(写真:地元国体で成年男女優勝を成し遂げた愛媛県代表選手団)

 伊予銀行テニス部部員が出場した「愛顔(えがお)つなぐ えひめ国体」(愛媛国体)では、成年女子が連覇を果たし、同男子が初優勝。地元開催の国体で、見事アベック優勝を成し遂げた。伊予銀行は第32回日本リーグ開幕を控えており、快挙の勢いに乗って約3カ月間続く冬の決戦を駆け抜けたいところだ。

 

 

 まずは10月に行われた愛媛国体を振り返ろう。片山翔と佐野紘一の伊予銀行コンビで臨んだ成年男子。1日の1回戦は栃木県代表と戦い、2対0のストレート勝ちを収めた。片山、佐野はいずれも8-1と危なげない勝利だった。愛媛県代表の秀島達哉監督は「多少緊張もありましたが、片山と佐野は自分の持ち味をしっかり出してくれた」と振り返った。

 

(写真:勝利への執念を見せ、任された試合は全勝の片山)

 翌日の2回戦は埼玉県代表。秀島監督も警戒していたチームのひとつだ。予想通り、試合も熱戦となった。まず片山が8-4で取るも、佐野は4-8で落とした。トータルスコアは1対1となり、ダブルス勝負となった。「こういう試合展開を予想していた。ダブルスは詰めて練習をやっていたので、うまくいきました」と秀島監督。8-3で制し、ベスト8入りを決めた。

 

 準々決勝、準決勝は同日開催だった。片山の出身県でもある福岡県代表を2対0で下すと、準決勝は京都府代表に2対1で競り勝った。指揮官も「要所要所で締めてくれて、ダブルスに関しては文句の付けようがなかった。特に片山の勝負にこだわるテニスを一番大事なところで出してくれました」と目を細めた。

 

 4日に迎えた決勝は福井県代表が相手だ。愛媛県の成年男子としては初の決勝。福井は来年の国体開催県である。菊池玄吾、ロンギ正幸(いずれも福井県体育協会所属)のプロ2名を擁している強敵だった。トップバッターの片山は菊池を8-2で破った。秀島監督の眼には片山の意地が映った。片山は伊予銀行初のプロ契約選手。愛媛国体に向けて獲得した選手でもある。

 

(写真:佐野は決勝で持ち味の粘り強いテニスを発揮した)

「片山の勝ちへこだわり。“絶対優勝するんだ!”という意思表示が見えたテニスでした。その勢いを佐野が受け継ぎました」

 片山からバトンを受け取った佐野は、序盤にリードを奪う。しかし、追い付かれるなど苦しめられた。対戦相手のロンギには1度も勝っていない。そのままの流れで持っていかれてもおかしくはない中で、踏ん張った。「勝負所で守るのではなく自分からポイントを取りにいった」(秀島監督)。攻めの姿勢を失わず、最後は相手のサーブをブレークして9-7で勝利をもぎ取った。

 

 愛媛は福井相手に2対0で栄冠を手にし、チームで喜びを爆発させた。メンバー外の伊予銀行テニス部員はサポート役に回った。「裏方も含めて100点満点。チームの勝利だと思います」と秀島監督は胸を張った。

 

(写真:女子は2連覇達成。波形<左>は昨年に続き優勝に貢献)

 一方、女子は昨年の優勝ペア・波形純理&長谷川茉美から、長谷川と愛媛県松山市出身の華谷和生(はなたに・なぎ=Ravie Court)が入れ替わった。所属チームも違えば、回っているツアーも重なることが多くない。連携面などで不安を抱えながら、大会を迎えた。しかし、ふたを開けて見れば全戦2対0。ダブルスに回すことなく連覇を達成した。

 

