ロシアワールドカップまであと3カ月。

 3月のベルギー遠征(23日マリ代表戦、27日ウクライナ代表戦、いずれもリエージュ開催)を終えると、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は本大会メンバー23人に絞っていく作業に入っていくと思われる。現時点では5月中旬に発表予定だが、最終決定を5月30日の壮行試合(ガーナ代表戦、横浜国際)後まで引き延ばす「2段階発表」の可能性をメディアは指摘している。

 

 ハリルホジッチ監督は選考基準において何よりもコンディションを重視する。実績や貢献度があっても、試合に出ていない、調子が良くないとなればメンバーから外すこともためらわない。それだけ「サプライズ」の要素も秘めているということだ。

 

 筆者がメンバー選考において注目している1つのポイントは、ハリルホジッチ監督が「ベテラン枠」を考えているかどうか、だ。

 

 過去、グループリーグを突破して決勝トーナメントに進んだのは2002年の日韓大会と2010年の南アフリカ大会。共通項を探すなら、控えメンバーの中にリーダーシップを持ったベテランがいたことだ。日韓大会ではフィリップ・トルシエ監督が中山雅史、秋田豊をメンバーに入れることで、チームにより一層のまとまりを持たせようとした。実際、2人は明るい振る舞いでチームを引っ張った。その効果はてき面だったと言える。

 

 そして南アフリカ大会では岡田武史監督がケガで離脱続きだった川口能活をチームに呼び戻し、チームキャプテンを任せている。指揮官はその意図について「第3ゴールキーパーという難しい状況の中、選手からも一目置かれる彼の存在が必要と考えた」と語っていた。

 

 川口が大きな役割を果たしたことは多くの人が知るところである。

 スイス・ザースフェーでの事前合宿で選手ミーティングの音頭を取り、そこで意見をぶつけ合ったことがチームを好転させるきっかけともなった。

 

 当時、川口はこのように述べている。

「久しぶりに代表に戻ってきて、ちょっとまとまりを欠いているような印象を受けました。このままだと応援してくれる人々の心をつかむような戦いができないかもしれないと思って、選手だけでミーティングをしようとアクションを起こしたんです。僕もワールドカップやいろいろな経験があるので、短期決戦ではチームの一体感が何よりも大事になってくると思っていました。これは僕がやるべき仕事なんだとも」

 

ケガ上がりで第3ゴールキーパーという位置づけの川口は23人のメンバーのうち、試合に出場できる確率は最も低かったかもしれない。それでも彼は練習から一切手を抜くことなく、出場を目指してトレーニングに取り組んでいた。中村俊輔の言葉が実に印象的だった。

「試合に出なくても一生懸命に練習をやるから、みんな手を抜けない。『よっしゃ、行こうぜ』みたいな盛り上げ役も必要かもしれないけど、能活さんのような姿勢を見せられる選手がいるといないのとでは違ってくるのかもしれない」

 

 さてハリルジャパンである。

 順調に進んでいる状況ならともかく、昨年8月にワールドカップ出場を決めて以降、チームの状態が上がっていないのはちょっと気がかりだ。

 

 日韓大会での中山、秋田、南アフリカ大会での川口のような「一目置かれる存在」がチームのまとまりに一役買った事実を考えてみても、1枠をリーダー格のベテランに充てるというマネジメントはあるように思う。ハリルジャパンには不動のキャプテン長谷部誠がいて、最年長者の川島永嗣もチームを引っ張っている。だが2人とも主力を担っているため、控えの立場でチームを客観的に眺めることができるベテランが一人いてもいい。

 

 たとえばワールドカップ経験があって所属チームでもキャプテンを務め(またはキャプテン経験がある)、今もJ1の舞台で活躍する選手となると遠藤保仁、中村憲剛、中澤佑二、阿部勇樹たちがパッと頭に浮かぶだろうか。彼らのように選手から一目置かれるベテランを、候補から完全に外して考えなくてもいいのではないだろうか。

 

 ワールドカップは国内合宿、事前合宿を含めて長丁場になる。チームがどのようにまとまりを見せていくかが、大切になる。「ベテラン枠」のサプライズ、ありやなしや――。


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