(写真:個人賞はこれで5年連続受賞している)

 第32回日本リーグを伊予銀行テニス部は男子5位で終えた。3年連続の5位入賞。4年連続決勝トーナメント進出と地力がついてきた印象だ。個人では同リーグ通算40勝を達成した片山翔が優秀選手賞に選ばれた。今シーズン限りでユニホームを脱ぐ廣瀬一義は特別賞を受賞した。

 

 

 東京体育館で行われた決勝トーナメントは2月9日から始まった。レッドブロック3位・伊予銀行の初戦の相手は、ブルーブロック2位・レック興発だ。ブロックは違うがリーグ戦を共に6勝1敗で決勝トーナメント進出してきた。レック興発は日本リーグ昇格3年目ながら、この2年は伊予銀行と同じ5位続き。今年のメンバーは4人全員をプロで揃えてきた。伊予銀行はシングルスNo.1片山翔、No.2佐野紘一、ダブルスは飯野翔太&中島啓組。今シーズンも主軸を担った4人で臨んだ。

 

(写真:試合前の円陣。チーム力は伊予銀行の武器だ)

 一番手の佐野は斉藤貴史にストレート負け。続くエース片山はフルセットまで粘ったが、1対2で敗れた。飯野&中島組が一矢を報いたものの、今年も準決勝進出を逃してしまった。翌日の5・7位決定戦へ。伊予銀行の相手はブルーブロック4位・あきやま病院。決勝トーナメントは今年が初の新興チームである。

 

「ウチとしては最後の順位までこだわって勝負する。来年のこともありますので、“5位になって松山帰ろう”とミーティングで話しました」と日下部聡監督。選手たちは敗戦のショックを引きずらず、目の前の一戦に集中した。

 

(写真:ノータッチエースを何本も決めた佐野のサーブ)

 トップバッターのシングルスNo.2佐野は選手兼監督の穐山弘明と対戦した。佐野はサーブで圧倒。試合後、「昨日(9日)は力みがあってあまり入らなかったのですが、今日はリラックスしていつも通りのサーブができた」と振り返ったようにサービスエースを何本も決めた。第1セットを6-3で取ると、第2セットは圧巻だった。

 

 佐野のサービスゲームからスタートすると、いきなりラブゲームキープ。ノータッチエースも2本決めた。第2ゲームをブレークすると、第3ゲームはノータッチエースを3本。このまま6-0と相手を全く寄せ付けなかった。ストレート勝ちでエース片山へ繋いだ。

 

 今シーズンは全試合に起用された片山。リーグ戦ではここまで6勝2敗とチームを牽引している。正確で威力のあるストロークを武器とするエースが東京体育館のコートでも躍動した。対戦相手の小野陽平もプロ選手だが、大会直前のJTA(日本テニス協会)ランキングでは40位。20位の片山にとっては負けられない。

 

(写真:ストロークが持ち味の片山。今年もチームを引っ張った)

 第1セットは6ゲームまで3-3と粘られたが、第7ゲームからキープ、ブレーク、キープの3連取。6-3でモノにした。第2セットはキープ合戦が続く。第6ゲームで仕掛ける。15-15の場面で相手のサーブを完璧に打ち返した。リターンエースが決まり、このゲームはデュースまでもつれる。最後は絶妙なリターンでブレークして、流れを引き寄せた。残りは着実にサービスをキープして6-3で取った。これで3年連続の5位が決まった。

 

 勝利を確定させた伊予銀行。ダブルスは飯野&中島組ではなく、廣瀬と飯野の組み合わせで臨んだ。キャプテンを務める廣瀬は今シーズン限りでの引退を決めており、最後の花道をつくったかたちだ。シングルスの2人が幾分か気合いの入っていたように映ったのはこのことも理由にあったのだろう。

 

(写真:今シーズン2度目のコンビとなった飯野<左>と廣瀬)

 廣瀬もそれを意気に感じ、コートに向かった。「シングルスの2人が頑張ってくれて、出られるようになりました。気負いはなかった。最後の最後だったので全てを出し切るという気持ちでした」。一方でダブルスを組む飯野は「調子は良かったのですが、サーブは力が入りました」と力みがあったことを認めた。

 

