衣笠祥雄さんの訃報には本当に驚きました。何年か前から闘病してらっしゃると聞きましたが、お会いしたときにはそんなことはまったく感じられず、お元気だったのに……。

 

 ハワイで見た鉄人

 球界の大先輩ですが、とても優しくてフランクな方でした。あれだけ実績を残している名選手なのにまったく偉ぶるところがなく、たまにしか球場では顔を合わせませんでしたが、会えば「こんにちは」と気さくに声をかけてくださいました。解説にも人柄が出ていて、常に選手の側に立つ愛情の感じられる語り口でした。もっといろいろなお話をうかがいたかったんですが、今はただただ残念でなりません。ご冥福をお祈りいたします。

 

 大学時代、学生選抜でハワイ遠征に行ったときのことです。衣笠さんも偶然、ハワイにいらしてたようで、空港でお見かけしました。今思えば名球会のイベントか何かがあったんでしょうね。サングラスをかけた長身の衣笠さんは、もう見た瞬間に「うわ、かっこええ」と声が出たほどでした。プロに入って衣笠さんに会ったときに「ハワイの衣笠さん、めちゃくちゃかっこよかったですよ」とその話をしたら、「ありがとう」って言ってくださった。あれで僕は衣笠さんのファンになりましたね。

 

 こういうこともありました。まだ仰木彬さんが健在だったころ、有志で「仰木さんを囲む会」を開いたんですよ。そのときに同じ店に偶然、衣笠さんが居合わせた。仰木さんのところに挨拶に来られて、普通ならそれで終わりじゃないですか。それが衣笠さんは仰木さんだけでなく、そこにいた僕ら全員に挨拶をしてくれたんですよ。分かっていてもなかなかそういうことはできない。それを衣笠さんはスマートにやるから、もう「この人、最高やな」と。

 

 本当にあんなにいい人は……と、なんか衣笠さんの思い出話をしていたら泣いてしまいそうです。切り替えて、プロ野球の話をしましょうか。

 

 新人だが銭のとれる投手

 

 開幕して約1カ月が経ち、まあまあ予想通りのシーズンだなと思っています。想定外だったのはソフトバンクにケガ人が多く出ているところ。それ以外は僕の予想通り……って、「お前、"オリックスに期待している!"と言ってたやないか」。はい、その通りです。オリックスは期待通りではないですね。ルーキー田嶋大樹の活躍などはありますが、チームとして歯車が噛み合ってないというか空回りの状態。ここからの立て直しに注目しておきましょう。

 

 セ・リーグは予想以上に混セになっています。総合力では横浜DeNAが抜けてくるとは思いますが、心配なのは阪神です。Aクラスに踏みとどまっていますが、打線が湿ったまま。もう少し攻撃力が上向いてこないと交流戦までに上位争いから脱落もあるかもしれません。それと藤浪晋太郎が相変わらずの状態ですね。今季、急に崩れることがありますが、たとえば50球のうち全部がダメなボールじゃない。中には当然、良いボールだってあるんですよ。首脳陣にはそこを見てあげてほしいですね。

 

 藤浪はいい意味であまり人の意見を聞かないタイプです。それがなぜか昨年から続くこの不調に関しては、人の意見をよく聞いているんです。聞きすぎるくらいにね。頭でっかちになっているようなので、もう本当にシンプルにど真ん中で勝負とか開き直ってもいいんじゃないでしょうか。思い切ってリリーフもありかなと思います。短いイニングで投げれば、何かきっかけをつかめるかもしれません。

 

 最後にひとつ。中日のルーキー・鈴木博志はものすごくいいですね。新人ながらお金がとれるタイプ。あのピッチングを見るだけでも球場に行く価値がある、と僕は思っています。彼のようなピッチャーが出てくるとまたセットアッパーの地位も上がるので頑張ってほしいですね。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、エルマイラ・パイオニアーズ、オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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