王貞治といえば、868本の通算本塁打記録に注目が集まるが、2390個の通算四球数も前者に勝るとも劣らないアンタッチャブル・レコードである。
2位は落合博満の1475個。以下、金本知憲1368個、清原和博1346個、張本勲1274個と続く。現役では阪神・鳥谷敬の1000個がトップだ。
王の場合、2390個の四球のうち敬遠が427もある。それだけ恐れられた証拠だが、1試合に2回も3回も敬遠されたらバットを振りたい衝動に駆られるのではないか。しかし王は敬遠に抗議してバットを逆さに持ったり、ボール球に飛びついたりすることが1度もなかった。
「(ストライクゾーンの)四隅に決まるようなボールは、そうそう打てるものではない」
そう割り切っていたからだ。
2月1日から春のキャンプがスタートする。キャンプ前半、王が最も力を入れたのが“目慣らし”だった。ブルペンに入り、堀内恒夫や高橋一三らエース級が投げるボールに目を凝らした。ストライクかボールか。それをジャッジできるだけの動体視力を早いうちに養おうとしたのである。
王は語っていた。
「はっきり言って僕は審判よりもストライク、ボールの判定に関しては自信を持っていた。だから僕がボールと判断して見逃したのに、審判がストライクに取ろうものなら“審判が間違えるな”と思っていました」
この神業のような選球眼が868本のホームランと2390個の四球をもたらしたのである。
今キャンプでは高校通算111発男の清宮幸太郎(北海道日本ハム)を筆頭に中村奨成(広島)、村上宗隆(東京ヤクルト)、安田尚憲(千葉ロッテ)ら高卒ドラ1スラッガーに注目が集まるだろう。
清宮の口からは、早くも「三冠王」宣言が飛び出している。
「今のバッターはキャンプ中、ブルペンに足を運ばなくなった。あれはもったいない」
いつだったか王はそう語っていた。大物ルーキーには、まずはプロ野球仕様の動体視力をつくってほしい。戦いはそれからだ。
<この原稿は2018年2月5日号『週刊大衆』に掲載されたものです>
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