(今年も3戦3勝のロマチェンコは無人の荒野を行く快進撃を続けている Photo By Mikey Williams / Top Rank Boxing)

 多くの好カードが実現し、ファンを喜ばせた2017年も大詰めに近づいている。今年度のアメリカ国内の主要ファイトはすでに終了。そこで今回は2017年の世界ボクシング界を振り返りつつ、年間最高選手を独自に選出してみたい。

 

 今週末にはWBO世界ミドル級戦、年末には日本で恒例の世界戦ラッシュも残っているが、その結果が今回の選考に影響することはあるまい(井上尚弥も今年度は対戦相手の質がやや弱い)。だとすれば、この時点で“Fighter of the Year”を選んでしまっても問題ないはずである。

 

ワシル・ロマチェンコ(WBO世界スーパーフェザー級王者)

2017年 3戦3勝(3KO)

ジェイソン・ソーサ(アメリカ) 9回終了TKO

ミゲール・マリアガ(コロンビア) 7回終了TKO

ギジェルモ・リゴンドー(キューバ) 6回終了TKO

 

(写真:リゴンドー<右>も結局はロマチェンコ相手では何もできなかった Photo By Mikey Williams / Top Rank Boxing)

 今まさに全盛期にいる現代のスーパーボクサーは、今年を通じてその魅力を存分にアピールし続けた。筆者は2017年MVPにロマチェンコを推す。元WBA王者のソーサ、実力者のマリアガを寄せ付けなかったのに続き、12月にはリゴンドーも一蹴。五輪で金メダルを2度獲得した選手同士の史上初の対戦として注目されたリゴンドーとのビッグファイトでも、結局はロマチェンコの充実ぶりばかりが目立った。

 

 スピード、スキル、手数、ディフェンス、ポジショニングの良さで、相手を心身両面で追い詰めていくのがロマチェンコの“ハイテク”ボクシング。去年のニコラス・ウォーターズ戦(ジャマイカ)まで含め、過去4戦連続で相手が途中棄権という記録は常軌を逸している。それと同時に、トップボクサーは年間1、2戦のみの現代で、3試合を行った積極的な姿勢も好感が持てる。

 

 ただ、今後の相手探しは容易ではあるまい。スーパーフェザー級に残るならWBC王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)との統一戦が目標。ライト級に上げた場合、来年2月に開催されるWBO王者決定戦レイムンド・ベルトラン(メキシコ)vs.パウルス・モーゼス(ナミビア)の勝者との対戦を足がかりに、WBC世界ライト級王者マイキー・ガルシア(アメリカ)、WBA同級王者、WBC同級暫定王者ホルヘ・リナレス(ベネズエラ)との激突が注目されていくのだろう。これらのどのカードが実現しても、おそらくはロマチェンコが有利とみなされるはずだ。完全に覚醒したスーパーテクニシャンの行方から、もうしばらくは目を離すべきではない。

 

テレンス・クロフォード(アメリカ/元WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーライト級王者)

2017年 2戦2勝(2KO)

フェリックス・ディアス(ドミニカ共和国) 10回終了TKO

ジュリアス・インドンゴ(ナミビア) 3回KO

 

(写真:例え短期間でも、クロフォードが4つのベルトをすべて保持したのは快挙だった Photo By Mikey Williams / Top Rank Boxing)

 5月にニューヨークで北京五輪金メダリストのディアスに圧勝したのに続き、8月にはWBA・IBFのスーパーライト級王者インドンゴをボディブローで沈めて鮮烈なKO劇を演出した。珍しい4つのタイトルがかかった統一戦を制し、ミドル級のバーナード・ホプキンス(アメリカ)、ジャーメイン・テイラー(アメリカ)以来3人目の4団体統一王者となった。

 

 統一戦をまるで“ミスマッチ”に見せた強さは脅威。スピード、スキル、適応能力がハイレベルで融合されたクロフォードを打ち破ることは、誰にとっても並大抵の難しさではあるまい。今年の2戦での隙のない強さが評価され、今ではロマチェンコとともに全階級を通じて最強と目されるようになった。

 

