だからである。

 

 もし、ロシアでのハリルホジッチが2匹目のドジョウを狙うのであれば、大会前の前評判は低いに越したことはない。本田や香川は、この時期にメンバーから外されたことにより、「盛り過ぎた」と見なす人が出てくる可能性がある。

 

 ただ、この論法にのっとると、今回のブラジル戦、日本は惨敗した方がいいかも、という結論に至ってしまうのが、ちょっと辛いところなのだが。

 

<この原稿は17年11月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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