この試合を勝ちきることができたら、そのまま勢いに乗って三連覇は確実だな――。少々気が早いが、そう思って見ていた。5月6日の広島-東京ヤクルト戦である。

 

 2-1と広島リードで迎えた9回裏。カープのクローザー中﨑翔太は簡単に2アウトを取って2死無走者。

 

 ここでヤクルトは代打・大引啓次である。正直、勝ったと思った。大引は今季ここまで5打数0安打。2-1の1点差ゲームを中﨑で締めて勝てば勢いに乗るでしょう。ところが中﨑の2球目は、ストレートがシュート回転してど真ん中に。大引、起死回生の同点ホームラン。これが石井琢朗の知力なのか宮本慎也の洞察力なのかは知らないが、とにかく代打・大引が中﨑の失投を引き出したのである。

 

 ところが延長10回表。カープは2死無走者から菊池涼介の二塁打、サビエル・バティスタのセンター前タイムリーで3-2と勝ち越す。強い! これで勝てば、やっぱり今季も一気にいけるだろう。

 

 ところが……。10回裏、今村猛が8球連続でボールを投げて無死一、二塁。急遽代わった一岡竜司は2死までこぎつける。ただし、2人目の打者・西浦直亨のとき、5球目に投げたフォークが大きく高めに抜けている。そのあとはストレートを2球続けて三振にとっている。

 

 次打者・川端慎吾がこれを見逃すわけがない。見え見えの初球ストレートを、思い通りにセンター前へ同点タイムリー。

 

 これでカープがさらに11回表に勝ち越せれば、本当に強いチームだが、さすがにそうは問屋が卸さない。

 

 3-3で同点の11回裏。続投の一岡は2死まで取ったが、古賀優大に四球。このときの6球目、四球となったストレートは高めに大きく外れている。回またぎの疲労、積年のリリーフ登板の勤続疲労が透けて見えるようなボールだった。

 

 結局、続く坂口智隆に二塁打を打たれてサヨナラ負け。ダメージの残る敗戦である。この試合を勝ちきれないということが、今季の何かを象徴しているというか。

 

 誰が悪いというのではない。毎度おなじみ中﨑、今村、一岡、この日も8回に登板して抑えたジェイ・ジャクソンを含めて、そりゃ疲れもたまるだろう。

 

 誰か、救世主はいないのか。

 

 実は、いたのである! 5月4日のヤクルト戦。0-8と大敗した試合、8回裏に敗戦処理としてプロ入り初登板を果たした右腕。長井良太。

 

 つくば秀英高校からドラフト6位で入った高卒2年目である。

 

 1球投げたとき、わが目を疑った。速い。1年目のキャンプでは、たしか、こんなに速い球は投げていなかったと記憶するが。

 

 この日、打者一人に対して投げたストレートは3球。球速は151キロ、151キロ、154キロである。あとは落ちるボール(たぶんフォークでしょう。スライダーかもしれないが)。

 

 これですよ。150キロを超えるストレートと落ちる球で打者をねじ伏せる。まさに、クローザーの素質ではないか。

 

 思わず夢想する。あの川端のところで、長井に代えていたら、どうなったのだろう。

 

 もちろん、敗戦処理と一打同点、サヨナラのかかったセーブ機会では、あまりにも場面が違う。ボロクソに打たれたのかもしれない。

 

 しかし、修羅場は経験しなければ、しのげるようにはならない。

 

 もしかしたら、彼は疲労感とマンネリ感のあるリリーフ陣の救世主になれるかもしれない。

 

 無死満塁とか1死満塁のピンチを、なぜか不思議と無失点で切り抜けるクセ者・アドゥワ誠と、快速球の長井。この2人が、カープのリリーフ陣を救うカギなのではないか。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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