巨人・菅野智之の新球シンカーはすごいらしい。ストレートの軌道から、タテに鋭角に落ちたとか。絶対エース、ますます鬼に金棒である――。

 

 阪神の新外国人ウィリン・ロサリオは、キャンプ初日のフリー打撃で、58スイング中14本の柵越えを放った。もしかして、今年の4番はロサリオで決まりか!?

 

 いいですね。キャンプの始まったこの時期というのは、どの話も景気が良い。

 

 もちろん、菅野の新球にしろ、阪神の新外国人にしろ、他のどの球団の注目選手にしろ、そう簡単にいくとは限らないことは誰もが知っている。そのうえで、単純に期待をふくらませる。それがキャンプの醍醐味である。

 

 ところで、今年、例年以上の期待を集めるチームは横浜DeNAだろう。このオフの野球ニュースの報じ方を見ていると、まず去年の日本一・福岡ソフトバンクは、ときて、次にCSを制したDeNAという順が目についた。ちがうだろ、二番目はセ・リーグを制した広島であるべきだろ、と思うのだが、やはりアレックス・ラミレス監督への期待感が大きいのだ。

 

 この人には、日本人監督がやらない大胆さと、意外な緻密さがある。

 

 緻密さと大胆さ

 

 たとえば、1月16日のトークショーで、なんと“現時点での開幕オーダー”を発表した。これは、日本人監督はやらないでしょう。まだ自主トレが始まったばかりの時期だ。

 

 ちなみに、オーダーは、1(中)桑原、2(二)大和、3(左)筒香、4(一)ロペス、5(三)宮﨑、6(捕)戸柱・嶺井、7(右)梶谷・細川、8(投手)、9(遊)倉本というものだった。

 

 まぁ捕手とライトは2人並べているし、セカンドにはFAで獲得した大和なのだから妥当にはちがいない。でもつい、たとえばセカンドで、石川雄洋とか柴田竜拓の意欲とかチャンスをそぐことにならないのだろうか、とか考える私みたいなのは、人間が小さいんでしょうね。

 

 FAでの大和獲得には感心した。ラミレス監督はこう言っている。

 

「ショートの守備はセ・リーグでNO.1だが、うちには倉本がいる。セカンドで使う方向」(「日刊スポーツ」1月17日付)

 

 阪神でセカンドやショート、あるいは外野もやっていた選手に対して「ショートの守備はセ・リーグNO.1」と断言している。この眼力が、まずは彼の武器だろう。

 

 ただし、大和獲得にはもう一つの側面がある。高田繁GMである。こう言っている。

 

「三遊間の深いところもピシャリと止める。本職はショートで一番生かせると思う。二塁も外野も、どこでもゴールデングラブを取れる」

 

 高田GMの深謀遠慮

 

 もう一点、DeNAの戦力についても語っている。

 

「野手の層が薄い。編成の責任者として申し訳ない。(全試合出場の)倉本と桑原は前半ひどかったが、使い続けざるを得なかった」(「日刊スポーツ」2017年12月1日付)

 

 だから、大和を獲得したのだという。なるほどねえ。たしかに説得力はある。

 

 高田さんという方は、監督のときは、いまひとつ冴えを欠くが、なぜかGMになると優れた仕事をする。ラミレス監督を実現させたのも高田GMだった。「彼は意外に緻密です」というコメントをよく記憶している。

 

 なにしろ、「ラミちゃん、ペッ!」のパフォーマンスだけで、その人物像を想像していたものですから、よもや緻密な性格とは思わなかった。

 

 1番桑原将志、9番倉本寿彦という、現在の横浜打線を象徴する脇役は、たしかにラミレス監督が育成した。というのも、高田GMが言うとおり、昨年の前半はさして成績が上がらないのに使い続けたのだ。それが後半に花開いたのだから。

 

 これは、ラミレス監督の特徴である。

 

 つまり、自分が評価した選手は本当に使い続けるのだ。大和の評価にかんして、「眼力」といったが、もっといえば、自分の眼力を信じること、そして、その評価を断定することである。2016年に、新人捕手だった戸柱恭孝を1年間、ほぼレギュラーで使い続けたのがその典型例だろう。

 

 ただ、一概にこのやり方がベストだとも言えない。去年は、嶺井博希がそれに反発するように輝きを見せて、かなりポジションをとり返していた。だから1月16日の発表でも、捕手はこの2人の連名になっている。

 

 戸柱も嶺井も活躍したことからもわかるように、要するにラミレス監督は、去年、なにもかも、すべてがいい方向に回ったのである。

 

 だから、いやがうえにも周囲の期待が高まるのは当然といえる。だが、今年は去年とは違う年である。必ずしも同じようにうまくいくとは限るまい。

 

 ただ、データを重視して采配をふるうというラミレス監督には、時代は同調的なのかもしれない。

 

 デジタル化していく野球

 

 野球は、加速度的にデジタル化の道を歩んでいるようだ。日々のニュースに、それはあふれている。

 

 たとえば巨人は、バットスイングをチェックするのに「PUSH BAND」という加速度計を導入するそうだ。「投げる際に前腕に装着し、スピードを計測。バットを押し込むスイングスピードに応用する」(「スポーツニッポン」2018年2月1日付)

 

 まるで違う話題と思われるかもしれないが、メジャーリーグは、「試合時間を短縮するために、今季から投手の投球間隔を20秒以内とする規則を導入しようとしている」(「スポーツニッポン」2018年1月31日付「石井一久クロスファイア」)

 

 バットを押し出す速度にしろ、投球間隔にしろ、野球を数値化しようとしていることに変わりはない。

 

 このような例は、たとえば敬遠の四球申告制(申告すれば4球投げなくてよい)とか、メジャーリーグがオールスターの延長11回からタイブレーク制を提案したというようなニュースとも、まっすぐにつながっている。

 

 たとえば、投手が1球投げたあと、スコアボードに数字が掲示されて、20、19、18、17……と減っていったりしたら、それはもはや野球ではないでしょう。と、私は思いますが。6、5、4になって、あわててセットに入って投げる、なんて、バスケットのブザービーター(残り1秒からシュートを打って得点する)じゃないんだから。

 

 話がそれました。


 1月22日、年内に日本国籍を取得できる見通しであることを発表したラミレス監督は、「将来的には、日本代表の監督をやってみたい」と語った。

 

 小久保裕紀さんも稲葉篤紀さんもいいけれど、私はこの発想はまっとうだと思う。日本代表監督に、若さや清新さを求めるのもいいだろう。しかし、ペナントレースやCSや日本シリーズで結果を残した人が代表監督の座につく、というほうが落ち着くと思うのだが。

 

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール

1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。


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