(写真:山口は3年連続決勝進出、2度優勝の安定感)

 3日、第71回全日本総合バドミントン選手権最終日が東京・駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で行われた。女子シングルス決勝は20歳の山口茜(再春館製薬所)が1学年上の大堀彩(トナミ運輸)を2-1で下し、3年ぶり2度目の優勝。同ダブルスは世界選手権銀メダルの福島由紀&廣田彩花組(再春館製薬所)がリオデジャネイロ五輪金メダルの髙橋礼華&松友美佐紀組(日本ユニシス)をストレートで破った。福島&廣田ペアは全日本総合初制覇となった。

 

 男子シングルス決勝は昨年王者の西本拳太(トナミ運輸)が武下利一(トナミ運輸)にストレートで敗れ、連覇を逃した。武下は初優勝。同ダブルスは遠藤大由&渡辺勇大組(日本ユニシス)が初制覇を果たした。遠藤は早川賢一(現日本ユニシスコーチ)とのペアも含むと4度目の優勝となった。一方の渡辺は東野有紗(日本ユニシス)と組んだ混合ダブルスも制し、ダブルス2冠を達成した。

 

 また日本バドミントン協会は大会終了後、2018年の日本代表ナショナルチームを編成する強化本部会を行った。注目された男子シングルスの桃田賢斗(NTT東日本)のナショナルAチーム復帰が内定した。ケガのため、今大会初戦で棄権した女子シングルスの奥原希望(日本ユニシス)もナショナルAチームでの選出となった。

 

 楽しむプレーで2度目の戴冠

 

(写真:山口は沸かせるプレーで観客も魅了。声援も多かった)

 勝利が決まった瞬間、コートで小さく跳ねた山口。いつも淡々としている彼女にしては珍しいリアクションだった。ファイナルゲームまでもつれる熱戦に喜びもひとしおだったのだろう。

 

 4年ぶりの対戦となった大堀とは13年世界ジュニア選手権決勝では山口がストレート(21-11、21-13)で勝っている。山口は2年連続3度目の全日本総合決勝進出であるのに対し、大堀は初の決勝進出だった。特に今大会の大堀は気迫十分。「ここで倒れてもいいぐらい」の気持ちで臨んだという。

 

 第1ゲームから観客が息をのむようなシーソーゲームとなった。大堀が169cmの長身を生かしたスマッシュに加え、ヘアピン(ネット付近に飛んできたシャトルを、相手コートのネット際に落とすショット)などネットプレーも巧みに使う。山口がスマッシュ、ドロップと硬軟使い分け、相手を翻弄する。お互い持ち味を発揮しながら、得点を重ねていく。22-22のデュースから連続得点を奪ったのは大堀。24-22で第1ゲームを先取した。

 

 続く第2ゲームは山口は序盤からリードを広げる。1-1から6連続得点を挙げた。中でも3-1から決めた3本はノータッチ。強烈なスマッシュあり、クロスへの巧打もあり、圧巻のプレーぶりだった。リードを保ったまま終盤を迎え、このゲームは21-16で取り返した。

 

(写真:惜しくも準優勝だったが来年のナショナルA入りが濃厚な大堀)

 ファイナルゲームも接戦だった。山口が4-1で一気に畳み掛けるかと思われたが、大堀も必死に食らいつき、5-5と追いつく。そこからは一進一退の攻防。ハイレベルな戦いに観客も沸いた。「いつもより気持ち良くプレーができて楽しかった」と山口。厳しい戦いにもかかわらず、時折笑顔を見せるなど試合を楽しんでいる様子だった。

 

 17-18からの3連続得点でチャンピオンシップポイントを手にすると、1点を返されたものの、最後は決めた。3年ぶりに皇后杯を手にした。「攻略できたとは思っていません。2ゲーム目、3ゲーム目もずっと相手のペースだった。最後大きく点差を離されずに我慢していけたことが良かったと思います」。山口は自身の粘りを勝因に挙げた。

 

