伊藤数子: 平昌パラリンピックは現地に行かれたのですね?

青木尚二: はい。ただ予想以上に観戦チケットを入手するのに苦労しました。競技会場に行ってみると、スタジアムは満員にはなっていない。想像するに様々な関係者がパラリンピックをフルスタジアムにしようと試みられた事なのだと思います。事実、地元の住民にチケットを提供するなどしていたからです。

 

二宮清純: 実際にはその方たちが観に来なかったと。

青木: そうなんです。それは2020年東京パラリンピックでも想定できることなので、留意すべき課題でしょうね。

 

二宮: JTBはパラスポーツに積極的に取り組まれています。国内のパラスポーツを観戦に行かれることも?

青木: ええ。今年3月に天王洲公園で行われたブラインドサッカーの国際大会を観に行きました。その日はあいにく雨で、選手たちは雨の中、音が満足に聞こえない状況でもプレーしている。音を頼りにしているスポーツなのに、本当にすごい。スーパーマンかと思いました(笑)。

 

伊藤: ブラインドサッカーは国内で行われる大会の観戦チケットを有料で販売しています。

青木: とてもいいことですね。むしろ、そうでなければ国を代表して戦っている人たちに対して失礼だと思うんです。それにお金を払って観るだけの価値がある質の高い競技です。東京パラリンピックでも有料入場者でどれだけスタジアムを埋めるか、テレビの視聴率を高めていけるか。その努力が必要だと思います。

 

二宮: おっしゃるように競技の魅力をどれだけメディアが伝えられるかがカギを握るでしょうね。

青木: メディアの力は大きいですね。一方で学校行事などでパラスポーツを体験すべきだと思います。たとえば車椅子の操作を経験すれば、その操作がいかに大変かを知ることができる。自分たちで実際に体験してみないとわからないことはたくさんあると思うんです。

 

 パラスポーツをビジネスに!

 

二宮: JTBがパラスポーツ体験ツアーを組んでも面白いですね。

青木: そうですね。ただそれをツアーにするにはどれだけニーズがあるかということも重要です。だからまず取り組むべきは市場を育てることの方が先だと思います。現時点では商業ベースではないのですが、いずれは堂々とビジネス展開していきたいと考えています。

 

二宮: ビジネスにすること自体が悪いことだと、とらえられる風潮がありますよね。日本の場合はボランティアじゃなければいけない、利益を考えちゃいけない。アンチビジネス至上主義のような発想が未だに残っている。これを変えていかなければいけませんね。

青木: 政府は2025年までにスポーツツーリズムの市場規模を約15兆円に拡大する目標を掲げています。2015年の時点で5.5兆円ですから、10兆円近く上積みする計画です。そのためには新たな市場をつくるしかない。そのためのコンテンツのひとつがユニバーサルツーリズムだと考えています。

 

伊藤: 御社は国民体育大会後に行われる全国障がい者スポーツ大会を2001年からサポートしていますね。

青木: 我々も真剣に会社の事業としてパラスポーツの訴求を通じてユニバーサルツーリズムに取り組んでいます。超少子高齢化社会の課題の解決策として、今から仕組みをつくっていって、医療費の削減にも貢献しないといけませんよね。

 

二宮: その通りだと思います。現在、日本では健康寿命と平均寿命が10歳ほど違う。そこをどうやって埋めるか。健常者は未来の障がい者という見方もある。その準備をしようと。そのことをきちんと丁寧に説明すればわかってもらえると思うんです。

青木: そうした理解が広がるように我々も協力できたらと思います。

 

伊藤: 2年後の東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機に変わってほしいこと、変えたいことはありますか?

青木: 2020年を契機にソフト面を変えていきたいと思っています。ユニバーサル対応の施設などハード面の変更にはコストも時間もかかりますが、ソフト面はすぐに変えられます。人々の意識を変えるだけですからね。そのためにも若い世代の方々にパラリンピックを経験してもらいたい。実際に見て、感じて、パラリンピックやパラスポーツが日本の社会に必要なものだということを知っていただける大会になればと思っております。

 

(おわり)

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青木尚二(あおき・ひさじ)プロフィール>

1957年11月7日生まれ。福岡県出身。81年、明治大学商学部卒、日本交通公社(現JTB)入社。06年の分社化後、JTB中国四国の営業企画部長、山口支店長、広島支店長などを経て、13年4月にはJTB中国四国社長に就任した。15年4月よりJTBの執行役員、スポーツビジネス推進室長、東京オリンピック・パラリンピック推進担当を務める。


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