この間、年が明けたかと思えば1月も残りわずかです。2月1日のキャンプインが近づいてくると現役を退いた今でも気が引き締まる思いです。

 

 現役時代、1月はもっぱら自主トレに費やしていました。今の選手のように海外ではなく藤井寺球場や野茂(英雄)と一緒に静岡県の御前崎でトレーニングに励んでいました。近鉄はサイパンで春季キャンプを実施していたので、キャンプインの3日くらい前に現地入りして温かい南の島で最終調整を行ったものです。

 

 僕の場合、自主トレの目的は「キャンプでのケガ防止」でした。キャンプで全力を出すためにも自主トレできちんと体を作ることを心がけていました。シーズンオフだからといって休んでばかりいたら、2月1日のキャンプインを迎えたときに、やはり体のどこかに不調が出る。キャンプでは周りとの競争もあるので、つい無理をすることもある。そのときに体ができているかどうか、準備が整っているかどうか。シーズンを棒に振らないためにも自主トレでの体づくりは重要ですね。

 

 各選手がそれぞれ課題をもって取り組んでいる自主トレですが、今オフ、阪神の藤浪晋太郎がアメリカ・テキサス州でダルビッシュ有やクレイトン・カーショーらと自主トレを共にしました。そこでカーショーからカーブを教わったと言っていますが、これは非常にいいことだと思います。

 

 カーブは昔からあるオーソドックスな変化球です。野球を始めたばかりの子供たちも最初に投げてみようと思うのはカーブです。いわば間口の広い変化球ですが、実は極めようとすると奥が深くて、一番難しい。打者のタイミングを外して空振りをとるには、ストライクゾーンにコントロールすることが重要で、そのためにはきちんとした軌道で腕を振ることと、リリースポイントを安定させる必要があります。

 

 カーブで腕の振りを確認

 カーブはいわばピッチングメソッドが詰まった変化球です。これはスポーツ新聞のコラムでも披露したエピソードですが、現役時代、キャッチボールでカーブを投げてリリースポイントや腕の振りを確認することは、僕だけではなく多くのピッチャーがやっていました。

 

 藤浪は昨季、わずか3勝と不調でしたが、カーブを練習することが復調のきっかけになるかもしれません。彼は元々ポテンシャルはある投手なので、しっかりと練習を重ねれば昨季のようなことはないと思っています。周囲の声が気にならない海外で自主トレができたのもプラスになるんじゃないでしょうか。

 

 ちょっと話は脱線しますが、実は僕も大学まではまっすぐとカーブで勝負していました。それが大学3年でスライダーを覚えて、プロ入りしてから「スライダーがいい」と褒められたこともあってカーブをあまり投げなくなったら曲がらなくなりました(笑)。

 

 プロ入り初ホームランを打たれたボールもカーブだったんですが、打った佐々木誠さんに「あのボールはなんだ?」と聞かれ「カーブです」と答えたら「ウソつけ!」と怒られた。それくらい曲がらなくなっていた。それ以来、僕はカーブを封印してプロ10年間で30球も投げてないと思います。カーブをきっかけに藤浪がどう立ち直るのか今季、注目したいと思っています。

 

 今季、注目の選手としてはやはり話題のルーキー、清宮幸太郎ですね。いいも悪いも注目を集めて1年になるでしょうが、どんな成長を見せてくれるのか楽しみです。先日、中日入りが決まった松坂大輔にも注目しています。ようやく復活のステージに立てたわけで、あとは結果を出すだけ。そしてもうひとり、BCリーグ石川からドラフト8位でヤクルト入りした沼田拓巳は、1軍キャンプでのスタートです。皆さん、BC出身の沼田の応援もよろしくお願いします。

 

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、エルマイラ・パイオニアーズ、オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


◎バックナンバーはこちらから