咆哮が日本まで届いてきそうだ。

 フランス1部FCメスに所属する日本代表GK川島永嗣は17日のサンテティエンヌ戦を無失点で切り抜け、チームの勝利に貢献した。最下位の20位にとどまっているとはいえ、リーグ戦ここ5試合は3勝2分け。それも計3失点にとどめるなど守備陣、特に川島の奮闘が目立つ。残留圏内まで勝ち点差を確実に縮めている。

 

 正GKの座を、掴みつつある。

 今季は序盤こそクラブ生え抜きのトマ・ディディヨンに先発を譲ったものの、第4節のカーン戦(現地時間8月26日)から出場するなど「併用」に持ち込んできた。そのライバルが12月に腰を負傷して離脱したことで継続的に先発機会を与えられ、安定したパフォーマンスを発揮している。たとえディディヨンが復帰しても、川島を選択する可能性が高いと見ていい。

 

 よくぞここまではい上がってきた。

 スコットランド1部のダンディー・ユナイテッドから移籍した2016年8月、扱いは「第3GK」だった。それが終盤戦には出場のチャンスをつかみ、チームの1部残留に大きな役割を果たした。経験値を頼りにされ、その期待に応えたのであった。時期をほぼ同じくして、復帰した日本代表でも正GKの座を取り戻した。

 

 いつもは辛口のヴァイッド・ハリルホジッチ監督もある日の会見で川島を絶賛したことがあった。

「永嗣がメスとサインを交わしたとき、立場は第3GKでした。ただ、彼は妥協のないトレーニングを続けてきた。不遇な状況だったが、彼は最後の最後に席を勝ち取った。代表でも良いパフォーマンスを発揮してくれている。経験ある選手がトレーニングをしながら自分のパフォーマンスを維持していることは、とても良いメッセージになると感じている」

 

 いつ試合に出てもいいように、代表でもメスでも彼は妥協なくやってきた。

 

 昨季の終盤戦、メスに出向いて直接状態をチェックして帰国した日本代表のエンヴェル・ルグシッチGKコーチも川島の姿勢を手放しで称えていた。

「11日間の滞在であらためて感じたのは、永嗣のプロフェッショナルとしての姿勢です。彼は100%でトレーニングするのではありません。120%です。その姿を確認できただけでも、凄く意味があったと感じています」

 

 今季はメスの正GKを争うまで序列を上げ、その座を担うだけの準備を120%で整えてきた。だからこそチャンスをモノにできるのである。

 

 グループ最下位に終わった4年前のブラジルW杯直後、川島に「これからの目標」について聞いたことがある。彼は言った。

「ブラジルで感じた厳しさ、未熟さを、取り返すような時間にしていかなきゃいけない。ブラジルW杯が終わったからといって自分自身、海外での挑戦が終わるわけでもない。日本人のGKとして成功したいという気持ちが変わるわけでもないです」

 

 日本人GKが欧州の主要リーグで活躍した歴史はない。

 その1ページをつくることが、ひいては日本代表の躍進につながる。彼はそう信じて「海外での挑戦」を続けてきた。

 

 2015年6月にベルギー1部スタンダール・リエージュを退団して以降、移籍先がなかなか決まらなかった。セリエBノバーラでの練習参加から始まり、フランス、ベルギー、オランダと転々としてようやく12月末にダンディー・ユナイテッドに加入した。長引いた“就職活動”によって日本代表にも参加できない時期があった。そしてメスでは「第3GK」からの下剋上。そんな彼がフランス1部で正GKの座を確保しようとしている意味は非常に大きい。

 

 残留争いの厳しい戦いも何のその。

 幾多の困難に立ち向かってきた川島なら、きっと乗り越えられるはずである。


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