(写真:ザ・ロイヤルGC名物、ゲストハウスのプリンで小休止の元チェアマン。「美味しくて元気が出る」と好スコアの予感?)

 

「世界へ発進! 脱日本式ゴルフのすすめ」ではザ・ロイヤル ゴルフクラブ(ザ・ロイヤルGC・茨城県鉾田市)を舞台に、ゴルフの新たな楽しみを提案していきます。

 

 今回、全長8000ヤードを超す世界基準のロングコースにチャレンジしたのは川淵三郎さんです。今から25年前、Jリーグの創設に尽力した元チェアマンは今も元気いっぱい。80歳を超えてもゴルフ場通いのペースは落ちていません。「今、82歳。エージシュートなんて簡単ですよ、アハハハ」と豪語する川淵さんは"世界基準"をどう攻めたのか? 早速、レポートしましょう。

 

 バーディスタートも……

「ようやく晴れましたね」

 

 これが朝、クラブハウスに入ってきた川淵さんの第一声でした。というのも川淵さんとのラウンドは、これまで予定していた2度とも悪天候のために流れてしまいました。アウトドアで自然を相手にするゴルフでは仕方のないことですが、3度目の正直とばかりに、この日は穏やかに晴れ渡りました。

 

「最初、ザ・ロイヤルGCに来たときは冷たい雨と風で、どうにかハーフはプレーしましたが、午後はプレーせずにラウンジ(THE BAR)にいました。プレーはできなかったけど、それも悪くなかったですよ。というのもここのラウンジは木のぬくもりが感じられる床材や内装で非常に落ち着くんです。プレーできなかった悔しさなんて、ラウンジでゆったりしているうちに忘れちゃいました」

 

 川淵さんのゴルフ歴は、34歳でサッカーの現役を退いた後、古河電工の営業マンとして奮闘していた時代から始まりました。それから半世紀近く経った今もゴルフへの情熱は衰えていません。ラウンジのモーニングコーヒーもそこそこに、早速、コースへと向かいました。

 

(写真:左からトップリーグ事務局長・田口禎則氏、日本サッカー協会元会長・大仁邦彌氏、川淵氏、鈴木規夫プロ、日本カバヤ・オハヨーホールディングス株式会社・堀井秀則顧問)

 

 この日は10番ホールから始まるインスタート。川淵さんの注目の第一打はまさかのチョロでしたが、"特別ルール"によって打ち直し。その一打もフェアウェイ右側の先にあるバンカーに入ったものの、川淵さんは満足そうでした。

 

「うん、落ちた場所はバンカーだけど気持ち良く飛んでいった。私は友人や親しい人と回るときには、朝一番のティーショットがチョロしたときは打ち直しオッケーと決めているんです。今回は私がチョロしましたが、もちろん同行者がやっても打ち直しです。会社員時代のゴルフもそうでしたが、やっぱり朝は気持ちよくスタートしないと楽しめない。スコアを競う競技ゴルフじゃないから、楽しむために全員が納得していればそういう特別ルールもありでしょう」

 

 打ち直しで気分を良くしたのか、このホール、川淵さんはバンカーからバンカーに渡り歩いたもののナイスリカバリーを見せて3オン。グリーン上では4パターとご愛嬌でしたが、「上出来、上出来」とまずまずのスタートを切りました。

 

 続く11番ホールをパーでまとめ、さらに350ヤード・パー4の12番ホールで2オンするなど川淵さんは朝から絶好調でした。

 

 そして迎えた13番ホール。ここは480ヤードのパー5、池越えのティーショットと右側にあるバンカーが曲者です。ですが川淵さんは池にもバンカーにも惑わされることなくティーショットをフェアウェイのど真ん中に運びました。さらに2打目はグリーンを狙いやすいようにとフェアウェイの右を狙って、ドンピシャリの位置に落としました。3打目でグリーンに乗せた川淵さんは1.5メートルのパットを沈めてナイスバーディ。思わず笑顔がこぼれました。

 

 

 アプローチが冴える

 だが、朝の絶好調が1日を通して続かないことはゴルファーなら誰もが知っていることです。この後、川淵さんはダブルボギーを連発。原因はどうやらパッティングにあるようです。

 

「ザ・ロイヤルGCのグリーンは広くてさらにうねりがあって非常に難しい。それで力んでいるのかパッティングで右手の方が強くて引っかけてしまっている。これはどうにか修正しないと午後、厳しくなるなあ……」

 

 結局、9オーバーの45でハーフを終えました。

 

 後半、川淵さんは1番ホールをパーでスタートしました。幸先の良い後半スタートですが、午前中のラウンドから修正できた秘訣はなんだったのか? 川淵さんは「クラブは軽く振る」というモットーのおかげだといいます。

 

「たとえばアプローチするときに"乗せてやろう"と思うと力が入りすぎる。だから"軽く振る"を意識することでリラックスしてスイングできる。午前中はザ・ロイヤルGCというコースに対して構えたところがあって力んでいた。軽く振ることで午後はいけそうです。でもコースに出ると軽く振ることは難しいんですけどね」

