(写真:雄叫びを上げる張本。憧れの存在を倒して天皇杯を獲得した)

 全日本卓球選手権最終日が21日、東京体育館で行われた。男子シングルスは張本智和(JOCエリートアカデミー)が大会4連覇中の水谷隼(木下グループ)を4-2(11-9、11-5、8-11、11-2、6-11、11-5)で破った。14歳6カ月の張本は同種目最年少優勝。張本はジュニアと合わせて今大会2冠を獲得した。女子シングルスは伊藤美誠(スターツSC)が平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園高)を4-1(11-7、11-9、11-2、5-11、11-6)で下し、同種目初制覇。伊藤は男女合わせて史上5人目の3冠を達成。17歳3カ月での3冠は史上最年少となった。

 

“怪物”中学生が大会を席巻

 

 14歳の“怪物”が日本のエースを倒して表彰台の頂点に立った。リオデジャネイロ五輪で2個のメダルを獲得した水谷は、全日本男子シングルスを9度制するなど国内で圧倒的な強さを誇る。決勝進出は12年連続。水谷は準決勝終了後、「自分のステージ」と語っていたように優勝すら指定席と思えるほどだった。その絶対王者にストップをかけたのが張本だ。

 

(写真:出場できる全4種目に出場。6日間で計19試合とタフな日程をこなした)

 水谷とは昨年の世界卓球選手権(世界卓球)では男子シングルス2回戦でぶつかり、4-1で勝利を収めていた。張本自身、「勝てる確率5%」という中でのアップセットには「その時は勢いだけだった」と振り返る。自らの成長を実感し、今大会で勝てる確率は「50%」まで跳ね上がったという。前日の男子ダブルス準決勝では水谷のペアに敗れており、「決勝で最高のリベンジを果たしたい」と燃えていた。

 

 この日に行われた準決勝は森薗政崇(明治大学)との対戦。22歳のサウスポーは昨年世界卓球男子ダブルス銀メダリストの実力者だ。しかし、張本は4-0のストレート勝ちで難なく退けた。これにより一足先に決勝へとコマを進めていた水谷との直接対決が実現した。

 

「自分が攻めるプレーをしたかった」と最初からエンジン全開で飛ばした。台から下がらず、前陣で打ち合った。「できるだけ前陣で勝負したかった。打ち合っても五分五分。粘れたのが良かったと思います」と張本。第1ゲームは序盤に得点を重ね、優位に試合を進めた。終盤追い上げられる場面もあったが、11-9で先取した。

 

(写真:年齢差14歳。白熱の攻防に詰め掛けた6500人の観衆が沸いた)

 これで流れに乗った。「1ゲーム目が大事。そこを取れなくて相手に流れがいってしまった」(水谷)。強烈なバックハンドは水谷をして「世界でもトップレベル」と言わしめるほどの破壊力だった。2ゲーム目は11-5で取り、リードを広げた。

 

 第3ゲームは8-5とリードしながら水谷のサーブで崩され、8-11で落とした。続く第4ゲームは11-2で取り返す。しかし、第5ゲームは水谷に揺さぶられ、6-11。4連覇中の王者の意地を見せられたが、「逆転されてもおかしくない。1球1球勝負しようと思いました」と張本は焦らなかった。

 

「この一戦で燃え尽きてもいい」。張本は攻め続ける。3-3から6連続ポイントで突き放すと、11-5で水谷を振り切った。ゲームカウント4-2で勝利。水谷が全日本男子シングルスの決勝で2ゲームしか奪えなかったのは12年間で初の出来事だった。

 

 武器であるバックハンドは面白いように決まった。「僕のフォア側に逃げていく。コースも厳しかった」と水谷。レシーブの巧い日本のエースが拾い切れない。前回の対戦を例に挙げ、「世界卓球と比べ物にならない。今日は本当に強かった。得点パターンを見出せなかった」と振り返り、「もし今日のプレーが、特別調子が良いわけではなく彼の100%だとしたら何回やっても勝てないと思います」と白旗を掲げた。

 

(写真:優勝が決まった瞬間、「一番感謝したい相手」の父・宇コーチに駆け寄って抱き合った)

