さる1月4日、すい臓がんのため70歳で世を去った星野仙一さんの大親友といえば“ミスター赤ヘル”こと山本浩二さんだ。東京六大学野球時代からのライバルでもある。

 

 山本さんはプロ野球で通算536本塁打を記録しているが、このうち119本が中日戦だ。対戦別では最多である。初めてホームラン王に輝いた1978年には44本のうち、実に16本を中日戦でマークしている。まさしく“ドラキラー”だった。

 

 山本さんが中日戦に強いのには理由があった。広島で試合がある時は星野さんが後輩の三沢淳さん、堂上照さん、鈴木孝政さん、小松辰雄さん、牛島和彦さんら若手投手を従えて山本家にやってきたからだ。

 

 流れからしてアルコールをまじえてのミニ宴会が始まるのだが、下戸の星野さんも、この時ばかりはビールに口をつけた。そこで説教が始まるのは自然の流れである。

 

「小松よ、お前がこの前コージに打たれたのは、インコースへのシュートのあとすぐに外角スライダーを投げるからじゃ。相手の読み通りに配球しちゃ、打たれるのは当然じゃ」(『コージのなん友かん友』より)「ウシ(牛島)よ、堂上よ、コージの話を聞いて、少しはピッチングに生かせよ」(同)

 

 こうしたやり取りを通して、山本さんは中日のピッチャーの性格やクセを知ることができたというのである。

 

 球界にはピッチャーと野手が仲良くなった場合、損をするのはピッチャーだという定説がある。胸元を突くような厳しい攻めをためらうようになるからだ。特に酒席をともにするのは厳禁である。やがて星野さんはこのことに気が付くのだが、時すでに遅しだったと山本さんは語っていた。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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