たとえば4月10日の阪神-広島戦。カープは3-4で負けたのだが、4回裏にこんなシーンがあった。

 

 この日の先発は薮田和樹。2-0と2点リードして2死無走者。迎える打者は糸原健斗である。

 

 カウント3-2から、薮田は左打者・糸原の内角低めに見事なストレート。ストライク、バッターアウト、かと思いきや審判の手は上がらず、四球となってしまった。続く梅野隆太郎にタイムリー2塁打を浴びて1失点。いわば相手に逆転の口火を与えてしまった。

 

 あのインローは厳密に言えば、少し内側に外れていたのかもしれない。しかし、普通はストライクだろう、と言いたくなる。

 ここで4月6日~8日に行われた横浜DeNA3連戦を思い出す。初戦は野村祐輔の好投もあって7-3と快勝したけれども、第2、3戦は連敗を喫した。いずれも、最後に出てきたのは、クローザーの山﨑康晃である。

 

 カープは、どうも山﨑が打てない。ストレートとツーシーム(スプリットのように沈む)に翻弄されている。山﨑のストレートにも、薮田がボールにとられたようなコーナーいっぱいのボールがいくつかあった。しかしこちらは多くの場合、ストライクなのである。これで追い込まれて、打ち取られる。

 

 なぜだろう。明確な理由はわからないが、ボールの勢いの問題ではあるまいか。

 

 ということは、薮田にはやはりまだ去年の疲れが残っている、ということかもしれない。10日は、5回と3分の1で8四球である。大きく抜けるボールも目についた。まだまだ、間に合う。少し立て直しの時間をあげたほうがいいのかもしれない。

 

 カープの課題としては、なにしろ今年は横浜DeNAに勝ち越して、去年からの苦手意識を払拭しなくてはならない。

 

 もちろん山﨑康晃を出させない展開(すなわちリードを保って逃げ切る)に持ち込むのが、確実な方法である。

 

 だけど、一度は山﨑を打ち崩して勝って、勢いに乗る、というのも必要ではないか。たとえば2016年の交流戦で、鈴木誠也がオリックスのクローザー平野佳寿(現ダイヤモンドバックス)を打って、勢いに乗ったように。

 

 今回の3連戦を見ていて、今の状態で、田中広輔と丸佳浩は、十分勝負になると感じた。仮に結果として三振にとられたとしても、それはあくまで紙一重の勝負であって、四球がとれる可能性も高い。

 

 ここで思い出すのが、去年までの石井琢朗打撃コーチの言葉である。「簡単に三振するな。後ろにつなげ!」

 

 山﨑という投手は、四球を2つくらい出すと、結構打てる確率が上がってくる。

 

 要は、去年までの「石井イズム」を思い出して、次こそ山﨑を打ちくだくことが、三連覇への勢いを生むのではないか。

 

 最後に、蛇足を少々。

 

 アドゥワ誠は、肝が据わっている。8日の横浜戦では無死満塁で前進守備という絶体絶命のシーンを迎えたけれども、内野ゴロ、ホームゲッツーを取ってみせた。もう少し球威がほしい気がするが、独特の動くボールは面白い。

 

 堂林翔太は、意外にバントがうまい。これは、正直、知りませんでした。

 

 最後に、もっとアレハンドロ・メヒアを使ってくれ。彼に、山﨑との打席をあと3打席あげたら、1本はホームランを打つ――と私は信じる!

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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