昨秋から年初にかけてワイドショーの主役は大相撲だった。

 

 

 横綱(当時)日馬富士による平幕・貴ノ岩への暴行事件は、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方の理事解任にまで発展し、その後の理事選で貴乃花親方が落選するまで続いた。

 

 残念ながら、この間、大相撲の将来について建設的な議論が交わされることはほとんどなかった。

 

 そんな中、「力士のセカンドキャリアについて、もっと真剣に考えるべき」と声をあげたのが元大関の小錦である。

 

「元力士を介護士として派遣できるような仕組みをつくれないものか」

 

 小錦は真顔で訴え、続けた。

「介護職は、力士にはすごく合っている仕事だと思う。力持ちだから高齢者の体を支えるのはまったく問題ない。しかも洗濯も料理も上手。高齢者には相撲好きの人も多いから、話題にも事欠かないよ」

 

 これまで廃業した力士の就職先といえば、ちゃんこ屋をはじめとする飲食業が中心だった。後に経営者として成功した者もいるが、あくまでもそれは一握りだ。

 

 つい最近、マゲを切った十両経験者から、こんな話を聞いた。

「再就職と言っても力士出身者は簡単ではない。体重が150キロもあれば背広をつくるのもひと苦労。いきなり机の上にノートパソコンを置かれても扱ったことないんだから……。仕事と言えば営業の接待係。毎晩飲んでばかりで肝臓を悪くしてしまいましたよ」

 

 確かに慣れないデスクワークは命を縮めるだけかもしれない。

 

 再び小錦。「相撲の世界は、社会で成功するためのいろいろな能力を培ってくれる。たとえば、あいさつや礼儀作法。稽古でどんなに疲れていても、お客さんがきたら、ずっと給仕するんだから。気も利くし、忍耐強くもなるよ」

 

 ケガと背中合わせの上に引退後の生活が不安定では、親は安心して子供を角界に送り出せまい。協会は小錦の案に耳を傾ける時期にきているのではないか。

 

<この原稿は『週刊大衆』2018年3月26日号に掲載されたものです>

 


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