(写真:7度防衛したスーパーフライ級から転向し、バンタム級王座に挑戦する井上)

「強い選手と闘う。弱い選手とは闘わない」

 デビュー前から、そう公言し実行してきた“モンスター”井上尚弥。

 

 今年に入ってWBO世界スーパーフライ級王座を返上した彼は、バンタム級転向を表明し、5月25日、大田区総合体育館で3階級制覇に挑む。相手はWBA世界バンタム級王者のジェイミー・マクドネル(英国)。「打たせずに打つ」ボクシングスタイルを確立し、これまでに6度の王座防衛を果たしている32歳の技巧派チャンピオンだ。

 

 戦前の予想は井上が圧倒的優位。

 これに異論を唱えるつもりはない。私も井上のパワフルなパンチは階級を1つ上げても健在だと思う。むしろ無理な減量から解放されることで、勢いが増すのではないか。持ち味のスピードとパワーで序盤から主導権を握り、マクドネルの堅い防御を打ち破る。6ラウンドまでに仕留めるのではないかと私は予想している。

 

 そして井上は、すでに、その先を見据えている。

『WBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)』への参戦だ。

 

 現在、プロボクシングのメジャー団体は4つある。WBA、WBC、IBF、WBO。各々の団体が王者を認定しているため各階級の世界チャンピオンが複数存在してしまう。それでは誰が最強なのかが、よくわからない。ならば、チャンピオンたちがトーナメントでぶつかり合って“リアル・チャンピオン”を決めようじゃないかという主旨で開催されるのが『WBSS』なのである。

 

 賞金総額5000万ドル(約54億7000万円)、優勝賞金1000万ドル(約10億9000万円)というスーパーイベントの1stシーズンは、クルーザー級、スーパーミドル級の2階級で行われた。そして今秋に開幕する2ndシーズンでは、バンタム級において8選手参加のトーナメントを挙行すると5月9日、英国ロンドンで発表されている。

 

 “リアル・チャンピオン”決定戦

 

 すでに3選手の出場が決まった。

 WBA世界スーパー王者のライアン・バーネット(英国)、WBO世界王者のゾラニ・テテ(南アフリカ)、そしてIBF世界王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)。ここにマクドネルvs.井上の勝者にオファーがかかることは、まず間違いないだろう。もし主要4団体のチャンピオンがトーナメントに参加するならば、優勝者が4団体統一の“リアル・チャンピオン”となるわけである。

 

 マクドネルを破り、この『WBSS』に参戦したならば、それは、ここまで無類の強さを発揮してきた“モンスター”井上にとっても、決して楽な闘いではない。だが、それは望むところなのだろう。

 

 井上は言う。

「まずは次の試合に勝つことが大切ですから、いまはマクドネル戦に集中しています。でも、ジムにも『WBSS』の話はきているみたいですね。勿論、出たい気持ちは強くあります」

 

 予定では今秋にトーナメント1回戦、来年1月に準決勝、そして5月に決勝が開かれることになっている。戦場は、すべて海外になる模様。

 スーパーフライ級時代、強過ぎるあまりに他団体の王者から対戦を拒まれ続けてきた井上が、真価を発揮する舞台がようやく整えられつつある。

 1回戦は、ランカーとの対戦になるが、準決勝以降に、井上vs.テテ、井上vs.ロドリゲス、井上vs.バーネットのいずれかが実現する可能性が極めて高い。胸が高鳴る。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


◎バックナンバーはこちらから