(写真:「PREDATORはadidasのフットボールシューズを代表するシリーズ」と語る山口氏<右>)

 世界最大のスポーツの祭典・ワールドカップ(ロシア大会)がおよそ4カ月後に迫ってきた。adidasは独自のテクノロジーを駆使して大会をサポートする。adidasと言えば、まずはシューズだ。約3年ぶりに復活したPREDATORシリーズの『18+』には最新のテクノロジーが凝縮されている。開発に携わるadidasマーケティング事業本部Footballビジネスユニットマーチャンダイジングシニアマネージャーの山口智久氏は「かつてのPREDATORのDNAを受け継ぎつつ、他のシューズで培ってきた要素も取り入れて進化を遂げた」と開口一番、その成果を口にした。

 

 

(写真提供:adidas)

 PREDATORシリーズはadidasのフットボールシューズの中でボールコントロールを最大限に追求したものだ。そのため、スキルに秀でたプレーヤーが好んで使用している。世界屈指のプレースキッカーだったデイビッド・ベッカム(元イングランド代表)、世界最高の司令塔だったジネディーヌ・ジダン(元フランス代表)らが愛用した。

 

 

 最近ではドイツ代表のメスト・エジル、フランス代表のポール・ポグバらが愛用している。日本人では卓抜のテクニックを武器にセレッソ大阪を牽引する清武弘嗣や今季、ブンデスリーガから鹿島アントラーズに復帰した内田篤人などが履いている。

 

 熱圧縮加工で凹凸をつけるadidasの技術

 

(写真提供:adidas アッパー部分の凹凸)

 PREDATORシリーズはアッパー部分に凹凸のあるラバーが搭載されていることが一番の特徴だ。これによりボールへの摩擦力を高め強烈なスピンをかけることが可能となった。以前、山口氏は「軽量化は、一層進むでしょうね。PREDATORの変わらぬコンセプトとして、ラバーを設置してボールに伝えるパワーやコントロール性を高めてきましたが、そこからの進化、革新性について今後も試行錯誤することになるでしょう」と語っていた。今回のPREDATOR18+はまさに凹凸部分のテクノロジーが進化したものだ。

 

 

 

 

 近年、主流になっている柔らかくて耐久性のあるニット素材の上を樹脂フィルムが覆っている。このフィルムを熱圧縮加工することで凹凸をつけたのがPREDATOR18+だ。上からゴム製のラバーで凹凸をつけていた過去のシリーズとの大きな違いは、シューズの軽さだ。初代PREDATORが片足400グラム(27センチ)あったのに対し、PREDATOR18+は片足同サイズで「約230~235グラム」と山口氏は言う。

 

(写真:アッパー部分の凹凸を利用し、ボールにスピンをかける)

 熱圧縮加工による凹凸についての説明はこうだ。

「これまでのPREDATORのように異素材を上から部分的に貼り付けて凹凸をつけるのは簡単です。ですが、今回のようにアッパー部分を一枚のニット素材で覆い、そこに凹凸をつけるのは、非常にハイレベルな加工技術です」

 

 今作は、インサイド部分からスリーストライプスが消えた。この部分にも凹凸加工が施されたためだ。「一番ボールにたくさん触れるのがここのインサイド部分です。そのため、adidasのスリーストライプスを外し、ここにも熱処理で凹凸をつけました。この構造なら、さらにボールへのグリップ力を高められると思います」と山口氏。近年では、インフロントよりインサイドに近い部分でプレースキックを蹴るキッカーが増えている。鋭いカーブでフリーキックからゴールを狙うプレーヤーにとっては羨望のスパイクだ。

 

(写真提供:adidas ダイヤモンドスタッドで前後左右の動きがよりスムーズになる)