 日本代表の倉嶋洋介監督がかねてから「東京オリンピックで金メダルを獲らせなければいけない」という逸材。ITTFワールドツアー最年少優勝、世界卓球でもベスト8入りを果たすなど、「ハリモト」の名を世界に轟かせている。目覚ましい進化を続ける14歳へ倉嶋監督が寄せる期待は今も変わらない。「年齢ばかりがクローズアップされていますが、力は十分にある。普通ここまで強いと、“これからどうしたらいいのだろう”と悩むのですが……。彼の場合はまだまだ伸びしろがあるので、すごく楽しみです」

 

“怪物”はどこまで化けるのか。身長が伸び、ウエイトトレーニングを少しずつ増やすようになった。父・宇コーチも「筋肉がついて威力上がってきていると思います」とパワーアップを実感している。「ミスをほぼしないで、なおかつ大胆に攻めるプレーヤーになりたい」と張本。理想の選手像はリオ五輪でシングルス&団体2冠を成し遂げたマ・ロン(中国)だ。世界卓球でも2連覇中の王者はいつか超えなければいけない壁でもある。

 

 日本の絶対王者が敗れ、14歳の中学生が天皇杯を手にしたことで、新時代の到来を予感させる。張本も「水谷さんがずっと優勝してきた。これからは自分の時代に。どんな人がきても負けないようにしたい」と意気込む。「ここで優勝したことで成長スピードも上がる。東京オリンピックで金メダル2つ獲れるよう頑張ります」。張本は4年に1度の祭典での2冠獲得を誓った。それがビッグマウスだと感じさせぬぐらい圧倒的だった。

 

「全日本借りは全日本でしか返せない」

 

(写真:2000年生まれの同学年。“黄金世代”の伊藤<左>と平野)

 女子シングルス決勝は、最年少3冠を狙う伊藤と最年少連覇がかかる平野との同学年対決となった。

 

 かつてはダブルスを組むこともあった2人だが、ジュニア時代から凌ぎを削ってきた。リオ五輪には伊藤が出場し、平野は補欠だった。しかし伊藤は一昨年の全日本準決勝で平野に0-4で完敗。昨年の全日本では伊藤が5回戦敗退した一方で、平野が最年少優勝を果たしていた。「全日本の借りは全日本でしか返せない」。その意味で伊藤にとっては、格好の機会だった。準決勝では4度優勝の実績を持つ石川佳純(全農)を下し、決勝へとコマを進めた。

 

「省エネ卓球」だったという伊藤のプレースタイルは、フィジカル強化によって「動ける卓球」へと変わった。打ち込み練習など「メチャメチャきつかった」というトレーニングをこなした。これにより体幹が安定し、ラリー戦になっても我慢強く粘れた。第1ゲームは5-7から平野のサーブミスで1点を返すと、そこから一気に畳みかけた。6連続ポイントで先手を取った。

 

(写真:「ラリー戦では誰にも負けなかった」と進化の手応えを掴んだ)

 第2ゲームは11-9と競り勝ち、第3ゲームは相手に隙を与えず11-2。あと1ゲームで優勝というところまで迫った。「相手が向かってきて、自分が守りに入ってしまった」と第4ゲームこそ平野に奪われたが、第5ゲームは持ち直した。最後までミスが少なく11-5で試合を終わらせた。

 

 全日本女子代表の星野美香監督は「今までは点を取られていたところを、強化して自分が点を取れるようになっていた」と成長を認める。ベンチに入った松崎太佑コーチは「今日は2試合とも調子が良く、足が動いたことで自然と連打できた」と勝因を挙げた。

 

(写真:混合&女子ダブルスに続き3つ目のタイトル皇后杯を手にした伊藤)

 準決勝で伊藤に敗れた石川は「スマッシュがすごく良かった。凡ミスが前より減って、コース取りも全然違った」と口にすれば、決勝では対戦した平野は「サーブやレシーブの種類が増え、前よりもすごいなと。(伊藤が)変わったとはわかっていても対応できなかった」と肩を落とした。いずれもゲームカウントは4-1。一昨年と昨年の女王を圧倒した。

 

「1戦1戦やり切ったことが3冠につながった」と伊藤。「メダルを掛けた瞬間、“優勝したんだな”と実感しました。ものすごく重い。恩返しできたかな」と全日本初のシングルス制覇を喜んだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)