(写真:KOでの防衛に「ホッとした」と語る村田)

 15日、ボクシングのダブル世界戦が神奈川・横浜アリーナで行われた。WBA世界ミドル級タイトルマッチは王者の村田諒太(帝拳)が同級6位のエマヌエーレ・ブランダムラ(イタリア)を8ラウンド2分56秒TKOで下した。村田は初防衛に成功。WBCフライ級タイトルマッチは前王者の比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)が同級2位のクリストファー・ロサレス(ニカラグア)に9ラウンド1分14秒TKO負け。前日の計量で体重超過によりベルトを失った比嘉は、デビューからの連続KO記録も15で止まった。

 

 ビッグマッチへ近づく快勝

 

「初防衛戦としては及第点」と自己採点は辛かったが、村田はイタリアからの刺客を圧倒した。

 

(写真:身体が開き「タイミングが合わなかった」という右ストレートも試合中に修正した)

 序盤は慎重だった。「1、2ラウンドはポイントいらない。相手の右をもらうのは賢い選択とは言えない」と村田。それでも得意の右ストレートを浴びせ、ブランダムラを何度もロープ際に追い込んだ。

 

 勝負を決めたのは8ラウンド終了間際だ。強烈な右ストレートでなぎ倒した。キャンバスに崩れ落ちるブランダムラ。レフェリーが挑戦者のセコンドに目をやると陣営は両手を振った。レフェリーが試合を止め、村田の初防衛が確定した。

 

 試合内容で圧倒していたように映ったが、本人は「焦りもあった」と口にする。「無理して倒しにいくことがいいとは思えない」と考える一方で、「“いいかたちで倒したい”との気持ちが無意識にあった」と明かす。8ラウンドTKO勝ちには「ホッとした」と安堵した。

 

(写真:威力のある右はブランダムラを何度も後退させた)

 約半年前に奪ったベルトを自らの拳で守ってみせた。チャンピオンになったことで「研究される立場」に変わり、プレッシャーも少なくなかったという。それをはねのけての初防衛だった。

 

「ミドル級最強」との呼び声が高いゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)とのビッグマッチへ一歩近付いた。村田のプロモーターを務めるアメリカのトップランク社ボブ・アラムCEOは秋のラスベガス興行を挟んで、東京ドームでのゴロフキン戦を視野に入れる。

 

 ただ村田は「今のままでは勝てる気がしない」と冷静に足下を見つめる。32歳のチャンピオンは「もっと強くなりたい」と貪欲だ。

 

 新カンムリワシ羽ばたけず

 

 8ラウンド終了の公開採点は0-2。比嘉にとって、残りの4ラウンドは攻めるしかない状況だった。しかし、その足は重く、ロサレスのパンチを浴びるばかりだった。

 

(写真:レフェリーが2人の間に入り、試合を止めた)

 比嘉に反撃の狼煙を上げる気配は見えず、具志堅用高会長は棄権の意を示した。この瞬間、ロサレスが新王者に就き、比嘉にプロ初黒星が付いた。

 

 前日計量で900gオーバー。比嘉は王座を剥奪されていた。モチベーションもコンディションも万全ではないことは明らかだった。猛禽類の如く相手を仕留める連打は影を潜め、動きにキレは見られなかった。

 

 昨年4月に王座奪取した時から減量により、パニック障害を起こすなど「フライ級は限界」との声はあった。地元・沖縄での防衛戦から2カ月という試合間隔も懸念材料のひとつだった。陣営がタイミングを見誤ったとも言えるだろう。

 

(写真:比嘉らしい動きのキレは最後まで見られなかった)

 計量失敗はプロとしての責務を果たせなかったことになる。日本ボクシングコミッション(JBC)からも何らかの処分は科されるはずだ。比嘉にとっては王座を失い、記録も途切れた。心身ともに大きなダメージを負った。

 

 今後について具志堅会長は「ゆっくり休ませたい」と語った。比嘉は22歳。更なる高みへと飛び立とうした若きカンムリワシは、しばし羽を休ませることとなった。

 

(文・写真/杉浦泰介)