高校3年生になった2014年。四国屈指の高校生野手となっていた西丸泰史にとって、重要な進路選択の時期が迫っていた。

 

「最初は大学に行く気はあまりなかったんです。関西の社会人野球チームに行くつもりでしたが、高校の監督さんから“東都大学野球リーグの強いチームの首脳陣がお前の練習を見に行きたいと言っているぞ”と聞かされました」
尽誠学園高の練習を訪れた國學院大学の鳥山泰孝監督と話を交わした西丸は、そこで“國學院は人間性を重視している”という鳥山監督の熱いメッセージに感銘を受けた。それが決め手となり、進学を決意する。

 

 息子の決断を父・謙二も後押しした。
「入学直前に私も鳥山監督にお会いしたのですが、“人間形成が一番です。社会人として恥ずかしくない人に育て、送り出します”と強く熱弁されておられた。“これはすごい大学や!” と思いました。東都大学野球リーグは私が球児の頃からとてもレベルが高く、厳しい世界。しかし本人から“勝負したい!”という連絡があったので、それなら4年間覚悟を決めて揉まれてこいと送り出したのです」

 

 2015年4月、國學院大に入学。未知の世界に最初は戸惑った。まず木製バットに慣れなければならない。「大学に進んで感じたのは、ピッチャーの球速が速いこと。木製バットで振る怖さがありました。入学直後に監督さんやコーチから“結果を気にせずに、まずはしっかり振りなさい”と言われ、無意識のうちにスイングが小さくなっていたことに気づいたんです。それだと余計に打球が詰まって手が痛い。指摘を受けてからはしっかりと振れるようになり、“木でもいけるな”と感じました。うまく捉えれば木の方が打球も飛びますし、今は木の方がいいです」

 

 初めての弱音

 

 環境にも慣れ、大学野球の波に乗っていけるかと思われた矢先のことだった。腰の具合はすでに野球ができる状態ではなくなっていた。父・謙二が回想する。

「“もう野球ができない”と電話がかかってきました。入学した年の5月だったと思います。初めて弱音を吐きました。幸い手術で治療可能な病院が見つかり、8月に手術を受け、そこからはリハビリです。“9割の状態までは治せる”と医師から言われたのですが、そこからさらに少しでも万全に近づけられるように本人は努力していました。復帰したのが2年生の年の秋季リーグ。この時はうれしかったですよ」

 

 西丸にとって苦難の時期だったが、実りもあった。「大学野球の深さを知りました。トレーナーさんの存在も大きく、体の使い方や姿勢を意識するようになり、それがバッティングにも守備にも活きました。ケガをしたからこそ、自分の身体と向き合うようになりましたね。そうやってじっくり考えられたことが、今につながっていると思います」

 

 大学3年生となった2017年の春季リーグ、スタメンの座を手にした西丸はリーグ4位の打率4割1分7厘の成績を叩き出し、指名打者部門において満票でベストナインに選ばれた。「それまでケガで野球ができず、純粋に野球が楽しかったんです。無心で打席に入れました。それが好結果につながったのかもしれません」。初めてフルに大学野球を戦うシーズンでの、いきなりの大活躍だった。
 父・謙二は「まさかタイトルを獲るとは。野球ができないかもしれないという状態から、本当に頑張った。うれしかったです」と、劇的な復活を喜んだ。

 

 自慢の打撃がトップレベルで通用することが証明された一方、腰の痛みが最も影響を及ぼしたのは守備においてであった。高校時代はショートで守備の要として勇躍したが、大学に入ってからは本来の動きにまだ戻り切れていないようだ。「現在も影響が残っています。瞬発的な動きが落ち、球際でどうしても腰がグッと入って行かない。今まで捕れていた打球を後ろに抜かれたり……」

 

 今季の開幕を控え、新たにファーストにも挑戦。視点が変わったことで得られることもあった。「最近チーム事情もあってファーストを守りました。改めて気付きましたが、送球を受ける捕球が難しい。送球する選手によって球筋も違うし、場面によっても違いますから。それでショートに戻った時、投げる意識が変わりましたね。捕りやすい送球を工夫しています」