 その数字だけで言えば、圧勝に見えるが実は違う。愛媛県代表を決める予選会で華谷が1位、波形が2位。国体では予選会の順位がエントリーにも影響するため、シングルスNo.1は華谷、No.2は波形という陣容になる。相手のNo.1がプロ選手で経験豊富な波形ではなく、華谷と対戦する点も不安要素のひとつだった。

 

(写真:シングルスNo1として1つも星を落とさなかった華谷)

 それでも華谷は1回戦が9-7、2回戦が8-6と接戦をモノにしている。トップバッターの華谷がチーム勢い付け、波形が続いた。沖縄県代表、佐賀県代表を撃破すると、準々決勝で神奈川県を8-1、8-3で下した。続く準決勝がヤマ場だった。対戦相手は昨年優勝を争った京都府代表だ。

 

 これまで同様、華谷が8-4でシングルスNo.1の仕事をきっちり果たす。続く波形の対戦相手は梶谷桜舞(島津製作所)。奇しくも昨年と同じ組み合わせとなった。スコアも同じくタイブレークの9-8。内容で言えば、波形のテニスは決して良くなかったという。それでも勝ち切れるのが彼女の強みだ。

 

(写真:波形は苦しい試合でも競り勝つ底力を見せつけた)

 波形の勝負強さは埼玉県代表との決勝でも見受けられた。華谷がインカレチャンピオンから8-6で先取して迎えたシングルスNo.2。秀島監督が「相手選手が相当良かった。私たちが持っている情報以上のプレーをしてきました」と驚く出来だった。リードされる場面もありながら、「相手の流れでも見失わずに自分のテニスをやれるのが波形」という指揮官の言葉通り、9-7で勝ち切った。

 

 一足先に優勝を決めた成年男子に加え、女子も47都道府県の頂点に立った。胴上げをされた秀島監督は「最高でした。長い間やってきた苦労が報われたなという感じです」と胸をなで下ろした。

「職場の方も、一般の方もたくさん応援に来ていただきました。観客席も満席になるほどで、皆さんの声が選手たちにいい雰囲気をつくってくれたと思います。すごく力になった。忘れられない最高の国体になりました」

 

(写真:多くの観客の声援を力に愛媛県代表は戦い抜いた)

 地元開催の国体で、男女アベック優勝という快挙に沸いた後、伊予銀行テニス部は新たなスタートを切った。秀島監督は退き、日下部聡コーチが昇格。12月7日から日本リーグを迎える。伊予銀行は横浜でのファーストステージで山喜、JR北海道、MS&AD三井住友海上、九州電力と対戦する。

 

 現在は顧問という立場となった秀島前監督は、新指揮官をこう評価する。

「彼自身努力家ですし、選手もよく見えている。非常にいい指導者になっていくと思います。チームを引っ張っていけるバランス感覚を持っていて、安心してバトンタッチできました」

 

 日下部新監督の現役時代、専修大学から伊予銀行に引っ張ってきたのが秀島顧問である。一度は離れ離れになったが、秀島顧問が専任監督としてチームに戻ったシーズン、日下部新監督がキャプテンを務めたこともある。そんな縁もあり、愛媛国体を控える中で日下部新監督にコーチを要請した。

 

(写真:国体では成年女子のベンチに入り、盛り立てた日下部新監督<右>)

 一方の日下部新監督は、引退後に秀島顧問から指導者の道を勧められていたこともあり、コーチングライセンスを取得していた。香川の支店に移っており、テニス部から離れていたが気持ちまでは離れていなかった。昨年7月からのコーチ就任は次期監督の布石でもあった。「コーチとしての流れもあるので、新鮮な気持ちというのはあまりないのですが、監督を引き継いで責任を感じています」

 

 伊予銀行は日本リーグで3年連続決勝トーナメントに進出しており、ここ2年は5位が続いている。「面倒見が良く、気持ちが熱い」という情熱派の前監督からバトンを受け取った新指揮官は「出るからには優勝。国体で最高の成績を収められたので、いい流れで日本リーグに臨みたいです」と意気込んでいる。

 

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