 PREDATOR18+の進化はこれだけではない。スパイクのポイント(刃)の形状も新しくなった。PREDATOR18+にはひし形に近いポイントが搭載されている。これをadidasは「ダイヤモンドスタッド」と称している。山口氏の解説。「丸い形のポイントはターンをした時に動きがスムーズなんです。対して角ばったポイントはグリップが効く。このダイヤモンドスタッドは丸い形のポイントと角ばったポイントの良さを両立できる形状で、さらに足裏でのボールコントロールもしやすい形状です」。ダイヤモンドスタッドが前後左右のスムーズな動きを可能にし、抜群のグリップ力を発揮する。フットサルでよくみられるような足裏でのボールタッチも自由自在だ。

 

 前身モデルのテクノロジーも搭載

 

 足へのフィット感を重視した前身ともいえる「ACEシリーズ」のテクノロジーも搭載されている。その技術はニット素材、レースレス(ひもなし)、ハイカット構造である。

 

(写真:「レースレス構造により素足感覚でボールを捉えられる」と語る山口氏)

 先述したように、凹凸がついたアッパーにはニット素材が使用されている。これによりフィット感が一層高まるのだ。シューズに足を入れた時にニット素材が伸縮し、プレーヤーの足をキュッと包み込むことで、レースレス化を可能にしている。シューズからひもを排除することで素足に近い感覚でボールを操れる。プレーヤーはストレスフリーなボールタッチが可能になったのだ。

 

 

 

 

 ハイカット構造もACEシリーズから踏襲された。シームレスプライムニットソックスというニット素材のパーツを足首・くるぶし周りに取り付けることでシューズと足を密着させることに成功した。山口氏は「これまでのシューズは履き口部分と足のくるぶし周辺にどうしても隙間ができてしまっていた」と口にし、こう続けた。

 

(写真:ハイカットな構造でフィット感がさらに高まる)

「ターンやステップを踏んだ時にプレーヤーがよりフルパワーを発揮することを追求しました。ソックス形状のパーツでシューズと足首周りを一体化させることで隙間を生じづらくし、フィット感を高めることによって、フルパワーでターンやステップができ、かつボールコントロールもしやすくなっています」

 

 

 

 軽量性と安定性の共存

 

 ソール部分にも仕掛けがある。プレーヤーの激しい動きによりシューズがねじれてしまうことがこれまで多々あった。PREDATOR18+はソール部分をコントロールフレームソールと呼ばれるナイロンプレートで構成している。これにより軽量性を保ちつつもシューズの安定性も確保した。

 

 山口氏は語る。「ステップを踏むとシューズがねじれたり、よれたりしてしまう。このリブ構造のプレートを搭載することでシューズの芯をしっかりと保つことができる。これによって、どこか1点だけに負荷がかかるのではなく、ソール全体にまんべんなく正しく負荷がかかりますので、足への負担も軽減できます」

 

(写真提供:adidas 鹿島所属の内田も公式戦で着用予定の白ベースのモデルは足を入れると甲のオレンジ部分の下からブラックが浮かび上がるデザインになっている)

 カラーリングはシンプルになった。2011年のadipower PREDATORから蛍光色を基調としたシューズ展開だったが、今作第一弾はベースが黒でスリーストライプスが白、足を入れると甲の部分のニットが伸びて赤が浮かび上がる。「元々、PREDATORは黒、白、赤の3色がベースでした。かつてのDNAを踏襲しながら新たな表現を工夫しました」。往年のファンが喜ぶオーソドックスなデザインに仕上がった。また、すでに鹿島所属の内田が宮崎キャンプで使用している白ベースのモデルも2月1日より発売されている。

 

(写真提供:adidas)

 adidasはプレーヤーを文字どおり足元から支えている。

「選手の特徴を踏まえ“このスパイクが良いのでは”とこちらから提案もしますが、基本的には選手とディスカッションを重ねて最適なシューズを選びます。お互いの意思を尊重し合ってベストなものを選び、何よりパフォーマンスの最大化につなげていただくことを大切にしています」

 

 PREDATORは“略奪者”という意味である。PREDATOR18+を使用するプレーヤーが、ワールドカップの晴れ舞台でどんなスーパーゴールを奪うのかにも注目だ。


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