2009年、西丸泰史が進学した三木町立三木中学校は、部活動が非常に盛んである。野球部もその例に漏れず、県大会や四国大会でも上位に食い込むような強豪校だ。父・謙二は「県内の公立中学校の中でもトップクラスの成績を残してきた学校なので、環境的には恵まれていたと思います」と、息子の成長にこの時期が大いに関与したと述べている。

 

 小学校の高学年からピッチャーを務めるようになっていた西丸は、中学進学後もピッチャーで活躍することを望んでいた。だが、監督が最初に評価したのは西丸の守備だった。
「“オマエは守備が一番うまいから”と言われて、1年生の時はサードを命じられました。サードを守っていた選手がどうも打球を怖がっていたようで、根性のある子をということで自分に白羽の矢が立ったみたいです(笑)。根性は誰にも負けない自信がある。2年生の時もサードで、3年生になってからはショートを守りました」

 

 監督からの指令

 

 監督が西丸から見出していた才能は守備だけではない。むしろバッティングに光るものを感じ取っていた。だからこそ彼に試練を与えた。打撃に自信を持ち、主軸として「バンバン打ってやる」と意気軒昂に入学した西丸が、監督から命じられた打順は意外なものだった。

 

「“お前は2番で使う”と言われました。“バントとカットの練習をしなさい、出塁率をあげることを考えなさい”と。これまで打席でそんなことは一度も意識したことがありませんでした。“長打はいらない。現時点ではお前はそういうバッターではないんだ。逆方向の三遊間を抜いたり、1死無走者だったらカットして塁に出ろ”などとも言われました。理由は分かりませんでしたが“はい、わかりました”と答えて、カットやバントの練習に明け暮れました」

 

 チームプレーはもちろん大切だが、小学校上がりの年頃と言えば、いわば打ちたい盛りである。まして西丸は小学校から中軸を打つほどの実力があった。「打球を飛ばしたい」と思うことは自然であろう。西丸本人にも確たる理由が知らされたわけではない。ただ監督の期待の大きさは、日々感じていた。「自分を個人的に呼ばれ、マンツーマンで指導していただきました」
 西丸は“自由に打ちたい”という気持ちを抑えながら、課題に真摯に取り組んだ。そして中学3年生になった時、監督から新たな指令が飛んだ。

 

「普通に打っていいぞ!」

 

 際立つ完成度

 

 それはまさに天の恵みのような声だったに違いない。思い切りボールを打てる喜びを噛みしめるともに、西丸は自らのあらゆる打撃能力が向上していることに気づく。

 

「芯にしっかりと当たるんですよ! カットというのはボールをギリギリまで見ないと当てられないので、自然と芯に当てる技術やバットコントロールが身についていたんです。選球眼にも自信がつきました。四球を選べるのもボールをギリギリまで見られるから。練習の成果で出塁率が7割くらいあったんです。ほとんど塁に出ていたので走塁の機会も増えましたし、技術が磨かれたと思います。それとバント、今でも結構得意なんですよ」

 

 そう言って、ニヤリと笑った顔が印象的だった。ほとんど意識する間もなく、中学生にしてきわめて完成度の高い野球選手になっていた。当時の自分を懐かしく、少し誇らしげに語った。言うまでもなく、このスキの少なさは現在に受け継がれており、西丸という選手の大きな特長のひとつとなっている。改めて2017年春季シーズンの成績を振り返ると、積極的に打つスタイルながら13試合の出場で四死球がリーグ2位の13もある。出塁率に換算すると実に5割7分1厘。恐るべき選球眼の源は、中学時代の努力の結晶だったのだ。

 

 単に打つだけではない。総合的な能力を活かし、チームに“野球力”を還元できる選手。そういう言い方が当てはまるのかもしれない。戦況を見極め、その場に応じて最善のプレーを選択する習慣も、この時に養われた。西丸は言う。「当時の指導に感謝しています。もし、あの時に“嫌や!”と言って話を素直に聞いていなかったら、今の自分のバッティングはなかったと思います」

 

 まさに西丸にとっての一大転換期が、中学校の3年間だった。すべての面において野球選手としてレベルアップし、いよいよ高校野球の世界に挑むことになる。自身の価値を大きく高めた高校時代は、しかし、苦難の道への入り口でもあった――。

 

<西丸泰史(にしまる・たいし)プロフィール>
1996年10月18日、香川県木田郡三木町生まれ。小学1年で野球を始める。氷上小、三木中を経て尽誠学園高に進学。1年生からショートでレギュラーの座を掴んで以来、不動のレギュラーとなった。高校2年生時、春の四国大会で獅子奮迅の大活躍。クリーンアップとして得意の打撃で、四国大会制覇に貢献した。高校卒業後は東都大学野球リーグの國學院大学に進学。強打の内野手として活躍中。2017年春季リーグ戦ベストナインに、指名打者部門で選出された。2018年からは主将を務める。身長178cm、体重78kg。

 

 (文・写真/交告承已)

 


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