今季のオープン戦第1戦を、ぼんやり眺めていた。中日-北海道日本ハム戦(2月24日)である。

 

 中日の先発は、左腕小笠原慎之介。東海大相模の甲子園優勝投手も、今年で3年目になる。

 

 たしかに、低めの両サイドに変化球がコントロールされている。プロらしい投手になったと言うべきだろう。

 

 ただ、投げるときに、上げた右足を上下動させる。わかりやすくいえば、左右は違うが、かつての三浦大輔(元横浜)のような動き。いわゆる「二段モーション」である。

 

 甲子園で優勝したとき、こんなに上下させていたかな。いや、もっとスムーズだったと記憶する(あくまで記憶だが)。そのぶん、高校時代のほうがもう少し球速もあったような……。

 

解禁は真の国際化

 

 今年1月にプロアマ合同の日本野球規則委員会が開かれ、公認野球規則から、定義38の【注】すなわち二段モーションを反則投球とする規定を削除することが決まった。これを受けて、日本野球機構(NPB)も1月29日、規則改正を正式発表したのである。いわゆる“二段モーション解禁”。

 

 記憶に新しいのは昨年の菊池雄星(埼玉西武)だろう。8月17日の東北楽天戦と24日の福岡ソフトバンク戦で計3回、二段モーションによる反則投球をとられ、フォーム修正を余儀なくされた。それが、また突然今季から、以前のフォームでよくなったわけだ。

 

 小笠原は、上げた足の上下動だけでなく、上げるタイミングそのものも工夫して変えているようだ。この時期の打者ではとうていついていけず、凡退する。

 

 今回の解禁は、おおむね好意的に迎えられているようだ。たとえば「サンデーモーニング」(TBS系、2月4日)で張本勲さんは「はじめてじゃないかな。アメリカの良いところを日本が見習ったのは」と評価した。

 

 昨年、菊池が反則投球をとられたとき、ダルビッシュ有(カブス)は「本当にどうでもいいことには力入れるよなあ」とツイッターでつぶやいたそうだ。

 

 つまり、国際基準に合わせようとしてルールを厳密化したが、国際ルールではそんなに厳しくしていなかった。今回の解禁こそが国際化だ、というわけだ。

 

美とフォーム

 

 ここまで言われると、もはや反論の余地はないようだが、個人的には嫌いなのです、二段モーション。もっといえば、上げた足を一回ピタッと静止させるのも好きじゃない。フォームは、一連の動作であったほうが、美しい。

 

 こんなことを言うと、世の中を敵にまわしたような気分になるが、もともと平昌オリンピックで一番熱中して見たのはアイスホッケーの決勝、OAR(ロシアからの個人資格)-ドイツ戦だし(もちろん、フィギュアスケートもパシュートもカーリングも思いきりドキドキしながら見ましたが)、夏季オリンピックでは、たいてい最終日に行われる水球の決勝が好きだ。(日本が出ることは、まずないが)。

 

 生来のへそ曲がりとは重々自覚している。それでも、少なくとも過度な二段モーションや静止が美しいとは思わない。金田正一も稲尾和久も江夏豊も江川卓も外木場義郎も、止まっていましたか。むしろ、スムースにリズミカルに投げていた。そんなの古いとおっしゃるなら、大谷翔平はどうですか?じゃあ、クレイトン・カーショウ(ドジャース)はどうなんだ、と言われるかもしれない。ならば、マックス・シャーザー(ナショナルズ)はどうだ、と言い返そう。

 

 いやいや、別に世間様にケンカを売るつもりは毛頭ないが、フォームに美とリズムを求めるのは、生き方の問題なのでして。たとえば、伊藤智仁のフォームは……。いや、このくらいにしておこう。

 

 張本さんのおっしゃる通り、たしかにアメリカのやり方が何でもすぐれているわけではない。たとえば、故意四球の申告制なんて、愚の骨頂だ。投手が敬遠の4球を投げる時間も、野球の一部である。なぜ、こんなことまで、真似をしなくてはいけないのか。

 

メジャーで話題の革命

 

