ロシアW杯開幕2カ月前に衝撃的なニュースが飛び込んできました。日本サッカー協会(JFA)は日本代表の指揮を執っていたヴァイッド・ハリルホジッチを解任し、後任に西野朗技術委員長を指名しました。果たして、このタイミングで良かったのか、どうなのか……。

 

 西野監督もこの短期間でチームを立て直すのは難しいはずです。協会側の判断は決して褒められるものではない。前回、当コラムで「選手と監督がぶつかった方がいい」と書きましたが、協会と監督がぶつかり、泣き別れになってしまいました。解任するのであればもっと早く決断すべきだったのではないでしょうか。

 

 解任の理由は「コミュニケーション不足」と「ベルギー遠征後、信頼関係が薄くなった」とのことです。3月のベルギー遠征後、選手たちからゲームコンセプトに関する不満が出てきたのは確かです。不満分子にうまく対処できなかったのではないでしょうか。僕もアメリカW杯アジア最終予選を経験しましたが、その時の“ドーハ組”は最終的に「(監督のハンス・)オフトを男にしよう」と結束しました。当時はラモス瑠偉さんというリーダーがいました。一番、オフトとケンカをしていたラモスさんが、監督と話をすることによって和解した。それでラモスさんを中心にチームがまとまったんです。今回はチームにこういう存在がいなかったのかなと思います。1つになりきれなかったのはハリルホジッチ1人が悪いとは思いません。選手側にも責任はあると思います。

 

 後任人事については、西野監督しか選択肢がなかったのが正直なところでしょう。就任会見では「日本人らしいサッカー」「できれば攻撃的にいきたい」と語っていました。時期も時期です。西野監督は開き直って、自分のプランを押し付けてもいいのではないかと思います。大会直前の就任だと、どうしても個の能力に頼る場面も出てくると思います。「オレはこういうサッカーをしたいんだ」と押し切ってもいいような気がしますね。

 

 有事の際の今野!?

 

 JFAも選手も今回のドタバタ劇で多少混乱はしているでしょう。僕はメンバー選考については1つ提案があります。それは“精神的支柱枠”を設けることです。過去、日本代表は2002年日韓W杯で秋田豊、中山雅史、2010年南アフリカW杯では川口能活がメンバー入りしました。彼らはサブとして、またベテランとしてしっかりとメンバーを盛り立ててくれた。チームの結束力を高めることに一役買った存在です。

 

 今回こそ、サブに経験のあるベテランが入る必要性を感じます。西野監督、コーチの森保一も急遽の人事。全てに手が回るとは限らない。そういったときに効力を発揮するのが、プレーイングマネジャー的な選手です。川島永嗣、長友佑都、長谷部誠ら年齢を重ねた選手もいますが、彼らはスタメンが有力。1カ月間は長い。サブ組の選手は試合に出られないことでフラストレーションも溜まってくると思います。試合に出続けている選手になだめられても、あまり効果がない。同じサブのベテランがうまくコントロールすることでチームの空中分解を防げるはずです。

 

 選手をなだめるだけでなく、西野監督と話ができる存在がうってつけです。今の日本人選手の中ではガンバ大阪の今野泰幸が適任なのではないかなと思います。彼ならば西野監督がG大阪で指揮を執っていた時期にプレーしています。W杯も経験している。今野がサブながら黙々と試合のために準備をする姿を若手が見たら「オレたちもやらなくちゃ」となるでしょうね。右足首痛も癒えて、27日のチーム練習をフルで消化したみたいです。今野のような存在の有無が、日本代表がグループリーグを突破できるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。

 

 ロシアW杯まで残された時間は短いですが、その中でもやれることはあるはず。選ばれた選手たちにはあきらめることなく、全力で戦ってほしいものです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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