2月1日から始まったプロ野球の春季キャンプは現在、最終クールに向かい、選手も最終調整に余念がない。24日からはオープン戦もスタートし、いよいよ本格的な球春到来である。そこで今回はキャンプにまつわる裏話を紹介しよう。

 

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 キャンプのブルペンは戦場

 

「キャンプでブルペンに足を運ぶ野手が少なくなった。これはすごくもったいないことだと思います」

 かつて、そう語ったのは、通算868本塁打の王貞治である。王は現役時代、キャンプ序盤、ブルペン通いを日課としていた。

 

「実戦から遠ざかっていたオフの間に一番、鈍るのはボールを見る能力、つまり動体視力です。それを取り戻すのに手っ取り早いのが投手の生きたボールを見ること。そのために僕はよくブルペンに通っていたんです」

 

 王は通算本塁打数とともに通算四球2390個というアンタッチャブルレコードも持つ。研ぎ澄まされた選球眼はキャンプのブルペンで培われたものといっても過言ではない。

「ストライクゾーンの四隅に決まるようなボールを打つのは難しい。大切なのは打てる球とそうじゃない球かを瞬時に判断する能力。そのためにもブルペンは絶好の学び場でした」

 

 王を終生のライバルとしたレジェンド江夏豊はキャンプのブルペンを「戦場や」と言い切った。

 

 江夏がブルペンで戦った相手は審判だった。

「ピッチャーにとってキャンプ中のブルペンちゅうのは単なる調整の場所じゃない。長いシーズンに備えた戦いの場なんや。わしは肩がしっかりと仕上がってコントロールが定まるまで、審判には"キャッチャーの後ろに立つな"といつも言っとったね。もしコントロールが定まっていない時期に審判に見られてしもうたら"アイツはコントロールが悪い"という先入観を持たれてしまう。これはピッチャーにとって大変損なことや。だからコントロールが定まるまで、ピッチャーは絶対に審判をブルペンに入れちゃいかんのよ」

 

 オープン戦で勝ち癖

 

 キャンプ前半で肩をつくりコントロールを仕上げた江夏は、その後は審判を"洗脳"にかかったという。

「コントロールが完全に定まった後は、審判にいくら見られても大丈夫や。そこでわしはボールを4分の1ずつストライクゾーンから外に出していった。仮にブルペンでボール半分はずれている球をストライクと認めたとする。そうしたら、審判はそのシーズン中、ずっとそこをストライクに取らなあかん。言うなればブルペンで審判を"洗脳"してたっちゅうわけやな。"ブルペンは調整の場やない。戦場や"というのは、そういうことや」

 

 キャンプが最終クールに入ると、各地でオープン戦がスタートする。今年は2月24日から3月25日まで104試合が予定されている。

 

「オープン戦は調整の場。勝ち負けは関係ない」という指揮官が多い中、オープン戦から「勝ち」にこだわった男がいた。今年1月に急死した星野仙一氏だ。

 

 星野氏は2001年オフに阪神の監督に就任した。明けて02年、オープン戦を前に星野監督は選手に「勝ちにいくぞ」と発破をかけた。01年まで阪神は4年連続で最下位に沈んでいた。星野氏の目に阪神の選手たちは「負け慣れている」ように映った。すなわち"負け犬"ならぬ"負け虎"根性の払拭が真の狙いだった。

 

 結果、15勝3敗2分、勝率8割3分3厘。1年目の星野阪神はオープン戦を首位で終えた。"負け虎"根性を払拭した阪神はこのシーズン、最下位を脱出し、翌03年、18年ぶりのリーグ優勝を果たしたのである。

 

 3月4日(日)の中日対東北楽天戦(ナゴヤドーム)、10日(土)の阪神対中日(甲子園)戦は「星野仙一追悼試合」として実施される。中日の首脳陣は「77」、選手は「20」の背番号をつけた特別ユニホームを着用する。阪神は全員が77番のユニホームだ。闘将の気迫が乗り移ったようなゲームを期待したい。

 

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