「CHALLENGE FOR 2020~パラリンピックで社会を変える~」と題したシンポジウムを12月9日、関西学院大学で開催していただきました。"パラリンピックの開催まで約2年半となった今、これからの共生社会づくりへの意識を高めることを目的"とした本シンポジウムには、約400名の参加がありました。

 

 後日、パラスポーツ関係者や自治体担当者の方々など、いろいろな方面から「すごいですね」とのお言葉をいただきました。何がすごいのか? 「400人」も集まったのがすごかったのです。

 

 STAND主催のものに限らず、パラスポーツ関連のイベントなど、どこの主催者も一番頭を悩ませているのは「集客」です。東京都内のある自治体が開催したパラスポーツ体験イベントは、週末にも関わらず午前中は参加者が0人だったと聞きました。またある大学で開いたパラスポーツに関する講座は300人が入れる教室を用意しましたが、実際に集まったのは20名ほど……。

 

 今回、「すごいですね」と言われているうちに、私はふと思いました。「もしかしてパラスポーツが社会に認知され浸透したと感じているのは錯覚なんじゃないか?」と。「国民の98%がパラリンピックを知っている」(2015年内閣府・東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査より)という数字は、パラリンピックの認知度が高いことを示しているだけなのに、パラスポーツや障がいのある人への理解が進んでいるとすっかり勘違いしてしまったのではないか、と。

 

 そこで、パラスポーツ関連のイベントになぜ人が集まらないのか? 改めて考えてみました。

 

(写真:9日に関西学院大学で行われたシンポジウムには約400人の聴衆で会場が埋まった)

 反省の山を前に意欲満々

 まず「パラ、障がいという言葉が入っているイベントは自分には関係がない」と思われていることがあげられます。「障がいのある人を対象としたイベントだと思っていました」という声もあれば、「誰でも参加できたんですね。知りませんでした」とイベント後に言われたこともあり、まさに後の祭りです。

 

 参加した方からは「行ってみたらとても良かったです」という感想をいただくことも多々あります。「集客」を考えた場合に「行ってみたら」では遅い。行く前から「面白そう!」「行ってみたい!」と思ってもらわないと……。

 

 さらに来場した方からつらい感想を聞くこともあります。パラスポーツのデモンストレーションを見て、「もう見ていられないから先に帰ります」「そこまでしてスポーツしなくてもいいのに」……。

 

 こうして整理していてわかったことがあります。

「障がいのある人もない人も一緒にパラスポーツを体験しよう」というイベントを、障がいのない人に十分理解してもらえている、こういうことが当たり前と思ってもらえている--。と思い込みをしているのだ、と。そうした立ち位置を見直すことが必要なのです。

 

 2020オリンピック・パラリンピックに向けて、パラリンピックの知名度が上がったことは事実です。しかし、多くの人の中からパラスポーツに対する違和感、抵抗感、他人事感はなくなってはいないのです。「社会の多くの人はもう障がいや障がいのある人に対して十分理解している」というのは錯覚です。反省の大きな山ができました。

 

 もっと社会全体を俯瞰で見て、もっともっと多くの人に理解を広げることを丁寧に繰り返し行っていこうと、意欲を新たにした年の瀬です。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

◎バックナンバーはこちらから