雪と氷の祭典、平昌五輪は開会式に先駆け、一部競技が既にスタートしています。当HPでは新コーナー『Jump in 平昌』を通じ、平昌五輪はもちろんパラリンピックにまつわるコラムやニュースを大会終了までお届けしていきます。初回はアイスホッケー女子日本代表(スマイルジャパン)の守護神・藤本那菜(札幌ボルテックス)選手の特集です。

 

 世界ランキング9位のスマイルジャパンは2月10日に初戦を迎える。対戦相手のスウェーデン女子代表は世界ランキング5位の強豪。スマイルジャパンの劣勢が予想される中で、勝利のためにはGKの活躍が不可欠だ。平昌五輪でゴールマウスを任される可能性が高い藤本のセービングがカギを握るだろう。

 

 スウェーデンには2014年ソチ五輪の予選ラウンド初戦、0対1で惜敗している。翌年世界選手権では延長戦の末、4対3で勝っているが、オリンピックのリベンジはオリンピックでしか果たせない。ソチでの雪辱に燃えるスマイルジャパンにとって格好の相手とも言える。

 

 ソチ五輪最終予選までは控えGKの位置付けだった藤本だが、本大会でレギュラーの座を掴み取った。4年前のスウェーデン戦では好セーブを連発したが、チームをオリンピック初勝利に導くことはできなかった。

「まだまだ自分はそういったレベルと戦えていない。勝ちに繋がるようなプレーができませんでした。もっともっと成長しなければいけないと思いました」

 

 スマイルジャパンは5戦全敗。藤本は順位決定戦を含む全5試合でゴールマウスを守った。計16失点を喫した。「4年前は世界との差を感じさせられた。スピードに対応できず、正確なポジション取りができませんでした」と彼女は振り返る。メダル獲得を目標に掲げたものの、チームにとっても藤本にとってもオリンピックの舞台はほろ苦いものだった。

 

 リベンジに向けて、藤本が徹底したのはスケーティングなどの基礎プレーの向上だ。「正確に安定したプレーをできるようなプレーヤーにならないといけない」。言い換えれば無駄を削ることだった。「GKは基本姿勢を保ち、いつでもシュートを止められる姿勢になっていないといけません。そのためのスケーティング技術がある。モーションをいかに小さくして、いつでもパックに対応できる基本姿勢を速く取れるかが大事です」

 

 4年間での成長

 

 GKのコミュニティを通じて、同ポジションの先輩や後輩からいろいろなアドバイスを求めた。以前より他のGKのプレーを注視するようになり、NHLのGKも映像で追いかけるようになったという。そうした彼女の努力が実り、力がついていった。15年3月の世界選手権(スウェーデン)に全試合出場し、セーブ率93.75%をマークした。日本人初の「ベストGK」を受賞。その後、アメリカに渡り、北米プロリーグのNWHLニューヨーク・リベターズと契約した。日本人初のNWHL選手となり、女子の2強と言われるアメリカとカナダの選手たちのパワーとテクニックを体感することができた。

 

「この経験値はすごくプラスだと思います」と藤本は胸を張る。日本国内ではなかなか味わうことのできないワールドクラスのFWと対峙してきた。そこで「正確なポジショニングを取っていれば、ある程度シュートは止められる」と自信を深めた。

 

 4年間での自身の成長を「いかに速く良いポジショニングを取れるか。ゴール前での対応力が今は違う」と口にした。スマイルジャパンの春名真仁GKコーチは「すべてにおいてレベルアップしている」と藤本の成長に目を細める。

「技術的な面では細かいところまでステップアップできていると思います。スケーティングのスピードが上がりました。海外でもプレーしましたし、男子高校生と試合をする中で速いシュートに反応できるようになってきています」

 

 現在のスマイルジャパンでは最年長(28歳)のGKとなった藤本。6歳でアイスホッケーを始め、GKには小学5年でなった。

「プレーヤーは全部やったんですが、全然できなかった。最終的に回ってきたのがゴーリーだった。親もそれでダメだったらやめさせようと思っていたらしいんです」

 

 以来、GK一筋。日本を代表する選手に成長した。自身は男子日本代表GKとして活躍した春名コーチは「スケーティングが巧いことと、ショートプレーというゴールに近いところでのプレーの読みやセービング技術が高い」と藤本を評価する。

 

 春名コーチは「勝ちを掴み取れるわけではないですが、勝つチャンスを与え続けるのがGKの仕事」と言う。GKが点を取られなければチームは負けない。「安定感があり、後ろから冷静に状況を判断して、チームに良い流れをつくれるようなパフォーマンスをしたい。最終的にはチームの勝ちに繋がるようなプレーができればいい」と藤本。彼女の速く正しいプレーが、スマイルジャパンの勝機を繋ぐ。

 

(文・写真/杉浦泰介)