横浜DeNAベイスターズを4勝2敗で下し、2年ぶりに日本一を奪回した福岡ソフトバンクホークス。日本一を決めたゲームで先発マスクを被っていたのは育成ドラフト出身の甲斐拓也だった。
プロ入り7年目の今季、甲斐はキャリアハイの成績をマークした。キャッチャーではチーム最多の103試合(捕手では102)に出場した。
甲斐の身長は170センチ、体重は75キロ。高校生でも小柄な方だ。
これまでキャッチャーといえば、大柄で頑丈、そして鈍足というのが相場だった。
それは野球漫画のヒーローを見れば明らかだ。「巨人の星」の伴宙太、「ドカベン」の山田太郎。重みが彼らに貫録をもたらせていた。
現実の野球に目を移すと、近年では巨人の阿部慎之助が典型的なキャッチャー体型だ。身長180センチ、体重97キロの偉丈夫。しかも強肩強打。今のポジションはファーストだが、未だにファーストミットよりキャッチャーミットの方が似合っている。
しかし、今後、いわゆる“ずんぐりむっくり”型のキャッチャーは減るのではないか。理由は昨季、導入したコリジョンルールに依る。
コリジョンとは「衝突」の意味。これにより、クロスプレーの際、キャッチャーは本塁前でランナーをブロックすることができなくなった。
一方でランナーも、走路からはずれた位置にいるキャッチャーへの体当たりは危険なプレーと見なされ、悪質な場合は守備妨害をとられることになった。
ずんぐりむっくり型のキャッチャーが重用されたのはタックルに強く、ブロックに向いていたためだ。
だが本塁付近でのクロスプレーが少なくなれば、必然的に体格面でのアドバンテージも失われる。小柄でも強肩で機動力に秀でたキャッチャーなら、正捕手になれる時代がやってきたのだ。
実は昔、そんなキャッチャーがいた。中日などで活躍した中尾孝義である。82年、中日が8年ぶりのリーグ優勝を果たした際のMVPだ。
強肩、強打、俊足。内野に飛んだボテボテのゴロを猛ダッシュでキャッチし、矢のような送球で殺したシーンを何度も目の当たりにした。
だが、出場試合数が100を超えたのは入団からの2年間だけ。故障がちでベンチを温めることが多かった。
コリジョン導入下の今の時代に中尾あれば、彼は球界の寵児となっていただろう。女房役から花形へ――。キャッチャーの概念が大きく変わろうとしている。
<この原稿は2017年12月1日号『漫画ゴラク』に掲載されたものです>
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