(写真:昨年8月以来の再戦となるネリと山中)

 27日、ボクシング世界戦の調印式が都内で開催された。東京・両国国技館でのダブル世界戦(3月1日)は東京・ホテルグランドパレスで実施し、WBC世界バンタム級タイトルマッチとIBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチに出場する山中慎介(帝拳)、岩佐亮佑(セレス)ら4選手が登壇した。東京・後楽園ホールでのWBA世界スーパーバンタム級タイトルマッチ(2月28日)は、同所で調印式と合わせて前日計量も行った。王者のダニエル・ローマン(アメリカ)と挑戦者の松本亮(大橋)が出席し、意気込みを語った。

 

「あのままで終われない」
 口調こそ穏やかだが、その眼差しは鋭い。山中は約半年ぶりのリターンマッチに闘志を燃やしている。

 

 2017年8月、山中にとってボクシングを始めた原点の地・京都で行われた13度目の防衛戦。当時23戦無敗のルイス・ネリ(メキシコ)の挑戦を受け、4ラウンドTKO負けで敗れた。具志堅用高の持つ日本人最多の連続防衛記録に並ぶことはできず、約6年守り抜いたベルトを手放した。

 

(写真:眼光鋭い山中。「必ず僕が勝つ」と誓った)

 当時34歳。決して若くはない。このまま現役を退くことだってあり得た。「ネリに借りを返して、王座を返り咲く」。これが山中のリングに立つ理由だ。調印式の場でも、その想いを強くしたという。「僕の前にベルトがなくて、ネリの前にベルトがあるのがすごく嫌な気持ち。“また取り返してやる”という強い気持ちが増してきた」

 

 やることはシンプルだ。「負けた相手に借りを返すだけ」「悔しい想いをリングでぶつけるだけ」。淡々と紡ぐ言葉にも熱がこもる。ここまでのトレーニングは順調で、コンディションも「非常に良い」と口にする。「防衛していた頃のモチベーションより高い。今後のことは考えずに、この1試合のことしか考えない。明後日の試合が楽しみ」と語った。

 

 対するネリは山中戦後にドーピング検査で陽性反応を示すなどリング外で物議を醸した。「故意ではない」とWBCは不問にしたが、ネリは「前回の疑いを払拭するために必ず勝利したい」と意気込む。「前回よりパワフルになり、メンタルも強くなっている。今回もKOを狙う。チャンピオンとしてではなくチャレンジャーとして臨みたい」。25戦無敗の“メキシコの豹”が山中に襲い掛かる。

 

(写真:山中陣営はグローブチェックを問題なく終えた)

 両国でのゴングが鳴る前に、一波乱があった。グローブチェックの際にネリ陣営が用意されたレイジェス(メキシコ)製ではなくウイニング(日本)製のものを要求した。前回の対戦時に使用したグローブで験を担ぎたい思いもあったという。どちらのグローブを使うかは28日のルールミーティングで正式に決まる。

 

 セミファイナルは岩佐の初防衛戦だ。「いろいろなプレッシャーはありますが自分らしく自分のボクシングを徹底して勝ちたいと思います」。昨年9月、小國以載(角海老宝石)との日本人対決を制して、掴んだベルトを譲るつもりはない。挑戦者のエルネスト・サウロン(フィリピン)は「チャンスをもらえたことに感謝。勝って自分の国に帰りたい」とコメントした。

 

(写真:リラックスムードの王者・岩佐に対し、挑戦者の表情は硬かった)

 この日はセレス小林会長の45歳の誕生日。記者会見で「誕生日プレゼントは?」と問われると、岩佐は「二人三脚でやってきた会長も年をとりましたし、僕も28歳。2人とも年をとりました。誕生日プレゼントとしては明後日の勝利がひとつ。あとは勝ってから考えます」と答えた。一方のセレス会長は「勝つことだけでいい。そのプレゼントが一番ほしい」と愛弟子にリクエストした。

 

 28日にローマンに挑む松本は初の世界戦である。「ワクワクしている」。舞台は聖地・後楽園ホール。所属ジムの大橋秀行会長が現役時代、世界王座初奪取したのも後楽園ホールだ。当時の大橋会長と現在の松本は同じ24歳。28年前と重なる点は多い。

 

 大橋会長は後楽園ホールで行われた調印式で、そのことについて言及した。
「28年前は同じ2月にここで世界戦をやりました。同じ横浜高校の後輩。米倉(健司)会長が今の僕と同じ52歳でした。僕はヨネクラジム4人目の世界チャンピオンで、亮も大橋ジムで(勝てば男子)4人目になる。亮が生まれたのは1994年1月11日。ジム開設が同じ年の2月22日なので、いろいろな偶然が重なっており、明日は勝つ雰囲気じゃないかなと思います」

 

(写真:試合を翌日に控え、両陣営揃ってのフォトセッション)

 会長直系の後輩となる松本は「横浜高で2人目の世界王者になります」と応えた。高校4冠のホープは同じジムの井上尚弥と同学年である。井上が無敗で2階級制覇を達成し、現在は3階級制覇も視野に入れているのに対し、松本は世界まで足踏みした。一昨年5月に初黒星を喫し、試合後には副甲状腺機能亢進症の手術を受けた。それでも術後は4試合連続KO勝ちと世界戦までこぎつけた。

 

「負けなしでいっていたら天狗になっていた」と、松本は冷静に振り返る。KO率86%のハードパンチャーは「当たれば勝てる」と断言。2011年12月にプロデビューし、23戦目を迎える。進化の真価が問われる一戦だ。

 

(文・写真/杉浦泰介)