 ところで、昨今のアメリカ球界を席巻しているものに「フライボール革命」がある。要するに、ゴロやライナーではなく、フライを打ってホームランを狙う野球のほうが勝率が高い、という考え方だ。これもまた、日本球界に入ってくるのだろうか。

 

 昨年、ワールドシリーズを制したヒューストン・アストロズが、その代表的なチームである。これについては、NHK「アストロズ革命-MLB新時代」(2017年12月30日放送)がよくできていた。

 

 アストロズの象徴ホセ・アルトゥーベは4年連続200本安打(2014~2017)の、まさに安打製造機だが、フライボール革命によりホームラン打者に変貌した。一桁だったホームラン数は、16、17年と2年連続24本を記録した。

 

 要するに、打球に25度から30度の角度をつけると、ホームランになりやすい。だから、そういうスイングにするというのだ。同番組のアロンゾ・パウエル打撃コーチ補佐のコメントが印象的だった。

 

「アルトゥーベは俊足を生かすために、ゴロを打ち、ヒットを量産してきました。でも、もっと相手にダメージを与えたいと、スイングを変えたのです。腰を開かずに重心を後ろに残して打つようにしました。そうすれば、打球が上がりやすくなるからです」

 

 これぞまさに、フライボール革命だが、はたして日本にもこの考え方は定着するだろうか。「ゴロを打って走れば、何かが起きる可能性はある。フライでは何も起きない」とは、古くから言い慣らされたこの国の野球の格言だが。

 

日本のフライボール男

 

 日本で代表的なのは、おそらく柳田悠岐(ソフトバンク)だろう。昨季、明確に「フライを打っていくこと」をテーマにしていたと、本人が証言している。「ヤフオクドームの人工芝の貼り替えがあって、打球の勢いが吸収されやすくなった分、ゴロを打つと内野の間を抜けないし、ヒットにならない」(「ベースボールマガジン」2018年別冊早春号)からだそうだ。

 

 他の選手も、次々にこういう発想になったら面白いと私は思う。なにしろ、身長168センチのアルトゥーベでも、スイングを変えて、25度から30度の角度のフライを打つことはできると実証されているのだから、体格は関係ない。

 

 再び、冒頭のオープン戦に戻る。

 

 この試合で、日本ハムの横尾俊建が放ったホームランは興味深かった。何しろ大きく足を上げて一本足になり、軸足の右足がふらついて見えるくらいのフルスイングをする。しかも、それこそ25度から30度の角度のつきそうなスイング軌道。フライボールの男である。

 

 あるいは、同じ日本ハムの中田翔。稲葉篤紀監督の侍ジャパンからはついにお声もかからなかったが、この日を見る限り、今年は、左足のあげ方が小さくスムーズになっていた。これが続けば、もともと当たれば打球が上がるスイングなのだから、フライボールでいけるかもしれない。

 

正念場の“プリンス”

 

 個人的には、たとえば堂林翔太(広島)なども、挑んでみたらいいのではないかと思う。

 

 “プリンス”も今年で9年目。キャンプ、オープン戦ではなんとか一軍にかじりついて、そこそこの結果を残すのだが、シーズンに入ると二軍行きというのが近年のパターンになっている。

 

 今年のキャンプを見ると、ようやく、体が一回り大きくなったように見える。考え方の何かが変われば、再び“プリンス”時代の輝きを取り戻せるかもしれない(ひいき目ですかね)。

 

 ただし、打者がフライボールで成功するには、三振を少なくする必要がある、と件の番組で、アストロズの関係者がいっていた。やはり、フライを狙えば、三振は付きものになる。そこで、きわどいコースの変化球は見送る我慢が必要なのだという。中田にしろ、堂林にしろ、この我慢ができるか、という問題は残りますね。

 

 最後に、二段モーションにしろ、フライボール革命にしろ、言っておきたい真理がある。


 たとえば、前田智徳(元広島)の、流麗な打撃フォームを思い起こしながら、あるいは伊藤智仁(元ヤクルト)の華麗な投球フォームを思い浮かべながら……。

 

 究極の技術には、おのずから、究極の美が宿る――。

 

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール

1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。


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