(写真:開会式の様子。旗手の葛西を先頭に行進した)

「寒い」「風が強い」「政治五輪」などなど、何かとネガティブな報道が多い平昌五輪。北朝鮮の影響で、韓国国内でも機運醸成よりも批判醸成となってしまい、盛り上がりに水を差している。その結果、国内はもとより海外でも揶揄されることが多く、冬のスポーツの祭典である五輪なのに、少々残念な状態。でも、地上最高のスポーツの祭典はこのままでは終わらないと期待している。

 

 もともと韓国の冬は寒い。これは冬に現地を訪れた方なら皆さんご存知の通りで、大陸性の冷え込みがあるとは現地に詳しい方の弁。特に平昌は北部に位置する。緯度でいうと長野より北なので当然と言えば当然である。さらに今年は日本だけでなく韓国も例年以上に冷え込んでいる。競技者はもちろんだが、観戦者も厳しい状況に置かれることになり、そこに話題が集中してしまった。日中でも寒いのに、日が落ちて夜になると冷え込みは一段と厳しくなる。

 

 開会式のリハーサル時はマイナス15度を下回る冷え込みで、現地の方々からもブーイングだったという。話を聞いて僕も相当準備して会場に向かったら、その日はマイナス5度だったのでなんとか耐えることはできた。もし、さらに10度冷えていたらと思うと……7時のオープニングから終了の10時までの3時間あそこにいることは厳しかったのかもしれない。翌日以降も平昌は風が強く、体感温度はかなり寒かったので、今回の感想を聞かれるとやはり「寒かったです」という言葉になってしまう……。

 

 気候は主催者の責任でもないし、冬の競技が寒いのは当たり前なのだが、ちょっと想定を上回っていたので、その対応が間に合わなかったというのが実情のよう。まぁ気温が高すぎて人工雪の付きが悪くて苦労した大会もあるわけで、気候のブレは冬季大会ならではの悩みなのかもしれない。もちろん開催時刻の問題などもあるのだが、これは放映権という大きなお金が関係しているので簡単に変えられるものではない。結局のところ、冬季の野外スポーツである以上、観客もそれなりの備えをしておかねばならないということだろう。

 

 スポーツの魅力を伝える報道を

 

(写真:政治色の強い五輪というイメージばかり先行している感がある)

 そして北朝鮮の動きは確かに姑息で、腹の虫がおさまらない。しかし、平和、融和をかざされると韓国も簡単に拒否できないところもあり、対応に苦慮していることだろう。国内では融和策に反対の声が多く、会場付近でも抗議デモがいくつか行われているところに遭遇した。個人的にはある程度受け入れざるを得ないとは思うが、アイスホッケー合同チームのようにスポーツの現場を無視するようなやり方には、憤りを感じる。入場行進や共通フラッグなど妥協できるところと、スポーツの戦いの場であることへの敬意を使い分けるべきではなかったのかと思う。ともあれ、この一件で今回の五輪に政治問題が色濃く絡むことになり、かならず報道でフォーカスされるようになってしまったのは残念だ。

 

 それらもあり、韓国国内ではスポーツの祭典としては盛り上がりに欠けている感は否めない。平昌や江陵といった競技会場がある町はともかく、それ以外の場所で五輪の雰囲気が漂うところがほとんどなかった。感じることができたのは、ソウル市内の市庁舎回り、仁川国際空港くらいだろうか。ソウル市内の金浦国際空港でさえ、五輪ムードをあまり感じさせないのはちょっと残念だった。

 

 こうした印象が強いのか、日本での報道もややネガティブな要素が例年の大会より多いようだ。「寒い、厳しい」「政治利用されている」。大会の中身と同じくらいこれらのワードが出ない日はない。この報道姿勢が日本人の平昌大会への印象を競技以外に引っ張っている気がしてならないのだ。

 

 もちろん事実から目を逸らす必要はない。しかし本来の五輪の魅力をしっかりと伝えることこそがまず第一ではないか。問題やハプニングを報じるほうがインパクトはあるのかもしれないが、五輪報道の基本は、そこで行われている競技の凄さや素晴らしさを伝えていくものだろう。報道は伝え方ひとつで見る側のイメージを大きく変えてしまう力を持っている。すでに前半戦の中でも、ジャンプ女子の髙梨沙羅選手やスピードスケート女子の髙木美帆選手の戦いぶりなど、ぜひ五輪の魅力を最大限に伝えて欲しいと思うのである。

 

 また、スノーボード男子のショーン・ホワイト選手と平野歩夢選手の激闘など、歴史に残るような名勝負があった。これらを見ていると、人間の可能性に気づかされ、全力を尽くすことの美しさを思い出させてくれる。「また明日からも頑張らなくては」と大勢の人を鼓舞してくれる素晴らしいエンターテインメントで、そんな力がスポーツにある。それを最大限伝えて欲しいと願わずにはいられない。

 

 まだまだ五輪は始まったばかり。そしてこの後にはパラリンピックだってある。世界の人々を元気づけてくれるこの祭典をしっかりと観戦し、応援したい。

 

 でも、現地に行かれる方は、くれぐれも装備に気を付けて!?

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月に東京都議会議員に初当選。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ


◎バックナンバーはこちらから