(写真:レブロンは孤軍奮闘するも、キャブズはセルティックスに2連敗を喫した Photo By Gemini Keez)

 昨季まで3年連続でNBAファイナルに進んだクリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)がピンチを迎えている。現在行われているイースタン・カンファレンス・ファイナルでボストン・セルティックスに2連敗。特に第2戦では大黒柱のレブロン・ジェームズが42得点、10リバウンド、12アシストと大爆発したが、それでも勝てなかった。

 

 波乱のシーズン

 

「(2連敗のおかげで)睡眠不足になったりはしない。今後のゲームですべてを出し切れば問題はない。セルティックスにとってはホームコートを守ることが重要で、それを実行しただけのこと。次は僕たちがやる番だ」

 試合後にレブロンがそう語った通り、キャブズは第3、4、6戦を地元でプレーできる。ただ、例えそこで全勝しても、今プレーオフ中はセルティックスが9勝0敗と圧倒的な強さを誇るボストンで1勝しないとシリーズを勝ち抜けない事実に変わりはない。レブロンは去年まで7年連続でファイナルに進んできたが、その記録継続に暗雲が立ち込めてきたと言っていい。

 

 ここに至るまで、今季のキャブズは波乱のシーズンを過ごしてきた。1月に6勝8敗と苦しむと、2月にアイザイア・トーマス、ドウェイン・ウェイド、デリック・ローズといったビッグネームを次々と放出。代わりにジョージ・ヒル、ロドニー・フッド、ラリー・ナンス・ジュニアといったロールプレーヤー加え、シーズン途中に新たなチーム作りを目指すという大胆な方向に舵を切った。

 

 結局はイースタンの4位に終わるが、それでも今季もMVP級の働きだったレブロンを軸にシーズン最後の15戦で11勝。プレーオフでも第2ラウンドでは第1シードのトロント・ラプターズに4連勝し、4年連続のイースタン制覇に向けて視界良好と思えた。ところが――。

 

(写真:セルティックスを導くスティーブンスHCの手腕への評価は高まる一方だ Photo By Gemini Keez)

 カンファレンス・ファイナルの最初の2戦では、セルティックスの流麗なチームプレーとハッスルプレーがキャブズを完全に上回っている。知将ブラッド・スティーブンスHCの下で、ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウン、マーカス・スマートといった若い選手たちがのびのびと躍動。カイリー・アービング、ゴードン・ヘイワードといったスターをケガで欠いていることを考えれば、セルティックスの頑張りはほとんど驚異的である。

 

「私たちより彼らの方がタフにプレーしている。彼らの方がフィジカルだから、それに適応していかなければいけない」 

 第2戦後にティロン・ルーHCが述べていた通り、急ごしらえのキャブズにはタフネス、ケミストリーといった要素が決定的に欠けている。スーパースター不在のチームがファイナルまで辿り着くのはNBAでは滅多にあることではないが、ここまで来れば、リーグ最大のサプライズチームになったセルティックスがイースタンを制しても驚くべきではない。そして、そうなった場合、キャブズは極めて不確かな未来に直面することになりそうだ。

 

 エースの去就

 

(写真:キャブズの背番号23はしばらく見納めになるのか Photo By Gemini Keez)

 今オフ、3500万ドルのプレーヤーズオプションを持つレブロンが再びFAになる権利を得る。2年前に地元チームのキャブズを悲願の初優勝に導き、もう故郷でのやり残しはない。現在のキャブズにはすでに大きな伸びしろは感じられないだけに、まだ全盛期に近い力を残した“選ばれし男”がここで次のステップを踏み出すと考える米メディアは少なくない。

 

「レブロンは勝利へのこだわりが強いから、今季のポストシーズンで惨敗した場合、リーグ全体を見渡し、移籍先を模索はするだろう」

 3月中の時点で、ESPN.comのキャブズ番記者、デイブ・マクナミン記者はそう述べていた。FA移籍の候補として、すでにロサンゼルス・レイカーズ、フィラデルフィア76ers、ヒューストン・ロケッツといったチームの名前が挙げられている。33歳になったレブロンにとって、キャリアのこの時点で、大都市チームのレイカーズ、多くの若手タレントが揃った76ersは実際に新天地としては魅力的に見えるに違いない。

 

 近未来を予想するのは難しいが、レブロンの選択と今プレーオフでの結果が密接に関わってくる可能性が高いのは事実だろう。ブリーチャーズレポートのベテラン記者、ハワード・ベックはこう見ている。

「キャブズに残り、また優勝が狙えると考えれば、故郷のチームから出て行く必要はないと思うはず。移籍すればまた大騒ぎを引き起こすわけで、残留すると考える理由はたくさんある。ただ、残っても勝てないと思ったら、そこで落ち着きはしないだろう」

 

(写真:セルティックスのルーキー、テイタムは20歳の若さに似ぬ冷静なプレーでチームを引っ張っている Photo By Gemini Keez)

 そんな見方が適切だとすれば、イースタン・カンファレンス・ファイナルの第3戦以降はキャブズの今後を左右する戦いになると言っても大げさではない。地元に戻って息を吹き返し、41歳にしてリーグを代表する名将と呼ばれるようになったスティーブンスのゲームプランを打ち破れるか。再びファイナルに進み、レブロンにオハイオでの未来を信じさせることができるか。

 

「(第3戦で)自分たちの真価がはっきりするだろう」

 第2戦後のレブロンの言葉は意味深く聞こえてくる。その真価がエースの望むレベルでなかった場合、今シリーズはボストンで開催される第5戦までに終了する可能性も十分。その際には、第3、4戦こそが、レブロンがホームチームの選手としてクリーブランドでプレーする最後のゲームになるかもしれない。

 

 振り返ればキャブズは2009-10シーズンにもカンファレンス・セミファイナルでセルティックスに2勝4敗で敗れ、その後にレブロンはマイアミ・ヒートへの移籍を決断したのだった。時は流れ、歴史は繰り返すのか。レブロンはどこまで勝ち進み、敗戦後には何を語るのか。ドラマチックな予感とともに、今季のイースタン・カンファレンスのクライマックスは間近に迫っている。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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