 

 と、言いながら川淵さん、2番ホールの3打目はラフからカップ右1メートルにつけるナイスアプローチを見せました。さらにパー5・478ヤードの3番ホールでは4打目をグリーンエッジまで運ぶなど、アプローチに冴えが戻りました。こうなると残る課題はパッティングだけです。

 

(写真:ラウンド中、鈴木プロから「ヒジは緩めて構える」「ダウンスイングはヘッドの重みで」などレクチャーを受ける)

 こちらも「左手リードを意識した」と午前中の力んでいた右手リードのパッティングを修正。5番ホールは難しい上りラインをバーディ寸前のスーパーパットを見せてパーでまとめました。

 

 こうしてリラックスして回った午後の9ホールは4パーの44。トータル1バーディー7パーの89でホールアウトしました。御年82歳の川淵さん。残念ながらエージシュートは果たせませんでした。

 

「80歳を過ぎてから"エージシュートなんて年に10回くらいできる"と思っているんですが、やっぱりなかなか難しいですね」

 

 ちなみにエージシュートとは年齢の数字以下でラウンドすることです。川淵さんは5年前、77歳で初めてエージシュート(スコア75)を達成しています。

 

「この長いザ・ロイヤルGCをエージシュートで回れたら、そりゃうれしいでしょうね。今日、初めて回って89。3パットまではしょうがないけど、4パットが何ホールかあった。それをなくせば……」

 

 どうやら次なる目標は"世界基準"を標榜するザ・ロイヤルGCでのエージシュート達成に定めたようです。

 

 

 ミズノOPで見たいプロの攻め

(写真:ザ・ロイヤルGCのラウンジTHE BAR。「木のぬくもりが感じられる」と川淵さんもお気に入り)

 ラウンド後、話を伺いました。

 

--ようやくフルで回れたザ・ロイヤルGC、ラウンドして感想は?
「距離が長くて厳しいコースと聞いていたけど、実際にプレーしたらとにかく広々としていてフラットでとても気持ちいいコースでした。ドライバーが気持ちよく打てて、広大というよりも雄大なコースですね。セコセコしたところがなく、ゴルファーを罠にはめてやろうなんていう意地の悪さはなくて、真っ向からゴルフが楽しめました」

 

--難しかったのは?
「やはりグリーンが難しかった。ホールによっては2段グリーンもあるから、ただ乗せるだけではパットで苦労する。しかも上り下りがあってうねっているし、芝のスピードも早い。トーナメントではもっと早くなると思うと、プロの攻め方を見てみたいですね」

 

--5月24日~27日には国内男子ツアーのミズノオープンが開催されます。
「どんなスコアが出るのか楽しみです。ゴルフはプレーするのも好きですが、テレビで見るのも好きなんですよ。特に自分がプレーしたコースだと尚更です。ザ・ロイヤルGCをラウンドして長さと難しさを感じたから、ミズノオープンでプロがどう攻めるのかが早く見てみたい。ティーショットはもちろんアプローチの落とし所など、アマチュアの私じゃ考えもしないような攻め方があるんでしょうね。日本で例のない8000ヤード超のコースですから、もしかしたら日本のゴルフが変わるきっかけになるかもしれない。今から楽しみですね」

 

--プレーヤーとして見て、ザ・ロイヤルGCの魅力はどこにありますか?
「6カ所用意されたティーグラウンドです。このコースは距離が長く、戦略性の高いコースです。難易度もそれなりに高い。でも一番前のティーから打てばビギナーでも楽しめるし、フルバックからなら上級者でも今までにないゴルフを体験できるでしょう。練習してまた来たくなるコースですね」

 

 最後に川淵さんはゴルフの魅力をこう教えてくれました。「いくつになっても楽しめる。そしていくつになっても上達できる。それがゴルフのいいところでしょう」。笑みを浮かべる川淵さんの頬を鹿島灘からの海風がそっとなでていきました。

 

 

<川淵三郎(かわぶち・さぶろう)プロフィール>日本トップリーグ連携機構会長
1936年12月3日、大阪府高石市生まれ。高校時代からサッカーを始め、早稲田大学、古河電工で選手として活躍。64年に出場した東京五輪をはじめ日本代表通算68試合、18得点。70年に現役を引退し以後、古河電工コーチ、同監督、日本代表監督を務めた。91年3月、日本サッカー協会プロリーグ設立準備室長、同年11月チェアマンに就任し93年5月開幕のJリーグ設立に奔走した。現在は日本トップリーグ連携機構会長。ゴルフは現役引退後、古河電工営業マン時代から始め、ベストスコアは70。2013年、77歳でエージシュート(スコア75)を達成。得意なクラブは7番アイアン。「クラブは力を入れず軽く振ること」をモットーにしている。

 

(取材・文/SC編集部・西崎暢之 写真/ザ・ロイヤルGC、SC編集部 監修/二宮清純)


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