 今が旬のクロフォードは、来年にはより層の厚いウェルター級に進出予定。プロモーターの違いゆえにマッチメークは容易ではないが、エロール・スペンス・ジュニア、キース・サーマン、ショーン・ポーター(すべてアメリカ)といった強豪たちとの潰し合いを期待したいところだ。

 

アンソニー・ジョシュア(イギリス/WBA、IBF世界ヘビー級王者)

2016年 2戦2勝(2KO)

ウラディミール・クリチコ(ウクライナ) 11回TKO

カルロス・タカム(フランス) 10回TKO

 

(写真:世界最大のドル箱となったジョシュアのアメリカ進出は来年か)

 今年4月、元王者クリチコとダウン応酬の激闘を演じ、11ラウンドにストップした勝ち星が燦然と輝く。イギリス・ウェンブリースタジアムに9万人を集めて行われたヘビー級タイトル戦のインパクトは莫大。20戦20勝20KOというわかりやすい戦績を持つ王者は、28歳にして世界最高の商品価値を誇るボクサーになった。クリチコ戦は年間最高試合に選ばれることも有力で、この一戦だけでも年間MVPに価するという意見も少なからずある。

 

 ただ、残念なのはクリチコの引退の影響もあり、11月に予定されたアメリカ進出が叶わなかったこと。そして、代わりに10月28日に行われたタカム戦が印象的な内容にはならなかったこと。そんなマイナス材料を考慮すれば、Fighter of the Yearの受賞も、WBO世界ヘビー級王者ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)、WBC同級王者デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)との統一戦実現が期待される来年まで待つべきかもしれない。

 

マイキー・ガルシア(アメリカ/WBC世界ライト級王者)

2017年 2戦2勝(1KO)

デヤン・ズラチカニン(モンテネグロ) 3回TKO

エイドリアン・ブローナー(アメリカ) 判定

 

(写真:ガルシアのハイレベルの正統派ボクシングに対する評価は高い Photo By Ed Diller / DIBella Entertainment)

 1月にラスベガスでズラチカニンを完全KOし、3階級制覇を達成したパフォーマンスは見事だった。7月には4階級制覇王者のブローナーとのノンタイトル戦にも完勝。ハイレベルのスキルには階級を上げてもほころびは見られない。最近ではロマチェンコ、クロフォードに次ぎ、“パウンド・フォー・パウンド最強候補”の呼び声も挙がり始めている。

 

 マイナス点は、今年後半に計画されたミゲール・コット(プエルトリコ)、リナレス戦がどちらも実現しなかったこと。代わりに来年2月10日、IBF世界スーパーライト級王者になったばかりのセルゲイ・リピネッツ(ロシア)に挑み、4階級制覇を目指すことが決まった。複数階級を狙うのも良いが、ガルシアの人気、知名度はまだ実力への評価ほどには高まっていないのも事実。そんな現状を打破するためにも、ビッグネームとの激突を期待したいところではあった。

 

 2018年はまずはロマチェンコとの決戦が実現するかどうかに注目が集まる。スーパーライト級のタイトルも手に入れたとして、その後にどの階級で戦うことになるのか。ウェイトに関してはフレキシブルなガルシアの今後の方向性に注目が集まる。

 

シーサケット・ソールンビサイ(タイ/WBC世界スーパーフライ級王者)

2016年 2戦2勝

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア) 判定 

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア) 4回KO

 

(写真:ゴンサレス<右>との2連戦でシーサケットは知名度を一気に上げた)

“パウンド・フォー・パウンド最強”と目されたゴンサレスに2連勝。そんな実績を考えれば、シーサケットが年間MVPに選ばれても不思議はない。ただ、微妙な判定だった3月の戴冠戦はゴンサレスが勝っていたと見るファン、関係者は依然として多く、その点が大きなマイナスになっている。

 

 しかし、例えそうだとしても、9月の再戦では年間最高KO候補になりそうなノックアウト劇を披露したタイのタフガイが一気に軽量級のトップ戦線に躍り出たことに変わりはない。来年2月にファン・ホセ・エストラーダ(メキシコ)との指名戦が決まり、この一戦がキャリアの正念場。ここすらも突破すれば、軽量級の強者たちはシーサケットの存在をもう誰も無視できなくなるはずだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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