 初優勝時は17歳。BWFスーパーシリーズ(SS)のヨネックスジャパンオープンを制したとはいえ、その時と現在とでは彼女の立ち位置は異なる。

「3年前、優勝した時はまだ高校生。優勝を狙うというよりは、“どこまでいけるか”と向かっていくだけで気楽にプレーできた。3年が経って、どちらかと言えば向かってこられるような立場になったんですが、その中でも楽しめるようになってきたのかなと思います」

 

(写真:山口は「楽しめた」との言葉通り、インターバル中も表情は明るかった)

 その言葉通り、この日の山口のプレーには“バドミントンが楽しい”という想いが溢れているように映った。1時間17分にも及んだ激戦に耐えられたのかもしれない。個人戦では13日にUAE・ドバイでBWFスーパーシリーズファイナルズ(SSF)を控える。SSFはSS年間ランキング上位8名までが出場できる大会。山口はランキングトップで出場する。最高位は3年前のベスト4だ。

 

 2年前の優勝者・奥原希望(日本ユニシス)はケガのため棄権。日本勢の女子シングルスでの出場は山口のみとなる。それでも彼女に肩肘張る様子は見えない。
「トップの試合しか出てこないので1試合1試合大変になると思いますが、それこそ楽しく臨みたい。去年は初戦で負けたしまったので、あまり気負わず自分の納得のいくかたちで終えられたらなと」

 

 リベンジ果たす初戴冠

 

(写真:優勝が決まった瞬間、涙を流して喜んだ福島<左>と廣田)

 多士済々の日本女子ダブルス。BWF世界ランキングトップ10位内に4組が日本勢だ。SS初制覇、世界選手権銀メダルなど今季躍進の福島&廣田ペアがエースダブルスの“タカマツ”ペアを下した。

 

 国際大会の対戦成績は2勝2敗。しかし福島&廣田ペアは直近のダイハツ・ヨネックスジャパンオープン準決勝でストレートで敗れ、全日本総合でも昨年の準決勝で1-2で屈した。リベンジに燃える想いは強かったのだろう。第1ゲームはスタートから3連続得点で抜け出すと、中盤と終盤にも連続得点を重ねた。福島&廣田ぺアが21-14で先取した。

 

 第2ゲームは“タカマツ”ペアも意地を見せる。松友の巧みな配球、髙橋の強打に福島と廣田の返球がネットをかすめる場面も目立った。それでも押し切られることなく踏ん張った。16-16でラリーを制すると観客席からは大きな拍手が送られた。福島&廣田ぺアは18-18からの3連続得点で逃げ切った。

 

(写真:リズムに乗り切れぬまま相手に押し切られた髙橋<左>と松友)

「最後の21点を取るまでは気は抜けなかった。調子も良かったですし、優勝できそうな雰囲気は相手よりはあった

かなと思います。最後までしぶとく拾って、攻めのパターンを多くつくっていたのが良かったのかな」と再春館製薬所の末綱聡子コーチ。今年はナショナルAチーム入りし、国際大会を多く経験した。末綱コーチも成長に繋がったと見ている。
「1年間ナショナルで海外を回ってきて、勝った試合もあれば負けた試合もあった。その中で2人で話して考えながらやってきた結果じゃないかなと思います」

 

(写真:前へ前へと攻めの姿勢を貫いたことも福島<右>と廣田の勝因)

 2人は昨年ペアを組み替えた時期もあった。
「組み替えることによって廣田のいいところもわかりましたし、プレー的には変わっていないかもしれないが精神的にはお互い良くなったんじゃないかと思いました」(福島)
「福島先輩についていくだけだったのが、コミュニケーションが増えていった。後輩と組むことによって精神的にも強くなれた部分はあったと思います」(廣田)

 

 ペア復活から快進撃が続く。昨年の全日本総合時点で18位だったBWF世界ランキングも5位。2位の“タカマツ”ペアに次ぐ日本勢2番手につけている。福島は「そこに食らいついていけるようにしたい」と意気込む。「真の日本一を決める大会。小さい頃から憧れていた」(廣田)全日本総合を制し、勢いに乗る。「もっと強くなる」。1学年違いのペアはそう口を揃えた。

 

(文・写真/杉浦泰介)