11月は日本代表がヨーロッパ遠征でブラジル代表とベルギー代表と親善試合を行いました。結果はブラジルに1対3、ベルギーに0対1と完敗。強豪相手の戦い方の調整が遅れているような気がしますね。また、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)では浦和レッズが見事、10年ぶり2度目の優勝を達成しました。サッカーファンにとっては慌ただしい1カ月だったのではないでしょうか。1つずつ振り返ってみましょう。

 

 基礎が徹底されているブラジル

 

 まずは日本とブラジルの一戦から。この試合ではビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR=ビデオ判定)が試されました。誤審を防ぐ良い試みだとは思いますが、やはり試合の流れが止まってしまうのは気になります。例えば主審の腕時計で映像が確認できるようにするとか、スタジアムのオーロラビジョンを使うなど、主審がピッチ外のモニターまで走らずにすむだけでもだいぶ改善されるはずです。

 

 そのビデオ判定がきっかけでPKを取られ、開始10分で失点しました。そして立て続けに2失点し、前半だけで0対3。後半にコーナーキックから1点を返すにとどまりました。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「後半だけなら勝っていた」と手ごたえを口にしたようですが……。これは違うでしょう(笑)。ブラジルは前半で試合を決めたから、後半は新しいことを試し、力をセーブできた。それで日本にも多少、スペースを与えてもらっただけです。全てのレベルが違ったし、格の違いを見せつけられました。

 

 ブラジルとの差は何なのでしょう。やはり日本のスタイルが定まらないのは大きいと思います。監督が代ればサッカーのスタイルが変わってしまうのが今の日本です。個の力を上げること、そしてもっと選手がサッカーを理解しないと強豪との差は埋まりません。

 

 例えば、ブラジルは自由でリズミカルなサッカーを展開します。ですが、自由と言ってもそのプレーを選択した裏付けは必ずあります。誰かがドリブルをしている間に他の選手が走り込むべきタイミングでしっかり走り込んでいる。そしてその選手にしっかりパスを通せる技術がある。2人でパス交換をしていても、遠くで誰かが走り込んでいる。みんなでイメージを共有してタイミングよくパスが通る。

 

“3人目の動き”とよく言いますが、こういったベースがきっちりとしているのがブラジルです。自由とはいえ、サッカーの基礎がしっかりしていますよね。道のりは遠いですが、日本だって不可能ではないと思います。Jリーグが発足して25年目。それでここまで日本サッカーは発展したのですから、やれないことはないと僕は思います。

 

 絶対的存在の不在

 

 続くベルギー戦は試合の入り方を変えました。全体をコンパクトに保ち、前から積極的にプレスを掛けましたね。後半は体力的にキツくなりほころびが出ました。ハイプレスを90分通して行うのは厳しい。守っていても“どこで仕掛けるのか”という狙い所がないと世界を相手に得点はできないでしょう。劣勢で耐えている時でも“前線の選手にどこで一発、勝負させるか”をしっかり考えないと効果的なカウンターには繋がりません。

 

 僕が現役時代、鹿島アントラーズでプレーをしていた時はそうでした。守備陣は我慢の連続ですが、ボールを奪うとジーコに繋げる。するとジーコが最前線にいる黒崎久志や長谷川祥行にうまく展開してゴールに結びつけました。

 

 今の日本代表の選手は常にみんなが頑張っています。そして、みんながそつなくプレーできています。しかし、“コイツにボールを繋げれば、何か起こしてくれる”という絶対的存在がいないのが少し寂しいですね。

 

 ベルギー戦の失点シーンはナセル・シャドリ1人に4人がかわされ、クロスを上げられてロメロ・ルカクにヘディングで決められました。DFとボランチ含めてあれだけ切り込まれてはダメでしょう。そしてボールホルダーばかり見てしまい、裏に走っているルカクにマークをつききれなかった。日本の指導者たちは子供に教える時に「ボールばかり見てはダメだよ」と口酸っぱく指導しています。にもかかわらず、代表クラスの選手たちがあれをやってはいけませんね。

 

 我慢を覚えた浦和レッズ

 

 もう1つ大きなトピックスがありました。浦和レッズが10年ぶり2度目のACL制覇を成し遂げました。日本勢としても9年ぶりのACL優勝です。浦和の選手、スタッフ、サポーターの皆様にはおめでとうございます。決勝の対戦相手のアルヒラルはレベルの高いチームでした。ファーストレグ、浦和は引いて守る戦術を採用しました。その中でラファエル・シルバの先制点が浦和イレブンを楽にしました。のちに同点ゴールを許しましたが価値あるアウェーゴールをもぎ取り1対1でホームに帰ってこられたのは大きかった。

 

 ホームで行われたセカンドレグ。0対0でも浦和の優勝です。浦和は長澤和輝をトップ下に据えて、前線からボールを追い、攻撃的にでました。第1戦よりチャンスは作れていたと思います。そして後半35分、冷静さを欠いた相手選手が退場しました。これでゲームは決まりましたね。スコアレスドローでもいい浦和は数的有利になったことでやるべきことがはっきりしました。無理はせずにチャンスが来たら確実に仕留める。終了間際にカウンターからシルバが抜け出し豪快にゴールネットを揺らしてくれました。

 

 この優勝で浦和は12月にUAEで行われるFIFAクラブワールドカップに出場します。ヨーロッパ代表のレアル・マドリードと対戦できる可能性があるだけに、頑張ってほしいですね。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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