(写真:今年4月、日本初開催のFISE WORLD SERIESは広島で行われた)

 東京オリンピックまでこの原稿を書いている時点で830日を切ったところ。

 つい先日、1000日前イベントを見たような気がするが、あっという間だ。チケット販売は来春に始まるし、スポーツ好きにはワクワクが抑えられない。もちろん、準備をする立場の者にとっては迫りくる時間との戦いになる。単なる国際スポーツイベントにとどまらず、世界の文化の祭典であり、開催国の可能性を世界に見せ、国内のハードとソフトの構築をする歴史的な機会。大会の成功はもちろん、この機会に何を残せるかを考えながら、壮大なプロジェクトを国民総出で進めなければならない。

 

 ここでちょっと注目したいのが、今回、五輪に採用されるNew Sports。野球・ソフトボール、空手、スポーツクライミング、サーフィン、スケートボードの5競技が入ることだ。野球とソフトボールは復活組で特に日本国内では熱望されていた競技。ただ国際的な評価は分かれるところである。他の4競技はスポーツとして歴史が浅いものが多く、まだ懐疑的な見方をされているものもある。

 

 しかし、五輪種目になったとたんに社会からの見方は変わるもの。2000年から採用されたトライアスロンなども歴史が浅いし、競技人口はそれほど多くなかったが、それ以降の認知度が高まり、社会的なポジションの変化は目を見張るものがある。また新競技でなくても、種目の増加するものもあり、こちらも注目だ。自転車のBMXフリースタイル、バスケットの3on3、卓球混合ダブルスやトライアスロンの混合リレーなどがあり、既存の競技内容に近いものからまったく異なるものまでさまざま。この結果、33競技、339種目で開催される幅広いものになった。

 

 この新競技、新種目の採用は「五輪離れ」を防ぎたいIOCの思惑が見て取れる。近年、若年層の既存の五輪スポーツ離れが進んでおり、当然五輪自体への興味も落ちてくると考えられる。世界一のスポーツ文化の祭典であり続けなければいけない五輪として、この現状を危惧されるのは当然だろう。

 

 そこで、彼らは若年層へのアプローチを積極的にかけてきている。スケートボート、BMXフリースタイル、サーフィンなどの横乗り系、3on3などのストリート系など、既存概念では競技スポーツと結びつかないものを採用したのだ。さらには、TVゲーム系のe Sportsも検討しているという。さすがにTVゲームと五輪とはちょっと想像できないが、IOCの若年層を取り込む思いはそれだけ強いということなのだろう。

 

 新しい文化を醸成するチャンス

 

(写真:広島市民球場跡地に東京五輪でも実施される新競技を含めた7種目が行われた)

 さて、今回これだけのNew Sportsを開催することになる東京。その準備はなかなか大変である。なにしろ過去の五輪ではなかったわけだから、そのフォーマットを競技団体と作っていくところから始まる。

 

 しかし、スポーツによっては競技団体がまだ脆弱であったり、複数に分かれていたりとそれぞれ事情がある。ようやくそのあたりをクリアしてきたが、国内での競技会および会場不足などで強化や選考が難しかったりするのも実情。スケートボードなどは、国内に国際大会をできるような基準をクリアした施設がなく、選手たちが練習する場所が少ないという状況だ。新しいが故の悩みは尽きない。

 

 裏を返せば、だからこそ五輪の機会を利用し、そのスポーツを根付かせていく好機だともとれる。そう、五輪で会場が作られることで練習場所や、競技の象徴となる物理的な場所が生まれ、メディアが注目することで知名度が上がる。残念ながらまだアウトロー的な見方をされるストリート系のスポーツにとって、イメージを変える好機でもあるのだ。つまり新しいスポーツ文化を、五輪を契機に醸成していく大きなチャンスがやってきたということである。

 

 これこそが、我々が自国で五輪をする意味であると思う。大会そのものが成功することはもちろんだが、大切なのはその五輪で何を作り出し、何を残せるか。それはインフラなどのハードだけではなく、新しい文化を作り、育てていくことも大切だと思う。今回は、まさにチャンス到来である。

 

 オリンピックはあと830日でやってくる。

 そのために多くの方が努力し、多くのお金が使われることも事実。それならば、今後の日本の有形無形の資産造成の機会にしたい。特に成熟社会、人口収縮が始まる日本にとって、ハードではなくソフトの醸成が大切だ。

 

 そんな観点を大切に、新しいNew Sportsとともに創っていけたなら、意義深い大会となると信じている。

 

参考資料

今年4月、日本で初開催のストリートスポーツの祭典「FISE WORLD SERIES HIROSHIMA 2018」

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月に東京都議会議員に初当選。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ


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