 飯野にとっては志願のコンビ結成だった。

「今シーズンまでリーグでは組んだことがなかったので、前から『組みましょう』とアピールはしていたんです。兵庫・ブルボンビーンズドームで組んで(2対0で勝利)、今日も出させてもらいました」

 

 あきやま病院のダブルスは守谷総一郎と藤井信太のコンビ。いずれもプロ選手だった。試合は白熱した展開となった。廣瀬&飯野ペアは第1セットを5-7で落とした。第2セットはゲームカウント5-2から追いつかれるなど、嫌なムードが漂った。それでも廣瀬と飯野は粘りを見せ、タイブレークの末に7-6で第2セットを奪った。

 

(写真:故障からカムバックし、「やり切った気持ちが強い」と語る)

 迎えたファイナルセットは10ポイントマッチタイブレーク方式。序盤は競ったものの、中盤以降で突き放された。6-10でこのゲームを失い、1対2で敗れた。廣瀬、最後の花道を勝利で飾ることはできなかった。

 

「廣瀬らしいプレーが出ていた。負けてはしまいましたが、最後の巻き返しは良かったと思います」と日下部監督は拍手を送る。廣瀬は負けた悔しさをにじませつつ、「やっていて楽しかった」と口にした。

 

 日下部監督はコーチと監督としての2年間、彼のキャプテンシーを見てきた。「すごくやりやすかった」と語り、こう続けた。

「親しみやすい人柄で誰からも受け入れられていた。何でも言えるキャプテンで選手としてもやりやすかったのではないかと思います。現場の声を吸い上げてくれますし、こちらの意見もうまく中和してチームとして何が良いのかを判断できていました」

 

(写真:廣瀬<奥>はテニス部での8年間を「人間として成長できた」と振り返る)

 普段は“いじられキャラ”。最後のミーティングでもチームの輪の中には笑顔が目立った。それも彼の人柄ゆえだろう。背中で示したキャプテンシーもある。廣瀬は昨年1月から持病のヘルニアが再発。3カ月間、テニスから離れていた時期があった。4月に手術し、リハビリを経て8月に復帰した。「半年以上はテニスをまともにできなかった」(廣瀬)。日下部監督によれば「その姿、頑張りを他の選手も見ていた」という。刺激にならないはずはなかっただろう。

 

 3年連続5位――。第32回日本リーグで決勝トーナメントに進出した男子全8チームはいずれもプロ選手が在籍している。中でも伊予銀行は片山1人と最少だった。「悔しいです。プロチームが増えていて、厳しいのはわかるのですが勝たないと最終日にいけない。片山ばかりに頼ってはダメだと思うので僕たちも頑張らないといけない」と飯野。飯野と中島のコンビはここ2年続いていた全勝がストップした。

 

(写真:ノートを片手に試合中メモを取る日下部監督)

 就任1年目のシーズンを終えた日下部監督はこう総括した。

「この3年間、ほぼ変わらぬメンバーで戦ってきました。順位だけ見れば同じですが、プロ選手も増えてリーグ全体がレベルアップしている中で順位を維持できていることはちょっとずつ前に進めているんじゃないかと感じています。決勝トーナメントの常連になりつつあるので、悪くはない。ただもうひとつ。過去最高は3位なので、そこを超えたいです。来年度は個々の力を付けてチームとしてのレベルも上げながらやっていきたい」

 

 チームに8年間在籍した廣瀬は後輩たちに「悲観することはないが、ベスト4の壁はある。1回戦のレック興発戦もあと数ポイント取っていれば勝てていた。日々、ストイックにいければ優勝も可能だと思います」とエールを送った。

 

 来シーズンは佐野が男子チーム最年長になる。「そろそろ覚悟を決めて、周りを引っ張っていけたらいいと思います」今シーズンは『愛顔(えがお)つなぐ えひめ国体』では成年男子の初優勝に貢献。日本リーグではプロ相手に2勝を挙げるなど5勝2敗の好成績だった。「維持していきたい」と手応えを感じている。

 

 ベスト4の壁を超えるために、個々のレベルアップは必須だ。4月には『ITFユニ・チャーム愛媛国際オープン』が愛媛県総合運動公園で開催される。ATP(男子プロテニス協会)ツアーの下部大会(ITFフューチャーズ)にあたる愛媛国際オープンには伊予銀行からも出場予定だ。まずは地元・松山での国際大会で力を発揮したい。

 

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