 だが、本職であるショートへの思いは人一倍強い。「自分は相手の雰囲気や構えを見て駆け引きすることが好きなので、もっと腰を良くして、ショートで勝負したいです」

 

 プロ向きの勝負強さ

 

 将来の選択肢として「プロ野球」の世界を視野に入れる。「大学卒業後にプロに行きたい」と西丸も大願に向け息が荒い。父・謙二が「彼の魅力はバッティング。アベレージヒッターだと思っています」と述べるように、一番のアピールポイントは確実性の高い打撃である。しかし西丸の指導に携わった者は一様に、彼が持つ「勝負強さ」を“プロ気質”としてあげる。

 

「息子はチャンスになると、より一層集中するタイプだと思います。観客が多ければ多いほど燃える。私も彼が高校の時はずっとスタンドで見ていましたが、試合の要所で多くの打点をあげていました。プロの世界は勝負強さが絶対必要ですから、そこは魅力としてあると思います」(父・謙二)
「2012年香川県大会で高松商の谷川宗から打ったホームラン、2013年四国大会の決勝で鳴門高の板東湧梧から打った決勝タイムリー。いずれも“ここで決めてこい!”と送り出した時に決めてくれた。そのふたつは特に印象に残っています。あの勝負強さはプロに通じるし、目指すべき世界だと思います。打撃の完成度は言うことがないですよ」(尽誠学園高野球部時代の岡嶋監督)

 

 将来を見据えながら迎える2018年春季リーグがいよいよ始まった。今季からキャプテンを任されている西丸は、チームの勝利を常に念頭に置いて戦いたいと語る。
「チームとして“打線”になりたいですね。一人一人がしっかり考えて野球をすることをチームで心がけています。自分が打ったからOKではなく、たとえ4打数4三振でも打席で粘ったりしてチームに貢献できているかどうかです。今年のチームは春キャンプの時から、みんなが同じ部屋で野球について意見をぶつけ合っていました。それを見て、ちょっとずつ“考える野球”が浸透してきていると感じました。チーム力は間違いなく上がっています。勝ちにこだわるチームになってきている」

 

 最後に今季の抱負を聞いた。
「やはり東洋大、亜細亜大を倒さなくてはならない。特に東洋大の梅津晃大君には去年抑えられているので、今年は打って勝ちたいですね。そのためにはみんなで、チームとして“打線”で戦うことです。個人的には座右の銘である“堅忍不抜”を貫きます。高校でケガをした時にコーチにかけていただいた言葉なんです。我慢強く継続して精進することで、成功に結び付けたい。國學院大は一人一人がしっかりと自立していて、考えられる環境です。自分たちでしっかり考え、その後に監督さんやコーチがしっかりと同じ目線で寄り添ってくれる。ここでしっかりと結果を残し、将来につなげていきます!」

 

 インタビュー終了まで、明るくはっきりした声で語ってくれた。この爽やかさが、彼の魅力だ。会話の端々から、野球が好きでたまらないという気持ちが伝わってきた。
 4月30日現在、國學院大は3勝2敗で勝ち点1の2位。8年前の初優勝以来となる栄冠に向け、まずまずのスタートを切っている。学生生活の集大成として臨む1年。香川の野球小僧のバットが、國學院大の命運を握る。

 

 (おわり)

 

<西丸泰史(にしまる・たいし)プロフィール>
1996年10月18日、香川県木田郡三木町生まれ。小学1年で野球を始める。氷上小、三木中を経て尽誠学園高に進学。1年生からショートでレギュラーの座を掴んで以来、不動のレギュラーとなった。高校2年生時、春の四国大会で獅子奮迅の大活躍。クリーンアップとして得意の打撃で、四国大会制覇に貢献した。高校卒業後は東都大学野球リーグの國學院大学に進学。強打の内野手として活躍中。2017年春季リーグ戦ベストナインに、指名打者部門で選出された。2018年からは主将を務める。身長178cm、体重78kg。

 

(文・写真/交告承已)

 

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